シナリオ☆おひとり雑技団

過去のシナリオ置き場です。無断転載はお断りしています。感想などはどんどん受付けています。

20枚シナリオ『死』

「屠所の羊は眠らない」

 

★人物

諸岡 雁(25)刑務官

諸岡 愁(20)諸岡の弟

五藤 すず子(57)死刑囚

木原 昭三(43)刑務官

 

 

○一軒家・諸岡家・居間(朝)

   テレビで天気予報が流れている。

諸岡雁(25)が立って歯磨きをし ながら、テレビを眺めている。

バタバタと足音が聞こえ、慌ただしく

居間に入ってくる諸岡愁(20)。

愁「やっべぇ、寝坊~。おはよ、兄貴」

雁「(呆れて)お前、間に合うのかよ」

愁「(舌を出して)ぎりぎり」

雁「学費払ってやってんだから、サボんなよ」

愁「分かってるって。今日、晴れ? 雨?」

雁「予報では曇りのち晴れ。でも、折り畳み傘は持っていけ。天気予報なんてアテにできん。朝の星座占い並に外れるんだ」

愁「あ、おとめ座、何位だった?」

雁「だから、当らないって言ってんのに」

 

○東京拘置所・外観

 

○東京拘置所・独房内

   白い浴衣姿の五藤すず子(57)が正座して、小さなテレビで映画を観てい

   る、黒沢明監督の白黒映画だ。

   刑務官の制服を着た、厳しい顔つきの雁が見回りするのが独房から覗ける。

すずこ「諸岡先生の弟さん」

   雁、ぴたっと止まり、すずこを見る。

すずこ「(テレビをみたまま早口で)愁君、

学校行っておりませんね。いつものアル

バイトに加えて、少し時給の高い引っ越

し屋でも働いております。お金にお困り

でいらっしゃるのですね」

雁「……誰に聞いた。気味が悪い」

   すずこ、指で窓の外を指す。

すずこ「諸岡先生をお救いするよう言い遣っ

たのですよ。私は悩めるアリ人を救うために存在しておりますから」

   すずこ、首だけ回して雁を見る。

   すず子は真顔のまま、またテレビを見る。すずこを気味悪そうに見る雁。

 

○同・刑務官控え室(夕方)

   机に向かって事務作業をしている雁。

   木原昭三(43)が手に持っている書類を雁の机に置く。

雁「(うんざりした顔で)またですか」

木原「若いうちに苦労しとけって。じじいに

なっても続けていけるようになるから」

雁「木原さんみたいになれと?」

木原「がははは。悪くないだろ?」

雁「(ふてくされ)絶対嫌ですよ」

木原「お前、さっき祈祷師に話しかけられて

たな。聞いたらいけないぞ、まさか、信じていないよな?」

雁「五藤すずこですか。……当然ですよ。祈祷師っていうか、詐欺師で殺人鬼で、気持ち悪いばばあじゃないですか」

木原「がははは。刑務官の中にはあいつの予言をアテにするバカもいるらしいぞ。詐欺師は相手に取入って心の隙間に入り込むプロだからな」

雁「本当にあいつが占い師なら自分の死刑決行日も分かるんですかね?」

木原「どうだろうな。俺たちだって朝一番に知らされて凹むっていうのに、事前に分かってたら気が狂うんじゃないか」

 

○東京拘置所・独房内(夜)

   薄い布団の上、正座して、窓を見上げているすず子。表情はない。

 

○一軒家・諸岡家・居間(夜)

   ソファの上で眠っている愁。

   雁が愁に毛布をかけようとすると愁が

目覚めて笑う。

愁「やべ。寝てた?」

雁「お前、バイト増やした?」

愁「え? あ、うん」

雁「まさか引っ越し屋?」

愁「何だよ、見てたの? 声かけてくれよ」

雁「え? 本当にそうなのか?」

愁「あ、ああ。先週から派遣短期で、サカ

イで週2シフト入れてんの。きつくて」

   雁、黙り込んでいる。

 

○東京拘置所・独房内

   すず子、正座して文庫本を読んでいる。

   その前に立っている雁。

雁「五藤、お前は手紙も接見も一切ないのに、どうやった。どうして俺の弟のことを」

すず子「さ来月の11日、関東で大きな災害がございます。ここも被災します」

雁「いきなり何だよ」

すず子「弟さんは来月東北旅行に行く計画を立てています。交際している女性とドライブに行くのです。残念ながら、弟さんはその女性を助けるために水死します」

雁「や、やめろ」

   すず子、顔をあげて、雁を見る。

すず子「信じていらっしゃらないんでしょう? 何を怯えているんですか」

 

○一軒家・諸岡家・居間(夜)

   テーブルの上に置かれた東北観光の

パンフレットを、雁が手に取る。

お風呂上りの愁が居間にやってきて、

愁「あ、それ、いいっしょ」

雁「……これ、いつ行くんだ」

愁「3月。バイト代ためて、彼女と」

雁「……やめろ」

愁「え?」

雁「やめろ。……俺がもう少し金出してやるから、行くなら沖縄にしろ。それか、

 2月にしろ」

愁「いや、彼女の地元なんだって。だから」

雁「か、彼女の家族も一緒に旅行に行けば

いい、そのほうが」

愁「どうしたんだよ、兄貴。最近変。どうしちゃったんだよ」

雁「だよな。俺、おかしいよな」

愁「うん。まあ、いいよ。兄貴は迷信とか

信じない代わりに、大体正しいし」

 

○東京拘置所・刑務官控え室

   ソファに座って雑誌を読んでいる木原。

   段ボールを運んでいる雁。

   部屋が大きく揺れ、雁は体勢を崩し、

   段ボールが手から落ちる。

木原「地震か?! 何だ、この揺れは」

   雁、はっと顔をあげると、壁に手をつ  

   きながら、部屋を出る。

 

○同・独房内

   他の独房内からざわめく声が聞こえている中、静かに窓を見ているすず子。

   雁がよろよろと独房の前に来る。

雁「五藤、お前が言っていたのは……」

すず子「日本は大きく変わりますよ。人々は

 絶望し、悲観的し、経済も滞るでしょう」

雁「お前は本物なんだな。本物の」

すず子「残念です。アリ人たちを導き、真の

心の故郷に連れていかねばならないのに」

   雁、その場にうずくまる。

 

○東京拘置所・刑務官控え室(朝)

   雁、カレンダーを新しくしている。

   カレンダーは『2011年5月』。

   雁、スマホを取り出し、メールを見る。

   占いのメルマガを見て、ほっとする。

雁「さそり座は仕事運いいのか」

   木原が部屋に入ってくる。

木原「さっき、聞いたんだが、今日、五藤すず子の死刑が決行される。……俺とお前、

 死刑決行人だそうだ」

雁「え……俺?」

木原「最悪だよ。気分悪いな。こればかりは

 何年働いていてもしたくねえわ」

   

○同・前室

   読経の声が響いている。

   すず子に目隠しの布を巻こうとする雁。

   すず子、雁の手をぎゅっと掴む。

すず子「諸岡先生、あなたが私を殺します」

   雁、目を見開き、固まる。

すず子「あなたの押すボタンで私は死にます」

   雁、手に持っている布を落とす。

   木原、雁に駈け寄る。

木原「五藤、無駄口を叩くな」

すず子「あなたは私を殺しませんね」

   木原、雁の蒼白な顔を見る。

 

○同・ボタン室

   年配の刑務官、木原、雁が、死刑決行のためのボタンを目の前に立っている。

   

○同・執行室  

   踏み板中央に立たたされ、縄を首にかけられているすず子。

○同・ボタン室

   壁の時計を気にしている所長。

   雁、自分を抱きかかえるようにして身体の震えを抑えている。

木原「しっかりしろ、3人でボタンを押す」

雁「違う……俺、俺が五藤を殺す!」

   所長が近づいてきて、雁の肩を叩く。

所長「誰だってそう思うんだ。心を静めろ」

   雁、首を横に振っている。

 

○同・執行室

   絞首され、ぶら下がったままの五藤。

   雁がフラフラと近づいていく。

雁「お前は悪人だったのか、それとも本当の救世主だったのか。俺の弟はあんたのおかげで死なずに済んだ」

   雁、頭を手で押さえてうずくまる。

五藤(声)「あなたに私の死を預けます。そして、私の力も。世の中を正しい方向に導くのも悪しき力に染めるのも、あなた次第です」

   雁、顔をあげる。

   五藤の身体が一瞬はねる。

   雁、目から涙を流しながら頷く。

 

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20枚シナリオ『古傷』

「ダウト・アウト・ダディ」

 

             

★人物

荒谷 直弥(33)(20) 美容師

藤ヶ谷 香澄(33)(20)直弥の元彼

荒谷 いずみ(39)直弥の妻

 

○渋谷・クラブ(深夜)

   大音量の音楽が流れる中、男女が激し

   く踊り狂っている。荒谷直弥(33)

   はカウンターに腰掛け、テキーラを一  

   気に飲み干す。

   藤ヶ谷香澄(33)がカウンターにや

   ってくる。荒谷の横顔をチラッと見る

   と、香澄は慌てた様子で去る。荒谷、

   振り返って、香澄の後ろ姿を見る。

 

○レディースクリニック・外観

   荒谷がドアから出てきて、遅れて、ハ

   ンカチで目を押さえている荒谷いずみ

   (39)が出てくる。いずみの目元は

   赤く腫れている。

荒谷「……もう、やめようか。俺、いずみが

 これ以上苦しむのを見たくない」

いずみ「今まで頑張ってきたのに? 父親

 なりたくないの?」

荒谷「そんなことないけど……こうやって言

 い争いになるくらいなら、俺は」

いずみ「私のせい? 私がこんな年上じゃな

 くて、普通の身体だったら、直弥は苦しま

 なかったよね」

荒谷「だから、俺はいずみのことが心配で」

いずみ「嘘つき! 現実から逃げてるだけじ

 ゃん。あなたが種無しだったら? 検査く

 らいしてよ!」

   荒谷、もっていたいずみの鞄をいずみ

   に押し付けると、去る。いずみ、荒谷

   の後ろ姿をぼーっと見つめる。

 

○渋谷・クラブ(深夜)

   肩でリズムを取って踊っている荒谷。

   露出した服を着た若い女が声をかける。

女「お兄さん、3万でいいよ」

荒谷「は?」

女「相手探してるんじゃないの? 私、ピル

 飲んでるから、色々面倒もないしさ」

荒谷「うるさい、消えろ」

   直弥、女の腕を振り払う。

女「何よ」

   女、荒谷の脛を蹴って、去る。荒谷、

   うっと屈み、脛をさすっている。

   ピンヒールの赤い靴が目の前に見える。

香澄「あなた、大丈夫?」

   顔を上げて、荒谷、驚いた顔。香澄、

   はっとして去ろうとするが、荒谷が、

   香澄の腕を掴む。

荒谷「逃げんなよ」

   香澄、ゆっくりと振り返る。

香澄「……久しぶり、やね」

 

○居酒屋(深夜)

   カウンター席で並んで酒を飲んでいる

   荒谷と香澄。香澄、赤い顔。

香澄「へえ、姉さん女房かー……意外やわ」

荒谷「お前はどうなん?」

香澄「結婚してる女がクラブで踊りまくって

 たら、それはどうなん?」

荒谷「そんなん言ったら、俺アウトやん」

香澄「男の人は仕事の付き合いとか言うて、

 ほんまは遊んでたりするんやろ?」

荒谷「その言い草、お前、バツついてんな」

香澄「バツ3、子供5人」

荒谷「え?!」

香澄「アホ。傷一つない綺麗な身体やわ」

荒谷「(まじめな顔で)それはちゃうやろ」

香澄「(まじめな顔で)……あんたが言うな」

荒谷「俺のせい、やったな」

   香澄、ワインをぐいっと飲み干し、そ

   して、机につっぷす。

荒谷「大丈夫か? タクシー呼ぼうか」

香澄「まだ、全然酔ってへんで?」

   香澄、目を開け、笑う。

 

○路上・タクシー・車内~車外(深夜)

   香澄がタクシーの後部座席でうとうと

   している。隣に乗り込む荒谷。

荒谷「(運転手に)笹塚まで」

香澄「(はっきりした声で)あ、降ります」

   香澄、荒谷の腕をとり、車外へ。

   タクシー、去っていく。   

荒谷「(呆れて)何考えとんねん」

香澄「私達さ、あんなことがなかったら、付

 き合ってたよね……結婚してたかも」

荒谷「そんな、たらればの話されても」

香澄「……たらればに、せえへんかったらえ

 えやん」

   香澄、荒谷に近づくと、唇を激しく吸

   う。荒谷、驚き、香澄の身体を引き離

   す。香澄は構わず荒谷の首に手を巻き

   つけ、再び荒谷に口付ける。荒谷も、

   香澄の腰に手を回し、それに応える。

 

○ラブホテル・部屋の中(深夜)

   ベッドの上、裸の荒谷と香澄が肩を並

   べて仰向けに横たわっている。

香澄「私ね……」

荒谷「何?」

香澄「何でもない」

荒谷「言いや」

香澄「ほんまはな……産みたかった。怖かっ

 たから、逃げたけど、直弥の子供、欲しか

 った」

荒谷「すまんかった」

香澄「昔の話や、もう……何なら、今から作

 る?」

   荒谷、香澄の上に覆いかぶさる。

 

○マンション・荒谷家・リビング(朝)

   ソファの前で膝を抱えて座っているい

   ずみ。うとうとしている。

   テーブルの上の携帯電話に手を伸ばし

   て、荒谷に再び電話をかける。

   いずみ、応答がないが、そのまま携帯

   電話を耳にあてて、ぼーっとする。

 

○渋谷・美容院・内

   15席ほど椅子があり、すべて客で埋

   まっており、スタッフが忙しなく動い

   ている中、客の髪をカットしている荒

   谷。いずみがドアを開けて入ってくる。

スタッフ(女)「いずみさん、今日予約入ってましたか?」

いずみ「(近づき)あなた? 直弥に手を出してるのは?」

   直弥が気がつき、顔をあげる。

スタッフ(女)「店長、いずみさんが……」

   荒谷、駆け寄ってきて、いずみの腕を

   取り、自分に引き寄せる。

荒谷「(スタッフたちに)ちょっと、悪い、

 外出てくる」

   荒谷といずみが店の外へ。

   スタッフたち、顔を見合わせる。

 

○渋谷・路上

   木陰で立って向かい合っている荒谷と

   いずみ。いずみ、俯いている。

荒谷「……悪かった。連絡もしないで……

 昨日はちょっと帰りたくなかったから」

いずみ「やっぱり年下の若い女の子のほうがいいんでしょ。どの子と浮気してるの?」

荒谷「(遮って)いい加減にしろ。職場に波風立てるとか、最低だぞ」

いずみ「ご、ごめんなさい。でも、私は赤ちゃんが欲しいの。幸せな家庭にしたいの。それだけなの!!」

   いずみ、持っている鞄で荒谷の胸元を

   殴り、そして、肩を下げて帰っていく。

   

○渋谷・美容院・内(夜)

   スタッフの女が花束を持って笑ってい

   る。スタッフたち、荒谷がそれを囲ん

   で拍手をしている。

スタッフ(男)「元気な赤ちゃん産めよ」

スタッフ(女)「ありがとう」

   荒谷、スタッフの膨らんだ腹を見る。

 

○路上(夜)

   携帯電話を耳にあてながら歩いている

   荒谷。

荒谷「……香澄、会いたい」

香澄(声)「私も。今から、来て」

荒谷「今から? 分かった」

   荒谷、きびすを返して駅に向かおうと

   する。角を曲がると、いずみが立って

   いる。

   いずみ、空ろな目で荒谷を見つめ、そ

   して笑う。

いずみ「行けば? 行きなさいよ」

荒谷「つけてたのか?」

いずみ「でも、私、絶対別れないからね。私

 はあなたの赤ちゃんを絶対産む。幸せにな

 るの……絶対」

荒谷「もう、やめてくれよ……俺は種なしな

 んかじゃない……それに種馬でもない」

いずみ「あ、あれは言い過ぎたけど、で

 も、夫婦の大切な問題に向き合ってくれて

 ないから」

荒谷「……そうだな、でも、俺は、子供の父

 親にはなれそうにないよ。ごめん」

   いずみ、その場に泣き崩れる。

   荒谷はいずみの横を歩いていく。

荒谷「もう、面倒なことはこりごりだ」

 

○渋谷区役所・外

   荒谷といずみが出てくる。

いずみ「じゃ」

荒谷「今までありがとう」

   いずみ、去っていく。

 

○渋谷・カフェ

   お腹のふくれた香澄が幸せそうに腹を

   触っている。

香澄「もうすぐ、パパが来るからね」

   カフェの外から香澄を見ている荒谷。

荒谷「……これで良かったのか?」

   香澄、荒谷に気がつき、手を振る。

   荒谷、ぎこちなく笑顔を浮かべる。

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コンクール

最近、少しだけ、コンクールの通過率が高まった




シナセンのS1グランプリでは、三次通過できた、一年ぶり




はじめて挑戦したヤンシナで一次通過。



テレ朝、TBS、NHKと、大きめコンクールで一次通過したことなくて




すごく嬉しかった



ラジオドラマはおおむね一次通過できるけど、母数の問題なのだと思う



コンクールの相性はあるのかな?



2015/1から、シナセン通信をはじめて、


今は通信の研修科中期にさしかかっている


年内には研修科は卒業できそう



課題をかくペースが早いから、これくらいは誰にでもやろうと思えばやれるのだろう



ライターズバンクに登録する、という目標は先月達成できた




シナリオコンクールでの賞を三年以内にとりたい



とる。




強い意思をもって

継続的な努力をして

励ましあえる前向きな仲間をみつける



しか、夢をおいかけて、

夢を叶える方法はないのかな?



Twitter で絡んでいるシナリオ関係のひとのつぶやきにはいつも鼓舞されて、たまに凹んで




この夢は、わたしの人生ではじめて、本気で手にしたいとおもえたことだから




大事にしたいな

20枚シナリオ『ヒモ』

 

台詞なしのシナリオです。。

 

『痩せても枯れても』

 

★人物

本郷 岳史(33)(38)役者崩れのヒモ

行平 佑香(45)岳史の寄生相手

有栖川 セリヤ(35)岳史のヒモ友

佐藤 保(43)(48)劇団『流星』演出家

綾野 ヒカリ(35)劇団『流星』俳優

ハローワーク職員

 

○マンション・佑香の部屋・ベランダ(朝)

寝癖のまま、パジャマ姿で、タバコを吸っている本郷岳史(38)。

ベランダの下には、黒いスーツ姿のサラリーマンや学生たちがそれぞれの行くべき場所に向かう姿。

彼らを憐れむように見ながら、『ゲゲゲの鬼太郎』の歌の1番を何気なく口ずさむ本郷。

 

○同・リビング(朝)

  台所に立ち、フンフンと歌う本郷。

  コンロの火をつけ、ポットで湯を沸か

す本郷の手元。

  チェストの上には、写真立て。

写真には、微笑んでいる本郷、その隣には、本郷に寄り添う行平佑香(45)。

オーディオでクラシックをかける本郷。

本郷、ゆっくりと伸びをした後、テーブルの上のマグカップを手に取り、コーヒーをゆっくり飲む。

テーブルの上のスマホの画面が光る。

本郷は面倒臭そうにスマホを手に取り、メッセージを確認する。

『おはよう!もう職場に着いてるよ、今日のお夕飯は餃子にしようかな☆じゃあ、また後で』

  看護師姿でピースサインをしている佑香の写メ付き。

  無表情のまま、本郷は返信する。

  『おはよう、佑香姫。帰ってくるまで大人しくお留守番しているワン』

  ふうと小さい溜息をつきながら、スマホをテーブルに置く本郷。

 

○ウインズ銀座・売店前

ベンチに腰掛け、手持ち無沙汰にしている本郷。  

  金髪の長髪シャツの胸元をだらしなく

開けている有栖川セリヤ(35)が現

れ、本郷に手を振る。

有栖川はニヤっと手に持っている馬券を本郷に見せつける。

 

○(回想)劇団『流星』・稽古場

  ジャージ姿の本郷(33)と、数人の

役者たちが芝居の稽古をしている。

  髭面の佐藤保(43)が手を叩くと、

  役者たちが佐藤の元に走っていく。

  数人の役者は本郷を見て、不満げな顔

をしている。

 

○(回想)劇団『流星』・稽古場・外

  タバコを吸っている照明スタッフたち。

  本郷が稽古場から出てくると、顔を見

合わせて、稽古場に戻っていく。   

  本郷、溜息をつく。

 

○佑香の部屋・寝室(夜)

   ベッドで眠る本郷と佑香。

  本郷は目を開けて、佑香の髪の毛を触

って、頬にキスする。

  佑香、目を開けて、本郷をじっと見て、

本郷の手をゆっくりどける。

  佑香、本郷に背を向ける。そして、目

を開けたまま、何か考え事をしている。

  本郷、顔を手のひらでこすり、口をと

がらせている。

 

○劇団『流星』・稽古場・外

パーカーを被り、サングラスをかけた本郷が、ウロウロとしている。

稽古場から役者たちが数人喋りながら出てくる。

本郷、慌てて、その場から去る。

 

○線路沿い・坂道(夜)

サングラスを外しながら、坂道を上っている本郷。

肩を落として、溜息をついている。

 

○渋谷・カフェ(夕方)

  テラス席で、長い脚を組んで、サング

ラスをかけている綾野ヒカリ(35)。

  周りの席の女子大生たちがこそこそ言い合いながら、綾野を見ている。

  店に入ってきて、かっこつけている綾野を見て、苦笑いをする本郷。

  綾野、本郷に気が付き、手を挙げる。

 

○佑香の部屋・リビング(夕方)

  ダイニングテーブルに向かって、子宮頸がんの検査結果の紙を見ている佑香。

  紙をぐしゃっと手でつぶし、そして、壁に向かって投げつける。

  佑香、その場に崩れ落ちて、泣く。

 

○渋谷・カフェ(夕方)

   一人席に座っている本郷、残りわずかなコーヒーを飲み切る。 

  テーブルの上には、劇団『流星』の公

演情報のビラ。

  綾野の顔と、隣に主演俳優の文字。

  本郷、深い溜息をつく。

 

○佑香の部屋・リビング(夜)

ダイニングテーブルに向かい合って座っている本郷と佑香。

佑香、検査結果の紙をすっと本郷に

  差し出す。

  本郷、顔をあげて、びっくりした顔。

  佑香、首を横に振って、そして、頭を

下げる。

 

○佑香の部屋・ベランダ(夜)

  月を見上げている佑香。

  扉をノックする音が、佑香、振り返る。

 

○佑香の部屋・玄関(夜)

本郷、肩に、大きな黒いリュックサックをかけて立っている。

佑香、下を向いて立っている。

  本郷、佑香に深々と頭をさげると、ド

アを開けて、出ていく。

  佑香、嗚咽を堪えきれず涙する。   

 

○公園(真夜中)

   外は強い雨が降っており、土が跳ね返る。

象の滑り台の中で雨宿りする本郷、体操座りをして肩を震わせている。

 

ハローワーク・窓口

  眼鏡をかけた、真面目そうな職員、そして、その前でうなだれている本郷。

  職員は重い溜息をつき、首を横に振る。

  本郷の手元にある紙には、「未経験歓迎

   35歳以下募集」と書いてある。

   本郷は、職員に頭をさげて、その場から立ち去る。   

 

○劇団『流星』・稽古場

   佐藤(48)の前で、本郷は土下座している。

   顔を見合わせている役者たち。

   綾野は腰に手をあてて、ふっと笑う。

 

○マンション・廊下・佑香の部屋の前

   佑香の部屋のドアノブに小さな紙袋がかけられている。

   

○線路沿い・坂道

   明るい顔で坂を上っている本郷。

   腕時計を見て、慌ててかけあがる。

 

○駅前・コンビニ(夜)

   カウンターの中で接客している本郷。

   有栖川が若い女を連れて、店に入ってくる。

   本郷、笑顔で有栖川を見るが、有栖川は見て見ぬふり。

   本郷、業務用笑顔に切り替えて、棚からタバコの箱を取り、有栖川に手渡す。

 

○小劇場・外

   劇場の外にチラホラと出ていく客。

   生け垣に座り、劇場を見上げる佑香。

   佑香、劇団のチラシを手に持っている。

 

○小さなアパート・本郷の部屋(夜)

   家具のほとんどない部屋に、薄っぺらい布団が敷いてある。

   段ボールの上にヤカン。

   カップラーメンをすすっている本郷。

   チャイムの音、本郷、顔をあげる。

 

○同・同(夜)

   小さな机の前に座っている佑香。

   本郷は冷蔵庫から缶ジュースを持ってきて佑香にそのまま差し出す。

   飲まずに下を向いている佑香。

   本郷、襖を開け、薄い封筒を取り出し、

   佑香に差し出す。

   受け取り、中身を検める佑香、目を見張る。

   封筒の中には一万円札が十枚と、『健康祈願』と刺繍されたお守り。

   佑香、取り出したお守りを胸に抱き、泣き崩れる。

   本郷、佑香の肩を優しく抱く。

 

○病院・廊下

   本郷、長椅子に座って、手を揉みながら、そわそわとしている。

   手術室には『手術中』の文字が赤く点滅している。

 

○佑香の部屋・リビング

   チェストの上に、佑香と本郷の映っている写真立ての隣に、劇場の前で笑う佑香と本郷の写真立てが飾られている。

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短編シナリオ『アイムテッペンワズ』

『アイムテッペンワズ』

 

★人物表

花村 翠(17)(38)観光推進課のウェブ担当

藤間 文彦(33)観光推進課のウェブ担当

フレッド・ヨハンセン(42)カメラマン

浅田 雛子(25)観光推進課・事務

佐伯 陽平(57)観光推進課・課長

板倉 弘毅(55)雑誌の編集長

花村 泰介(40)翠の父(回想)

 

河口湖・湖畔

   白いワンピース姿の花村翠(38)が湖のほとりで屈み込んでいる。翠、湖に映る自分の顔をじっと見つめ、水面を指先で、ぴしゃんと叩く。水面に映る翠の美しい顔が歪んで消える。

×  ×  ×

湖畔を歩いている翠。

ベビーカーを押す母親と、その横を歩く父親の姿が、翠の目の前にある。その家族から目を逸らす翠。

河口湖の水面が、キラキラ光っている。

タイトル『アイム・テッペン・ワズ』

 

富士河口湖町役場・4階・エレベーター前

   大きなリュックサックを背負ったフレッド・ヨハンセン(42)がきょろきょろしている。

佐伯(声)「えー、このたび、ホームページ

リニューアルの実施にあたり…」

 

○同・同・観光推進課・会議室 

佐伯陽平(57)がホワイトボードの前に立っている。

佐伯「当プロジェクト長を花村さんにお願い

したいと思います」

  翠、ばっと顔をあげる。

翠「わ、私ですか?」

佐伯「サポートは藤間君にお願いしようかな」

  藤間文彦(33)が、顔をあげる。

藤間「…分かりました」

佐伯「花村さんに一任するから、よろしく」

   浅田雛子(25)が手をあげる。

雛子「また翠さんですか?…私もそろそろ」

佐伯「君はまだ経験不足だろ」

   雛子、露骨にふてくれる。

   翠、ちらっと藤間を見る。

 

○(回想)翠の自宅・ダイニング(夜)

   顔にパックを張り付けた翠が、口を開けて立っている。

   テーブルに座って、翠を静かな目で見ている藤間。

翠「な…なんで急にそんな話になるのよ」

藤間「…俺とじゃ釣り合わない…そう思って

いるんじゃないか?」

翠「…まさか」

藤間「翠は綺麗で、仕事もできて。俺はいつ

までも翠のサポートばかり。自分が小さい男だって思うよ?でも、正直しんどいんだ」

翠「…それは私の方が長く働いているからで

…文君がうちに所属されてからずっと頑張っているの、私、ちゃんと分かってるよ?」

藤間「じゃあ、俺が今、翠にプロポーズした

ら、OKする?」

   翠の瞳が揺れ動く。

翠「…それは」

   藤間、静かに溜息をつく。

藤間「ほら見ろよ。俺なんて、そんなもんな

んだよ…5年も一緒にいたのに」

翠「ち、違う…結婚ってすごく大事なことだ

から、すぐには決められないだけ」

藤間「…もういいって」

藤間「…翠には、また、すぐに新しい人が見

つかるよ」

   翠、藤間に近寄り、じっと藤間を見る。

翠「…本気なの?出ていくの?」

藤間「一か月以内には」

翠「…自分勝手すぎる」

藤間「もう決めたんだ」

   翠の顔から、パックが落ちて、足もとに落ちる。

   

富士河口湖町役場・4階・観光推進課

   雛子、愛想笑いを顔中に浮かべている。

雛子「ぱ、パードン?」  

   フレッド、深い溜息をつく。

   佐伯がフレッドと雛子の姿を見つけ、翠に声をかける。

佐伯「花村さん、外国の方。対応よろしく」

  翠、顔をあげる。

  雛子は、佐伯そして翠を睨む。

 

○同・同・同・会議室

   大笑いをしているフレッドと呆れた顔の翠。

翠「若いスタッフを苛めないでください」

フレッド「ソーリー。しかし、ここで、あな

たに会えるとは」

翠は怪訝そうな顔をしている。

フレッド「ウェブページで見ました、あなた

のこと。ミス・富士山、グランプリ」

  翠は顔を赤くする。

翠「何年も前のものですから…!」

フレッド「一目で分かりました。何で恥ずか

しい?グランプリ、すごいことです」

翠「…恥ずかしいじゃないですか…もう、こ

んな年なのに」

フレッド「日本人は、年齢を重ねてこそ磨か

れる美しさを評価していないように思います。…何を卑屈に思うことがありますか」

翠「…卑屈」

   フレッドは、ジャケットの胸ポケットから名刺を取り出し、翠に手渡す。

フレッド「ウェブページの素材の撮影を任さ

れました。よろしくお願いします」

翠「え、カメラマン?」

フレッド「カメラマンが首からカメラを提げ

ていないとおかしいと言った顔ですね…普段は東京なんですが、こちらには1か月間ほど滞在させていただきます。ミス・富士山、よろしくお願いします」

翠「…東京から…わざわざ…」

フレッド「ミス富士山、そういえば週末は空

いていますか。私と富士山に登りませんか。当然、登ったことありますよね」

翠「…えっと、ありません」

フレッド「ワオ」

翠「というか、地元の人間に限って地元の観

光地に行かないものでしょ」

フレッド「あ、フレッドで」

翠「…フレッドさんだって、そうでしょう」

  フレッド、じっと考え込む。

フレッド「OK。じゃあ、とりあえず、登り

ましょう。職場の方で、行ける方がいたらぜひ誘っておいてください」

翠「え、決行?!」

 

○レストラン『ラ ルーチェ』・外

   藤間が、店の入り口で、腕時計を見ながら、立っている。

   エナメルのパンプスが、藤間の視界に入る。

   藤間が顔をあげて、不器用に笑う。

 

○スポーツショップ(夕方)

   登山コーナーで、レザーブーツを手に取り、繁々と眺めている翠。

   フレッドが後ろから話しかける。

フレッド「そんな高いブーツを買うんです

か、こだわりますね」

翠「え?!どうしてここに」

フレッド「…ミス富士山、嘘つきましたね。

ここ、町内で一番、上級者向きのグッズが置いてある店らしいじゃないですか」

翠「…正確には、登ったことはあるけど、途

中でリタイアしたので…私の中では、なかったことにしているんです」

   翠はブーツを棚に戻して、別の商品を手に取る。

フレッド「なるほど…あ、それなら、私がい

 くつか持っているのでお貸ししましょう」

翠「…ありがとうございます」

   翠が戻したブーツを見つめているのを見て、フレッドがつぶやく。

フレッド「『目の前の山に登りたまえ。山は君

の全ての疑問に答えてくれるだろう』」

翠「え?」

フレッド「知っていますか?ラインホルト・

メスナー、イタリアの登山家の」

翠「…あ…いえ…知りません」

フレッド「富士山に登れば、きっと分かりま

す。あなたの悩んでいる答えは…きっと」

翠「…どうして」

フレッド「失礼ながら、ミス富士山、あなた

は何か悩みを抱えている。そして自分自身で余計こんがらがったものにしている…そんな気がしまして」

翠「人間観察がお得意で」

フレッド「カメラマンですから…心のレンズ

で、人の内面まで覗き込もうとしているのかもしれませんね」

 

○(回想)富士山・八合目

   斜面に座って息を激しく吸って吐いてを繰り返している翠(17)。

   背中からザックをおろして、一枚の写真を取り出す翠。

   写真に写っているのは、富士山をバックにして、目尻に皺を寄せて笑っている花村泰介(40)。

泰介(声)「山はいいぞぉ…翠も大きくなっ

たら父さんと登ろうな。山には人生の全て

があるんだ。辛いことも嬉しいことも全部飲み込んで、…ただ美しい」

   翠の目から、涙が写真の上に落ちる。

翠「…山になんか登らなきゃ…お父さんは…」

 

富士河口湖町役場・4階・観光推進課(夕

方)

   職員たちが各々帰り支度をしている。

藤間が立ち上がる。

藤間「…お疲れ様でした」

   雛子、ちらっと藤間を振り返り、そして申し訳なさそうに翠を見る。

雛子「翠さん、ヨハンセンさんと二人きりに

なっちゃいましたね…みんな用事だなんて」

翠「雛ちゃん、前、土日は暇が多いって…」

雛子「ごめんなさい、お疲れ様でーす」

   雛子はオフィスを出ていく。

 

○同・同・エレベーター内(夕方)

   藤間が奥のほうに立っている。

   雛子が乗り込み、にこっと笑う。

   革靴とエナメルの靴が横に揃う。

   エレベーターのドアが閉まる。

 

○富士山・富士宮表口五合目(深夜)

   翠とフレッドが辺りを見渡している。

フレッド「もう少し上級者コースを周りたい

んですが、ブランクがあるのであれば…。

さあ、行きましょう、ミス富士山」

翠「…申し訳ありません。…フレッドさん、

私、いつまでミス富士山って呼ばれないといけないんですか?!」

フレッド「そうですよね…一緒に朝日を見る

仲なんですしね。翠さん」

翠「…仕方なく、ですけど…って名前かよ」

フレッド「さあ、行きますか」

   翠、心配そうな顔をしながら頷く。

 

○富士山・表口・新六合目(深夜)

   額の汗をタオルで拭う翠。

翠「…意外に…いけるかも…久々でも」

フレッド「…ここから、きつくなるので、気

を引き締めて。体調に違和感があれば、早めに言うこと、オーライ?」

翠「オーライ」

   フレッドがにこっと笑い、翠も笑う。

 

○翠・藤間の住むアパート・寝室(深夜)

   布団の上で白いシーツにくるまっている藤間と雛子。

   藤間の後ろから雛子が抱きつく。

雛子「…ねえ、なんでそっぽ向いてるの」

藤間「…俺、こんなつもりじゃ…」

雛子「今さらね」

藤間「…いや…なんていうか…まだ、俺と翠、

ちゃんと別れてないし…このうち、二人で

住んでいるわけだし。雛子ちゃんも彼氏いるんでしょ」

雛子「それが何?私、まだ若いし、遊んでい

たいの。藤間さんが望まないなら、今日だけの関係でいいよ」

   雛子、起き上がり、鞄を漁り、タバコの箱を取り出す。

藤間「…うち、禁煙なんだけど」

雛子「あ、そっか、バレちゃダメだもんね」

   雛子は藤間のTシャツを手に取り、頭から被ると、部屋を出ていく。

   藤間、枕に顔をうずめる。

 

○富士山・表口・七合目~八合目(明け方)

   岩場に苦戦しながら登っている翠。

   フレッドが振り返る。

フレッド「翠さん、大丈夫?」

翠「…なんとか…」

フレッド「山小屋まであともう少し…前を見

て、歩幅は狭く、分かった?」

翠「うん…ありがとう」

   フレッド、額から流れる汗を手の甲で拭い、富士山を見上げる。

 

○(回想)赤坂・雑誌社『あけぼの』・内

大量の雑誌が積み重ねられたデスク。雑誌の間から、気難しい顔をした板倉弘毅(55)が顔を覗かせる。

板倉「全くもって、駄目だな」

   フレッド、肩を落とす。

フレッド「今回も…ですか」

板倉「海外で賞を獲っていて、それ?って感

じ。全然パンチないんだもん」

フレッド「…パンチ…」

板倉「も~、そういうの、ニュアンスで汲み

取ってほしいわけ」

フレッド「日本の美しさを私なりに…」

板倉「そうゆうアートなのは、求めてないか

ら、うちは。綺麗なだけじゃね。新しくないとね」

   板倉に写真の入ったファイルを突き出され、フレッドは黙ってそれを受け取ると、オフィスを出ていく。

 

○富士山・表口・八合目~九合目(明け方)

   斜面に座り込んで、息を激しく吸って吐いている翠。

フレッドは斜面を見下している。

フレッド「…神はどうして挫折を与えるので

しょう。死に向かって生きていることに何

の意味があるのでしょう」

翠「…独り言?」

フレッド「…山に聞きました」

翠「…どうして、私は結婚していないんだろ

う。外見を磨いても、若さという武器には勝てないのに、どうして、そこにしがみ続けてしまうの」

フレッド「…山に聞いていますか?」

翠「…独り言」

   二人はぷっと吹き出す。

翠「5年も同棲していたし、いつか結婚しよ

うって言われるかな、なんて思っていた彼にいきなり別れようって言われて。心のどこかで、彼でいいのかなって思っていたのが、どうやら見透かされていたみたい」

フレッド「彼の真意を、あなたは理解したの

ですか?」

翠「彼にとって、私は最後の女じゃなかった

…それだけのことでしょう」

フレッド「翠さんにとって…結婚って?」

翠「…私ね、中学生の時に…父が、登山が趣

味の父が、仲間と一緒に遭難して、冷たくなった姿で発見されて。ずっと大好きな人が一緒にいてくれるわけじゃない…人間は結局、孤独に死んでいくのよ…それが真理なの。…だから、結婚に夢なんてない」

フレッド「…藤間さんは、あなたの父とはま

た、別の人です」

翠「え?どうして…知ってるの」

フレッド「翠さん、あなたはもっと素直にな

らないといけない。きっと後悔します」

翠「…フレッドさんはどうなの?」

フレッド「私は半人前だから。大事な人は作

らない…苦労することになりますから」

翠「…そんなの決めつけだよ。フレッドさん

と一緒にいたい…そう思ったら、その人はどんな生活だって…幸せなはずよ」

フレッド「…ありがとう。嬉しいです」

翠「…行きましょうか」

 

○翠・藤間の住むアパート・玄関・内(明け

方)

   藤間の頬に平手打ちをかます雛子。

藤間「…スッキリした?」

雛子「…翠さんも…藤間さんも大嫌い」

   雛子はドアを開けて出ていく。

   藤間は深い溜息をつく。

 

○富士山・山頂(日の出)

   日の出を見ている翠とフレッド。

   翠の目から涙がこぼれる。

フレッド「…綺麗なものを見るだけで、人は

涙を流すことができる…すごいことだ」

翠「ここでしか見られない景色だね。テレビ

で見るよりずっと…惨めったらしくて…私みたい…」

フレッド「…翠さん、神社に行きましょうか」

翠「…あ、撮影はいいの?」

フレッド「…翠さんを撮っていいの?」

翠「違うよ、日の出!」

フレッド「…今の綺麗な翠を撮りたいです」

   翠の瞳が揺れ動く。

翠「…シルエットだけなら」

   フレッドはリュックからカメラを取り出し、何枚も写真を撮る。

   翠は振り返る、フレッドはファインダーから目を外す。

翠「…使えそうなのは、撮れた?」

フレッド「今の翠、目に、心に焼きついた」

翠「…何それ…」

   翠はもう一度、朝日を見つめる。。

 

○富士山・富士宮表口五合目(朝)

   翠とフレッドがゆっくり下山してくる。

   フレッド、翠に手を差し出す。翠はフレッドの手を握り返す。

フレッド「一緒に登れて嬉しかった」

翠「…私も。ありがとう、フレッド」

 

山梨県立富士北麓駐車場・車内(朝)

   藤間が運転席で眠っているが、車の窓がノックされる音で目覚める。

   窓の外に翠、その後ろにフレッドが立っている。

 

山梨県立富士北麓駐車場(朝)

   気まずそうに立っている藤間と翠。

   フレッドは二人の背中をどんと押して、

   近づけさせる。

フレッド「また、二人で登るといいです。ね、

翠さん、あの景色を彼と見たいでしょ」

翠「…フレッド…」

藤間「…ごめん、急に来たりして…俺…」

   翠、藤間の車の助手席に乗り込む。

   藤間はフレッドに頭を下げて運転席に乗り込む。

 

○同・走行中の車内(朝)

   藤間が運転し、翠は助手席に座っている。

藤間「…家に帰ろう」

翠「…もう私たちの家じゃなくなるんでしょ」

藤間「…それは…」

翠「期待させなくていいよ」

 

○翠・藤間の住むアパート・台所

   翠、鼻をくんくんとさせている。ゴミ箱の蓋を開けると、タバコの吸い柄が数本、先端には口紅がついている。

   翠、じっとそれを見つめる。

 

富士河口湖町役場・4階・観光推進課・会

議室(夜)

   フレッドと翠が、テーブルの上の写真を見ている。

   雛子がコーヒーを持ってくる。

雛子「ヨハンセンさん、もうすぐ東京に戻っ

ちゃうんですよね?」

フレッド「順調にいけば、その予定です」

雛子「じゃ、今晩飲みに行きましょうよ」

フレッド「いいですよ、翠は?」

翠「…私はもう少し…二人で先に行ってて」

   雛子、フレッドの腕を取り、出ていく。

   フレッド、翠を心配そうに見る。

 

富士河口湖町役場・エレベーター内(夜)

   フレッドの背中に抱きつく雛子。

雛子「東京に帰らないで…寂しい」

  フレッド、雛子の手を取り、振り返る。

フレッド「…すいませんが…私は女の人に興

味がないものですから」

   雛子、鼻白む。

雛子「…なんだ、翠さん狙いかと思ったのに」フレッド「…やっぱり」

雛子「え?」

フレッド「雛子さんの狙いは…翠を貶めるこ

と…職場で自分より仕事を振られる翠のことがあなたは気に食わないだけなのでは?彼女を妬んで…それで」

雛子「そんな浅い感情じゃないわよ…翠さん

とは…あの人はミス富士山以外にも、陸上で県内トップだった…私は…どんなに頑張っても翠さんの記録を越えられなかった…勝てるのは若さだけよ」

フレッド「…藤間が初めてではない?翠に好

意を寄せる相手を奪ってきたのは」

雛子「よく気が付いたわね…悪い?私が勝て

る、唯一の若さって武器で勝負したのよ」

フレッド「…翠は…あなたのこと、目にかけ

て…上司にも仕事を振るように頼んでいますよ…気づいていますよね。翠はあなたを思って行動している…それに、素直に、翠さんが羨ましいって言えばいい…そしたら、幸せが歩いてやってきますよ」

   エレベーターが1階に到着する。

フレッド「ごめんなさい、やはり戻ります」

   雛子は俯いている。

 

富士河口湖町役場・4階・観光推進課・会

議室(夜)

  フレッドが部屋に戻って来る。

  翠は机に伏せて、居眠りをしている。

  フレッドは翠の頭に手を置く。

   ×  ×   × 

   翠が目を開けると、斜め前の席に藤間が座っている。

藤間「大丈夫?貧血で倒れたって…ヨハンセ

ンさんが電話してきてさ」

翠「…わざわざ来てくれたの?」

藤間「…あの人、翠狙いじゃないの?」

翠「彼、同性愛者なんだって」

藤間「…へえ」

翠「私とフレッドが富士山に居る頃…あなた

がしていたこと…私、知ってるの…でも

ね、責められない…私があなたに失礼な気持ちで付き合っていたのに、あなたはちゃんと向かい合おうとしてくれていた…仕事で挫けそうな時、サポートしてくれた…私、もう逃げないから…あなたとずっと一緒に」

藤間「…何もかもお見通しってわけか。俺に

自信がないのも知っていて…それで将来のことなんて一度も口にしなかったんだよな。…俺は…翠から逃げたんだ。裏切ったこと、水に流さなくていいよ。俺の最後の我儘だ…けじめをつけさせてくれ。頼む」

翠「…そっか…分かった」

   藤間、翠に手を差し出す。

藤間「今までありがとう。さようなら」

   

○翠・藤間のアパート・和室(夜)

   窓際で揺れている風鈴。

   畳の上で横になっている翠。 

   翠の目から涙が伝い落ちていく。

   「どーん」と大きな音が響いて、花火が上がっているのが窓の外に見える。

 

○京都・清水寺

   清水寺の舞台から、赤や黄色に染まった木々が見える。

   フレッド、首から提げたカメラを手にとり、写真を撮っている。

   ×  ×  ×

   フレッドは鞄から携帯電話を取り出し、電話をかける。

フレッド「久しぶり…元気にしてた?」

 

河口湖・湖畔

   フレッドと翠が肩を並べて歩いている。

   フレッドはカメラを首から下げ、時折、

   ファインダーを覗いては、写真を撮っている。

フレッド「ミス富士山のページ無くなったね」

翠「ミス富士山のコンクールがもう無いのに、

ずっと残しているのは、おかしかったから」

フレッド「…少し、残念です…私、あの翠の

笑った顔、大好きでした」

翠「あ、でも、観光推進課の皆の紹介ページ、

良くなっていたと思わない?」

フレッド「そうだね…彼、藤間は辞めたんだ

ね…あと、雛子さんも」

翠「彼が辞めて、雛ちゃんも、いつの間に。

二人とも、元気にしているといいな…」

  湖畔のほうを見つめる翠。

  フレッド、翠の写真を撮る。

  翠、少しフレッドを責めるように見る

が、そのまま写真を撮らせる。

  フレッド、何回かシャッターを押して、

そして、翠に笑いかける。

フレッド「…翠、身体から余計なものが落ち

て、前より綺麗になった気がする」

翠「…そう?寂しい女になっていない?」

フレッド「心なしか…身体が引き締まったよ

うな…何か、運動していますか」

翠「…実はね、ボルダリングはじめたの。暇

つぶしのはずがね、思いの他、ハマってる」

フレッド「なるほどね~」

翠「汗をかくのが気持ち良くて」

   フレッドと翠は、そのまま湖の周りを歩いていく。

 

○東京・某ボルタリング競技場・外

   『5年後』

   人ごみの間をすり抜けるように、カメラを持ったフレッドが歩いていく。

 

○同・同

   岩をしっかりと手で掴んで、天井を見上げている翠。

   翠の額からは、汗が垂れていく。

   翠が右手を斜め上に伸ばして、視線が横にそれた瞬間、翠は会場の人ごみの中に、フレッドの姿を見つける。

   フレッドは黙ってカメラのファインダーを覗き、翠の姿を写真におさめる。

   翠は視線を戻し、左足を岩にかけ、ぐいっと身体を上に動かす。

翠のモノローグ『ミス富士山のグランプリを

獲った時の高揚感とは違った、満ち足りた

充実感を、私は富士山の頂上で感じた。私

は今、無心で岩を掴み、上へ上へと登って

いく。空に憧れたイカロスとまではいかな

くても…私はまたテッペンに行きたい…』

  フレッド、カメラをおろし、翠の姿を

眩しそうに見つめる。

 

○同・同・外

   生け垣に座っている翠に、フレッドがコーヒーの缶を差し出す。

翠「いつ帰国したの?」

フレッド「1週間前。忙しくて連絡できなか

ったんだ。会いたかったけど」

翠「そっか。忙しいのにありがとう。あれか

らフレッド売れっ子になっちゃったからね」

フレッド「久々に連絡したのはね…実は近々

引っ越すんだ、翠の町に」

翠「え?」

フレッド「いつでも富士山を見上げられる、

素敵な町で、義理の弟と写真スタジオを開くことになって。子供たちにカメラの撮り方を教える講座も開く予定です」

翠「そうなんだ!素敵ね」

フレッド「…これ、そこの宣伝に使ってい

い?」

   フレッドはカメラをいじり、ボルダリングをしている翠の写真を翠に見せる。

翠「汗だらけ、メイクもしていない…そんな

私のすっぴんの写真を?」

フレッド「てっぺんを無心で目指す翠は、美

しかった。やはり、ミス富士山は違う」

   翠、前を向いて、はにかんで笑う。

翠「…ありがとう」

   フレッド、翠の笑顔を見て、前を向く。

フレッド「眩しくて…ファインダー越しじゃ

ないと見られないな」

翠「え?」

フレッド「…また、翠のこと、撮りに行って

もいいかな?」

翠「…もちろん。フレッドがいなければ、私

は富士山に登ることはなかった…あの素晴らしい経験を…ありがとう」

フレッド「こちらこそ」

   翠、フレッド、顔を見合わせて笑う。

 

富士河口湖町・フレッドの写真スタジオ

   木のぬくもり溢れるスタジオ。

   教室の一室から、子供の笑い声と、フレッドの快活な声が聞こえる。

   スタジオの壁に、翠のボルダリング中の写真が飾られている。

   写真のタイトル『グランプリ・イズ』

      ~完~  

 

恋愛ドラマアプリシナリオ 『ほろ苦リップス~永遠の恋人』

【1】

○山手線・外回り・車内(朝)

私は、住吉麻里、34歳、彼氏なし。

満員電車に揺られて、職場に向かっているところ。

(くさい…)

目の前にいるおじさんの安いコロンの匂いに鼻がやられそう。職場まで、あと2駅。

(…我慢…妄想しよう…ここはお花畑…そう、ここは)

現実はそう変わらない。私は、口で息をしながら耐える。

私が勤めている食品メーカーは創業40年の中小企業。新卒で入社してずっと、同じ職場、同じ仕事、同じ毎日。

同期の子たちが寿退社していくラッシュにも乗れず、会社に何となくとどまり続けている。新卒の女の子たちの仕事のフォロー、愚痴の受け止めばかり、責任のある仕事はまわってこない。

(…転職しようかな…なんか、いいことないかな)

(…ん…なんだろ…しんどいな)

私、強い眩暈を感じて、その場にふらっと倒れそうになる。

男性

「大丈夫?」

聞き覚えのあるような低い声が、頭の上で響いた。

私は、紺色のストライプ柄のスーツの腕の中に、いた。

(…え…だ、誰…?)

住吉麻里

「す…すいません…」

慌てて身体を起こし、振り返ると、鼻筋がすっと通った、整った顔だちの男性が立っていた。背は180センチくらい、栗色の大きな目が見開かれている。

(…うわ…男前リーマン!…得しちゃった…)

その時、電車が急に横に揺れ、私は再び男性にもたれかかってしまう。

住吉麻里

「ご、ごめんなさい…何度も」

男性

「…あれ?」

(なんか、じっと見つめてくる?!何、何?!)

男性

「…いえ」

電車が駅のホームに着いて、男性は颯爽と車両を出て行った。

(…あ…お礼を言うの忘れちゃった)

○オフィス・更衣室(夕方)

私の仕事は事務。きっちり5時終わり。予定が特にない私は、職場と自分の部屋を往復する日々。

今日は珍しく予定がある。

恰好はいつも通り、シンプルな白シャツに黒の細身パンツ、背が高い私はコンプレックスで、低めのパンプスを履く。

気が付くと、後輩の保元花江(25)が香水を全身に振りかけている。

保元花江

「…あ、匂いました?」

住吉麻里

「…廊下でしたほうがいいかも…いい香りだけど」

保元花江

「気をつけまーす」

(でも、いつも口だけ…)

住吉麻里

「…今日のお相手は?」

保元花江

「金融系リーマンです!年収700万は保障されるって」

住吉麻里

「…そっか、頑張って」

私はにこやかに笑うと、更衣室を後にしようとする。

保元花江

「住吉さん、落ちましたよ」

振り向くと、花江が一枚のハガキを持っている。ちゃっかり内容を見て、

保元花江

「…中学の同窓会…20年前…?私、幼稚園…」

(それ、わざわざ口に出す?!)

住吉麻里

「ありがとう」

私は花江からハガキをひったくると、急いで更衣室を出た。

(…ますます行くのが憂鬱になってきた…)

○同窓会の会場・前(夜)

私は会場の前にいた。同窓生たちが騒ぎながら会場に入っていく。

(…仲の良かった友達は来ないみたいだし…やっぱり帰ろうかな…)

私は自分の恰好に目を落とす。

(みんな、やけに気合い入ってる…こんな地味な格好で…浮くかも)

私は、踵を返して帰ろうとした…

男性

「あれ、もう帰るの?」

男性

「…そういうのは不躾っていうものです」

目の前に、朝、山手線の車両の中で会ったスーツの男性が立っている。

その隣には、同じくらいの背丈の、切れ長の涼しげな瞳をした端正な顔だちの男性がいた。しかも、カチっとした和装でキメている。

(…え…同窓生?!誰だろう…)

スーツの男性が、肩をすくめて笑う。

大倉央

「…俺、大倉央。サッカー部だった…覚えてる?副生徒会長さん」

花村総次郎

「…花村総次郎と申します。華道部でした。覚えているわけないですよね」

(…うっすら思い出してきたけど…こんなに恰好いいとか…何を話していいか…)

住吉麻里

「…あ、ご無沙汰しています」

大倉央

「…朝はどうも」

央は思い出し笑いを浮かべる。隣の総次郎は怪訝な顔をしている。

私は自分の失態を思い出して、赤面する。

大倉央

「…相変わらずだな…貧血でぶっ倒れるところ…」

(…え…昔は朝礼とかで倒れることはあったけど…)

央の懐かしそうに笑う顔、柔らかな瞳に吸い込まれそうになる。

こっそり呼吸をして、心の乱れを隠す。

花村総次郎

「…あと、5分で始まりますよ」

総次郎は会場に入っていた。央と私も顔を見合わせ、慌てて総次郎の後を追いかけた。

○同窓会の会場・中(夜)

ガヤガヤとした会場の中、私は俯きがちにカクテルを飲んでいた。

元クラスメイトたちの会話に一応入るものの、旦那や姑の愚痴、親バカトークに花が咲いていて、とてもついていけない。

(惨めだ…目の前に幸せを突きつけられて…私には何もない)

私はふと会場を見渡して、央、総次郎を目で探す。二人とも、取り巻きの女性たちに囲まれている。

(…来るんじゃなかった)

私はお手洗いに行くふりをして、会場を早めに抜けることにした。

(家に帰って、熱いシャワーを浴びたい)

(…あ、TUTAYAに行って、『ラスト・ガール Season.2』借りて帰ろうかな)

大倉央

「…こんなところにいた」

振り返ると、目の前すぐのところに央の顔。

大倉央

「もう帰るのか?」

住吉麻里

「…急用があって…あの」

大倉央

「あんまり食べてなさそうだな…人の話ばっかり聞いて、食べるタイミング逃してたんじゃないのか」

央は私の腕をとり、テーブルの方へ引っ張っていく。綺麗に並べられているオードブルを手際よく皿に取ってくれる央。

大倉央

「俺がとってやったんだ。食え」

住吉麻里

「…でも、こんなに…」

大倉央

「食うの、食わないの?」

住吉麻里

「…食べます」

私は央から皿を受け取り、オードブルを口いっぱいにほうばる。

住吉麻里

「美味しい…」

大倉央

「すぐに我慢すんなよ」

住吉麻里

「…ありがとう。せっかくだもんね」

くしゃっとした笑顔をふいに見せる央。私が、央の甘い笑顔に釘づけになっていると、

花村総次郎がいつの間にか、近くに立っていた。

花村総次郎

「…ケチャップ」

総次郎はすっと袖の中から、綺麗な和柄のハンカチを取り出し、私の口元を拭う。

あまりに自然な流れに、私は硬直してしまう。

(…?!)

私ははっとして、総次郎の手からハンカチを奪い取ると、自分で口元を拭う。

(…は…恥ずかしい…子供じゃないんだから)

大倉央

「…34…だっけ、35?」

花村総次郎

「口につめこむ癖は変わらないということですか」

央と総次郎は肩を並べて、私をおかしそうに見ている。

(…か、からかっているんだ…この会場で浮いている私を…)

住吉麻里

「…失礼しました。ハンカチありがとうございました。洗ってお返しします」

花村総次郎

「結構ですよ。差し上げます」

住吉麻里

「いえ、お返しします!」

大倉央

「…じゃあ、連絡先交換しよう」

住吉麻里

「…え?」

大倉央

「勘違いするなよ。仕事に繋がることもあるから、どんな奴とでも連絡先交換してるから」

(…何その言い方…別に期待してないのに…)

花村総次郎

「…私はこれで…」

総次郎は再び袖の中に手をつっこむと、一枚のカードを取り出し、私に差し出した。

住吉麻里

「…秋風…わ、和菓子屋さん?」

大倉央

「カリントウ饅頭が美味しいよな。俺の、これ」

央はスーツのジャケットの胸ポケットから名刺入れを取り出し、慣れた手つきで私に名刺を差し出した。

大倉央

「営業、一応、役職はリーダー」

央の名刺には、有名なレディース服を手掛けるアパレル商社の名前があった。

住吉麻里

「…私は食品メーカーで事務。でも、たいした仕事はしてないから…」

私たちが連絡先を好感しているのを遠巻きに見ている会場の女子たちは羨ましそうな顔をしていた…胸の奥が少しだけすっとした。

【2】

○オフィス・更衣室(朝)

ロッカーの鏡を見ると、心なしか顔色が良い気もする。

昨晩は総次郎と何通かメールのやりとりをした。央からは、よろしくの一言だけメッセージが入っていた。

保元花江

「おはようございます」

(朝帰りの私感、満載…)

保元花江

「朝までオールで、さすがに年だからきついです」

(あなた私よりも10歳近く下じゃない…)

住吉麻里

「…そっか。早めに帰らせてもらえば?」

保元花江

「でも、もう有給ないし、できませんよぉ」

(しょっちゅう有給消化して、旅行とかライブに行ってるもんね!)

相変わらずの麻里に少し疲れて、私は口をつぐんだ。

○オフィス・会議室

ランチの後、私は部長の荻に会議室に呼び出されていた。

「すまないね、ちょっとそこ座って」

住吉麻里

「…はい。なんでしょうか」

「部署異動の通達。商品企画室に、明日から行ってもらえるかな」

住吉麻里

「商品企画室に明日から?…でも、どうして私が」

「まあ、事務職では、その…どんどん若手が入ってきているし」

(…それは…私の年齢が年齢だから…ってこと?)

住吉麻里

「若手を育てることは大切ですよね…」

「そうなんだよ。商品企画室は少数精鋭の部署だよ。かなり環境は変わるけど、即戦力になれるように努力してね」

住吉麻里

「はい…頑張ります」

(正直…このままこの仕事を続けていいのか悩んでた…これはチャンスかもしれない。私が変わるための…)

私は不安と希望で胸をいっぱいにして、会議室を後にした。

○山手線・○○駅・ホーム(朝)

今日から商品企画室…人間関係もリセット…緊張するけど、心のどこかで期待している自分もいる。昨日、デパートで新しいスーツを買った。朝、スーツの袖に腕を通した時の新鮮な気持ち…随分前に忘れていた。

大倉央

「あれ、スーツ?」

後ろから声をかけてきたのは央だった。

住吉麻里

「大倉くん…どうして」

大倉央

「今日は直行でさ。電車乗り換えてたら、たまたま住吉さん見かけて声かけた」

住吉麻里

「…そっか」

大倉央

「似合ってるな、スーツ。できる女に見せるぜ。まあ、中身が伴わないとダメだけど」

住吉麻里

「…嫌味?…今日から新しい部署なんだ…商品企画室」

大倉央

「へえ。花形の部署じゃん」

電車がホームに滑りこんでくる。列に並ぶ人たちが我先にと前に歩みを進めてくる。

央が私の腕をとり、自分の身体に引き寄せた。鼻先をかすめるムスクの甘い香り。

(…いい匂い…落ち着く…)

大倉央

「…朝からぼーっとしてんなよ。本当、恰好だけだな」

住吉麻里

「…ほ、ほっといてよ」

大倉央

「言うこと聞け」

央の顔がいきなり近くなる。怒っているような、どこか心配しているような瞳。

大倉央

「…また貧血になるなよ」

央は私の腕を掴んだまま、山手線の電車に乗り込んだ。

○山手線(外回り)・車内(朝)

吊革にぶらさがって立っている私。その隣に、央。

住吉麻里

「…あの、ありがとう」

大倉央

「…別に。俺、新聞読むから、静かにしてろよ」

央はそういうと、新聞を鞄から取り出して読み始める。

私は央の横顔をこっそり盗み見る。心臓はドクドクと動いている。

(…期待しないようにしないと…気まぐれな優しさに惑わされちゃダメ…)

○オフィス(夕方)

私は一日中部屋の隅で、新しい仕事のマニュアルや引き継ぎの資料を見ていた。

商品企画室の中で唯一の女性社員、木下メイは性格がきつそうだけど美人…年は28だという。メイが私の席にやってくる。

木下メイ

「住吉さん、分からないところありましたか」

住吉麻里

「…あ、むしろ分からないところだらけで…でも、大丈夫です」

木下メイ

「女性だからって理由で振られる仕事結構あるんで頑張ってください。明日は外出があるんで同行お願いします」

メイはてきぱきと言うと、そそくさと自分の席に戻っていった。

(…もう少し優しくしてくれてもいいのに)

手元の資料を見ると、うちが主に作っている小豆のアイスバーの新作情報が載っている。

(…美味しいけど、他社との差別化…正直できていないよね…)

私は頬杖をつきながら、引き続き資料に目を通した。

○道

翌日。私はメイに同行して、商品の共同開発をしている企業に訪問することに。

木下メイ

「ここです。あ、今日は住吉さんの紹介しますね。サブ担当なんで、しっかりしてくださいね」

住吉麻里

「いきなりですか?!」

木下メイ

「…女性社員が少ないから、担当企業によっては、女性をつけたほうがいいって課長が判断するんです…別に実力関係ないんで」

(そんなの分かってるよ…)

道を曲がった先に、和菓子屋が立っていた。

(…あ…『秋風』?…ここ、花村君のお店?こんなところにあったんだ…)

すると、メイが『秋風』の店の暖簾をくぐって、中に入っていく。

(え…まさか!?)

○和菓子屋『秋風』・中

目の前にいる総次郎は、私の来店に動ずることもなく、淡々と名刺交換をした。

(…どんだけクールなのよ…あ、ここの会社だったの?!くらいの反応があっても…)

木下メイ

「…こんな年ですが、一応新人なので、ご迷惑おかけしますがよろしくお願いします」

(…こんな年?!は?!どんだけよ…身内を落とすのは建前であるけど…)

私は顔をひきつらせないようにあくまでも笑顔で黙って座っていた。

花村総次郎

「…私はどなたが担当でも構いません。…それで、例の商品のレシピのことですが」

総次郎とメイは顔を突き合わせて、開発中の商品の話を始める。

総次郎のすっとした鼻筋に、長い前髪がさらっと落ちる。私は思わず見とれてしまう。

木下メイ

「…1か月で試作品を仕上げていただけると助かります」

花村総次郎

「分かりました。なるべく早く対応致します」

木下メイ

「ありがとうございます。私が伺えない時には住吉が参りますので」

花村総次郎

「…木下さん、担当を住吉さんに変えてもらっていいですか?」

木下メイ

「え?」

花村総次郎

「新人の方には荷が重いかもしれないですが、どうせなら勢いのある新人さんに担当してもらったほうが斬新なアイディアとか出るかもしれないじゃないですか」

木下メイ

「…それでは、私もサポートしますが、メインを住吉に担当させます」

メイは私を睨みつける。私は思わずすくみあがる。

(…ちょっと…角が立つ!なんてことしてくれるのよ?!)

花村総次郎

「…期待していますよ、新人さん」

冷たい微笑を浮かべて、総次郎は立ち上がると店の奥に消えて行った。

メイは手元の資料を乱暴にかき集め、鞄にしまいながら、

木下メイ

「…あの人何考えているのか全然読めない…」

(…総次郎なりに、仕事できる機会を私にくれた?って、考えすぎかな?)

木下メイ

「はあ、課長に報告しなきゃ…あー、めんどくさ」

メイと私は、和菓子屋『秋風』を後にした。

○道(夜)

(あー、疲れた… )

駅からの部屋までの道を、月を見上げながら帰る。鞄の中のスマホが短く振動した。

(…誰だろ)

メッセージは央からだった。

(「今度飲み会しよう。女の子一人誘って」?え、合コン開けってこと?!…それって、私は恋愛対象じゃないって、そういうことかな…営業の人ってフットワーク軽いから、こんなノリなのかな)

私はすぐに返信するのをやめて、鞄の中にスマホをしまった。ほんの少し、央との恋愛を夢見ていた自分がバカみたいだった。

(恋愛運がないのは今に始まったことじゃないし…今は仕事に集中しよう!)

○山手線(外回り)・車内(朝)

私は吊革にぶら下がって、うつらうつらしていた。

(…眠い…3日連続残業…ちょっときつい)

電車が大きく揺れて、私は体勢を大きく崩した。後ろから長い腕が伸びてきて、私を支えた。振り返ると、呆れ顔の央が立っていた。

大倉央

「気をつけろって言っただろ」

住吉麻里

「ごめんなさい」

大倉央

「新しい部署きついのか?無理するなよ」

(…心配してくれてる?…上辺だけの言葉?)

住吉麻里

「…どうせ、恰好だけよ!でも、早く仕事覚えて、新しい商品のためのアイデアを出したいから頑張るって決めたの」

大倉央

「…なんだ、やる気ありすぎて空回りしてるのか」

そういうと、央は大きな手を私の頭にそっと置いた。央の瞳が私を優しく見下ろす。

大倉央

「…女なんだから、甘えるときは甘えな」

私は動揺を見せないように、央の手をそっとどけながら、目を逸らす。

住吉麻里

「…甘えるなんて、この年で出来るわけないじゃない…あ、メール返信してなくてごめん。会社の女の子呼ぶよ。2対2でいい?」

大倉央

「…あれは…そんなにがっつりしてほしいってことじゃ…てゆうか、俺も仕事忙しくて都合つくか分からないしな」

央は曖昧な返事をして、そこから一言も喋らなかった。

(…そっちが合コンしようって言い出したんじゃない!…私、振り回されてる)

○和菓子屋『秋風』・中

私が店内で待っていると、作務衣姿の総次郎が出てくる、少し憂鬱そうだ。総次郎は私に気が付くと慌てて笑顔を作る。あくまでも仕事用の笑顔…

花村総次郎

「…すいません…お待たせして」

住吉麻里

「…あの、どうですか…試作品のほうは」

花村総次郎

「もう少し待ってもらえますか。…レシピが悪いのか…何か問題が」

住吉麻里

「勉強不足の私が言うのもあれなんですが、見せてもらえないですか?」

花村総次郎

「え?」

(私には熱意しかない…それに、花村君が作る和菓子を見てみたい…)

○和菓子屋『秋風』・工房

柔らかな餅の生地に包まれている粒あん…ぱっと見ただけで美味しそうなのが想像つく。

花村総次郎

「一つ、作りますね。生だといいんですが、冷凍になると、この餅の良さが消えてしまうんです…」

総次郎の白く長い手が餅をつかみ、柔らかい餅の中に粒あんを入れ、丸めていく。その手先が綺麗で見とれてしまう。

住吉麻里

「こんな綺麗なお菓子が…手軽に家庭で楽しめたらいいですね。私だったら、100個くらい買いだめしちゃいそう」

花村総次郎

「…欲張りですね」

総次郎がふっと笑って、イタズラそうな瞳が揺れた。長い指で小さな餅をつまみ上げると、総次郎は私の口に運んだ。

住吉麻里

「…う…うううう…お、美味しい!!!」

美味しさに悶えている私を総次郎は眺めている。

住吉麻里

「…すごい…どうやったらこんな美味しいものを…」

花村総次郎

「…生まれた時からこの店を継ぐことは決まっていて、修行してきました…決められた道をひたすら歩いていかないといけない中、こういった新しいことに挑戦するのは、私にとってはすごく大事なことなんです」

(…花村君にとって、このプロジェクトは一つの夢なんだ…だったら、私、もっと役に立てるようにならないと)

住吉麻里

「…分かりました!うちのほうでもレシピを再度見直して、もっといい商品になるように一緒に頑張っていきましょう!」

花村総次郎

「…やっぱり、住吉さんは変わらない…昔、副生徒会長していた時から…そういう生真面目なところがあったね」

急に親しげに話し出した総次郎に私はドキっとする。彼のくるくる変わる表情に私の胸の内はざわついていた。

○居酒屋(夜)

4つのビールジョッキが合わさり、軽快な音がする。

「かんぱーい!」

私と花江、真向いには総次郎と央が座っている。花江の目がキラキラしている。

(そりゃあかなりのイケメンだものね…って、態度が露骨に変わり過ぎだけど)

大倉央

「前の部署の後輩なんだって?こういう飲み会はよく行くの?」

保元花江

「え…まさか。全然呼ばれないし…寂しい毎日ですよぉ」

(週3で合コン行くペースだよね?!寂しくないよね?!)

花村総次郎

「…央、お前、他に友達いないのか」

大倉央

「いや、せっかくだから、総次郎とも旧知とはいえ親睦深めたいだろ」

保元花江

「で、お二人は何の仕事してるんですか?」

そこから、花江は大倉君と花村君を質問責めにして、私には出来ない速さで、連絡先を聞き出した。私はひたすらハイボールを飲んだせいで、気持ち悪くなってきた。

住吉麻里

「…ごめん、ちょっとお手洗いに」

大倉央

「俺もー」

(…え?)

○居酒屋・トイレ前(夜)

私はハンカチで口元をおさえながら、トイレから出てきた。

(…吐くほど飲むなんて…私らしくない…)

央がスマホを見ながら、壁にもたれかかって、立っていた。

大倉央

「…お前、吐いたとか?」

住吉麻里

「…ちょっと…疲れて寝不足なところに…調子に乗って飲んじゃったから…」

央は小さく溜息をついて、私の腕を引っ張って、店の外に連れ出した。

○居酒屋の前・外(夜)

大倉央

「ゆっくり外の空気吸え。少しはマシになるだろ」

壁によりかかっている私の、背中を優しくさすってくれる央。

(…弱っている時に優しくするなんて…この人、絶対人たらしだ…)

住吉麻里

「…ごめんなさい。何か、恰好悪いとこばっかり…恥ずかしい」

央は近くの自販機で水を買ってきて、私に黙って差し出した。

大倉央

「…かっこつけて澄ましている女より、一生懸命がんばっている女のほうが、俺は好きだけどな」

私は水を受け取って、一口飲んで、ゆっくり深呼吸をした。

央は壁に手をついて、ぐいっと顔を近づけてきた。私は驚いて、目を見開く。

住吉麻里

「…からかってるの?私が男っ気がないからって」

央はさらに顔を近づけてきた。央の甘い瞳に吸い込まれそうになる。

住吉麻里

「…だ、誰にでもこういうことしているんでしょ?」

大倉央

「決めつけるな」

央の唇が私の唇に重なった。乾いて冷たい唇…私は目をつぶった。央の舌が口に滑り込んできそうになって、慌てて身体を離す。

住吉麻里

「…ま、待って」

大倉央

「嫌だった?」

住吉麻里

「…だって、私なんて眼中にないでしょ」

央が私の腕を取り、ぎゅっと抱きしめる。央は私の耳にそっと口づけながら言った。

大倉央

「…二人きりで会おうって言ったら警戒されると思ったから…恋愛下手なら、俺が手取り足取り教えてやる。お前はそのままでいい」

央は私をじっと見つめた。真剣な、まっすぐな瞳。恋の予感はあった。でも、一方通行だと思っていた。

(央が…好き…)

再び、央が私の唇に口づけた。さっきより激しく、そして甘く。舌が絡まり、熱い吐息が二人を包み込んでいった。私は央の背中に手を回して、

(…彼にもっと好きになってほしい…離れたくない…)

央をもっと近くに感じたい、そう思うと、胸が苦しくて仕方なかった。

【3】

○和菓子屋『秋風』・中(夜)

あれから1週間。央とは電車で会うこともなく、私も仕事に追われる日々を過ごしていた。

総次郎に急に呼び出され、私は『秋風』までやってきた。暖簾をくぐると、総次郎が嬉しそうな顔をして立っていた。

花村総次郎

「できたんだ…来て」

総次郎は私の手を取り、工房に連れて行った。

○和菓子屋『秋風』・工房(夜)

花村総次郎

「…気が付いたんだ…きっと、食感をそのままにするには上新粉の配分を…」

前よりは理解できるようになっていた私は、首を縦に振りながら彼の説明を聞いた。総次郎は上気した頬を手の甲で軽く撫で、笑った。

花村総次郎

「…ようやく、商品化に向けて、一歩前進した。この前、住吉さんが送ってくれた、他社商品の分析資料とか…本当に助かった」

住吉麻里

「…あんなの…頑張ったのは花村君だから」

総次郎は白い餅を指先で掴み、再び私の前に差し出した。

花村総次郎

「…目を閉じて。しっかり味わって欲しい」

私は目をつぶった。すると、私の唇に総次郎の唇が重ねられた。思わず目を開けて、総次郎を見る。総次郎は顔を離し、頭の後ろをかいている。

花村総次郎

「…私らしくない…でも、君に出会ったから…色々な歯車が周りだして…」

住吉麻里

「…あの…」

花村総次郎

「…もしかして…央と付き合っているのかな?この前、飲み会のとき、二人がいなくなったから…私は気が気でなくて…」

(いつも冷静な総次郎が…私のことで右往左往してる…央のことが好きなのに、総次郎にヤキモチ焼かれて嫌な気がしない…)

住吉麻里

「まだ、大倉君とは…そんなんじゃ…」

総次郎は私と真正面に向き合うと、重い口を開けた。

花村総次郎

「私は後を継がないといけない…だから、私と付き合ってくれる女性にはそれなりの覚悟が必要です…面倒ごとを抱えている私ですが…結婚を前提に、お付き合いしてください」

総次郎は律儀に頭を下げた。

(け、結婚?!)

○山手線・○○駅・ホーム(朝)

(3日間寝込んでいたからかな、フラフラする…)

私は頭痛を抱えながら、電車を待っていた。総次郎に告白された次の日、溜まっていた疲れが出たのか、高熱がでて、昨晩ようやく平熱に下がったのだった。

ホームにやってきた電車に乗ろうとした私の腕を取ったのは央だった。

大倉央

「…大丈夫か?」

住吉麻里

「…央…ごめんなさい。返信できていなくて」

大倉央

「…体調崩してたのか…そんなときに会いたいだなんて…悪かったな」

申し訳なさそうな顔の央。いつもらしくない。嫌な予感がした。

大倉央

「…話があるんだけど、5分でいいから」

住吉麻里

「…う、うん…」

(…なんだろう…会いたいって…この前のキスからずっと会ってなかったけど、やっぱり央と一緒にいるとドキドキする)

ホームの隅にある椅子まで移動すると、央は顎で「ここに座れ」と言う。言われるがまま、央の隣に座る。

大倉央

「…それ、総次郎の店のだよな」

私が鞄と一緒に持っている紙袋は、和菓子屋『秋風』のものだった。

住吉麻里

「…あ、そうなの。前、飲み会でも話してたけど、今、仕事で一緒に」

大倉央

「2人で会ったりしてるのか」

住吉麻里

「え…ううん、そんなことは…」

大倉央

「この前、俺、お前にキスしただろ」

央はまっすぐに私を見つめた。私はこの前の央の熱いキスを思い出した。

大倉央

「…あの時の気持ちは本物だけど…この前のは、無かったことにしてほしいんだ」

住吉麻里

「…え…」

大倉央

「…俺、近々、香港の新しいオフィスの立ち上げメンバーになったんだ…すげえタイミングだけど。で、今月中に視察で向こうに飛ぶんだ」

住吉麻里

「…え…昇進したってことだよね?…すごいじゃない!」

大倉央

「…嬉しいよ…仕事に打ち込んできた甲斐があるっていうか…でも、いきなりお前を放置することになる…側にいてやれない。本当は近くにいて何でもしてやりたい、目を離したくない」

央が私の手に手を重ねて、ぎゅっと握った。暖かい…そして、愛おしい央の手だ。

(…聞きたくない…続きを言わないで欲しい…)

大倉央

「この前のことは忘れてくれ。俺のことも…」

住吉麻里

「全部…?」

大倉央

「…勝手なことを言ってるよな」

住吉麻里

「…そんなことない。私なら大丈夫だから」

大倉央

「…総次郎と仲良くやれよ」

(…さようなら、なんて…嫌だ…でも、応援してあげないといけない…せめて笑顔で)

住吉麻里「央ならきっと大丈夫!頑張ってね!」

央は優しく微笑んで、私の頭の上に大きな手をそっと置いた。

大倉央

「…お前もスーツの似合う女になってきたな」

央はそういうと、私の前から去って行った。彼のぬくもりを求めているのに、私の口は開くことはなく…央の後ろ姿を黙って見守るだけだった。

○和菓子屋『秋風』・外

数週間後、私は総次郎に会いに、『秋風』に足を運んだ。共同開発している商品の広告戦略について伝えるため、そして、この前の返事をするために…

総次郎が奥から出てきて、私を見て、ふっと微笑を浮かべた。

花村総次郎

「いらっしゃいませ」

住吉麻里

「…ご無沙汰してます。先日メールさせていただきましたが、商品の広告について…」

総次郎は近づいてきて、私の肩に手を置いた。

花村総次郎

「…肝心な話はしないつもりですか?」

住吉麻里

「…あの」

花村総次郎

「さあ、行きましょうか」

総次郎は私の腕をとり、店の外を出た。私は店の裏手に停めてある高な車に案内された。

○空港・駐車場・車内

1時間かけて、総次郎が私を連れて来た場所は成田空港だった。央が香港へ長期出張に旅立つ日、それが今日らしい。フライト時間は近づいている。

花村総次郎

「…分かっていたんです。…きっと、あなたは私を選ばない…それでも」

総次郎は優しく私の頬を手で包む。

花村総次郎

「あなたの幸せを決めるのはあなたです。…私は、あなたは私と一緒にいたほうが幸せになる、そう思っています。…さあ、どうしますか?」

住吉麻里

「…私の幸せは私が決める…ちゃんと言ってきます…ありがとう」

総次郎は目を細めて、ゆっくりと私の頬から手を離した。そして、前を向き、冷たく言い放った。

花村総次郎

「やっぱり私が良かった…なんて泣き付いても、もう聞きませんから」

私は総次郎に頭を下げると、車のドアを開けて、空港の国際線ターミナルに向かった。

○空港・国際線ターミナル・出発ロビー

私は走りながら央の姿を探した。総次郎の話では、フライト時間まであと40分…

(…お願い…まだ、いて!)

私の肩をぽんと叩く手があった。振り向くと、目を見開いている央の姿があった。

大倉央

「…麻里…どうしてここに」

住吉麻里

「…総次郎から聞いたの…今日、香港に旅立つって…だから」

大倉央

「…あいつ」

住吉麻里

「…私、央に伝えたいことがあって…どうしても…離れてしまう前に…」

住吉麻里

「…あのね…私が好きなのは…」

央は私の口にいきなり手を当てる。

大倉央

「…こら、勝手に告白し始めるな」

央は私の口から手を離すと、私をぎゅっと抱きしめた。

住吉麻里

「央、私…」

央は私の身体をそっと離すと、顔をぐっと近づけた。

大倉央

「…文句言うなよ…こんなはずじゃなかったなんて」

住吉麻里

「言わない…絶対」

大倉央

「俺のそばにいろ。ずっとだ…お前は俺のものだ…その瞳もその唇も全部」

央の瞳が優しく私を見つめている。強い言葉と裏腹に、愛に満ちている二つの瞳。

住吉麻里

「…好き。離れていても、ずっと…これからも」

大倉央はにこっと笑い、そして、私のほおを優しくつねる。

大倉央

「麻里、可愛いな」

そういうと、央は私の唇にやさしく唇を重ねた。私も目をつぶり、それに応える。

大倉央

「…たったの4泊5日だ…出張が終わったら、すぐに迎えにいくから」

央は私の髪の毛を優しく撫でながら、私の耳元でそっと囁く。

住吉麻里

「…待ってる」

大倉央

「いい子だ」

再び、央の腕に優しく抱かれて、私は目をつぶった。

○空港・展望デッキ

私は青空に飛びだっていく飛行機を見上げる。寂しくなんてない…これからはずっと彼がそばにいる。この青空の下、私と央は繋がっている。これからどんなことが起きたって、この瞬間を私は忘れない。私たちの恋は…これからだ。

アーティフィシャルフラワーで作るアーティサリー♪

ちょっと個人的な趣味ですが、友人向けに。

アーティフィシャルフラワーとは、造花のことです。

造花を使って作るアクセサリーが、アーティサリーといわれるものです^^

 

百均とかユザワヤ、トーカイなどで材料は揃えられます。

 

今日はストラップにしました。

 

針金を曲げたり、切るためのペンチがいります。

あと、細めのワイヤー、花の中心になるパール素材。

アクセサリーはピアス、イヤリング、指輪、ゴムなど、作りたいものでセレクト

してみてください♪

 

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百均で買える小さ目の造花の花の根元(緑色)を切り、花を中心の

部品から取り外します。バラバラになります。

 

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ちょきん。

 

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これを内職で作ってくれている人がいる、と地味に感動する私。

白いこの部品は、花を立体的にしてくれるものなので、

あとで使っても使わなくてもお好みで

 

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二つ、ばらしてみました。

 

ワイヤーを花ひとつに対して一つ分切ります。

 

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パールを通して、

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真ん中で、ワイヤーをくいっとまげて

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ねじねじ

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造花の真ん中に穴が開いているので、一枚一枚、

ワイヤーに通していきます。

花の色、今回は白と黄色ですが、組み合わせで

グラデーションにするとオリジナル感でますよ☆

 

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パールが中心部になってくれます。

 

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シャワー台に針金をとおします

 

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こんなかんじで。

 

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通したあと、ねじねじ

長すぎるのは切ります

 

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シャワー台にフタができるように、コンパクトに

まとめます

 

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シャワー台のフタ。に、ストラップの鎖をつけました。

 

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シャワー台のつめ、堅くて、少し、折り曲げるのが

難しいです。

よっつのつめをおりまげて、ふたします。

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ストラップとつながっています

 

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こんな感じで、ストラップになりました。

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シャワー台をアクセサリーにしたい部品にくっつけて、

オリジナルアクセサリーをつくってみてください☆