シナリオ☆おひとり雑技団

過去のシナリオ置き場です。無断転載はお断りしています。感想などはどんどん受付けています。

ヤンシナ

フジテレビ 第29回 ヤングシナリオ大賞

 

早いもので1年経ちました。

ラッキーなことに、去年は2本ちゅう1本が選考通過しましたが、

今年は玉一つない状況、、、心もとない。

 

今受けているお仕事が終われば、長編一本は頑張れるかもしれない。。。

 

今活躍されている尊敬するシナリオライターの、坂元先生も野木先生も、

ヤンシナご出身

 

 

他の局で活躍されているとはいえ、、、、

 

やはり、ヤンシナは登竜門的コンクールであることに変わりはない、はず。。。

 

 

仲間も頑張って書いている事だし、私もやる気を出したい。

 

 

 

でも、なかなかこれだという素材が見つからない。

キャラは立てられるけど、選考で勝てる素材。。1次で落とされない素材。。

 

 

難しいです。

 

 

シナリオライターになりたいと思って勉強しはじめて2年。

 

 

やはり夢は持ち続けたいなと思います。

 

 

 

 

カルテットの第一話、アリとキリギリスを思い出します。

 

夢を叶えられるアリはとても少数だと思うけど、

 

 

そのアリになるべく、長い冬を越えていかねばなりませんね。

 

 

 

共に頑張るライター仲間をいつも応援しています!

 

 

今年のお仕事状況

昨年秋頃から、恋愛、占い系コンテンツの執筆を主にさせていただいております。

分量はそんなに多くないのですが、慣れるのに一苦労。

 

今年もコンクールへの作品提出、執筆がかなり危ぶまれていますが、ぼちぼちやって夢を追いかけていきたいなと思っています。

 

とあるサイトのコラムニスト?記事のライター?を来月からさせていただく事になりそうなので、今から楽しみです^^

 

今も昔も、ブログもシナリオを書くのもとてもとても楽しいです。

 

大好きなシナリオを嫌いにならないように、適度な距離で付き合っていきたいです。

 

本年もよろしくお願い致します。

20枚シナリオ『メロドラマ』

去年書いた課題です(サスペンスがかけなくて課題がとまっている不甲斐無さ…)!

 

大好きな東村アキコ先生の「タラレバ娘」のドラマ化がとても楽しみなのですが、

年齢設定をいじるのはやめてくれと思いました。

 

だって、30歳と33歳って雲泥の差だから。20代の差と30代の差は残酷なものなので。

 

そんなわけで、この作品もややこじらせたアラサー女子が主役ですが、メロドラマの課題テーマからはズレてしまった印象が、、、、

 

___________________________________

 

「恋なんて、しようと思ってするもんじゃないのに、恋だ、愛だとうるさい世界」

 

☆人物

浦島 みずき(30)コンビニのアルバイ

雨宮 真(20)浪人中のアルバイ

江口 悠子(30)みずきの友人・主婦

斉藤(29)コンビニの客

 

 

○コンビニ(深夜)

   もさっとした見た目の浦島みずき(3

   0)がレジで黙々と商品を精算する。

   目の前に、20代前半のカップル。

男「お前、カラコンで盛ってっけど、俺はす

 っぴんのお前のがが好きなん知ってる?」

女「は? 別にあんたのためにカラコンして

 ねえし!!(ツンデレに)」

男「じゃあ、他の男に色目使ってるのか?」

   みずき、ふっと不敵な笑みを浮かべる。

女「ちょっと店員、何笑ってんの!」

みずき「いや、カラコンしてるからって別に

 男のためにお洒落してないし、ていうか、

 お洒落全般、何だろ、全て異性にモテるた

 めにしてるとか、何につけ恋愛に絡めるの

 とかどうなのかなって思うんですよね」

   カップルは顔を見合わせて、やばいも

   のを見た風に店を去っていく。

雨宮「お見事」

   商品を胸に抱えた雨宮真(20)がレ

   ジにやってくる。

みずき「イチャコラするなら家でやれって思

 うじゃない」

雨宮「え? あいつらしょっちゅう立ち読み

 する客だから、嫌がらせしたのかと」

みずき「て、てゆうか、話しかけるな。男と

 親しくするために働いているわけじゃ」

雨宮「毎週ネズミーランドに行って、ミッチ

 ーに会うためっすよね。労働するにあたっ

 て、同僚と親しくすべき、とは僕も思いま

 せん。僕たちは同士じゃないですか」

みずき「分かっているなら、雑談は」

   上半身びしょ濡れの江口悠子(30)

   が店に入ってきて、みずきを見るなり、

悠子「ドライヤー貸してー(と泣き付く)」

みずき「……ここはコンビニです」

悠子「控え室にあるでしょ、どうせ」

雨宮「……お客様、困りますよ」

悠子「何よ、童貞臭い顔して」

雨宮「童貞臭い顔って何ですか」

みずき「あの、この女、私の連れだから」

悠子「あー、寒い寒い」

   勝手に控え室へ入っていく悠子。

雨宮「……友達は選んだほうがいいっすよ」

みずき「友達なのかは謎だけどね」

 

○コンビニ・控え室(深夜)

   下着姿の悠子、タオルで身体を拭く。

   雨宮、ドアを開ける。振り向く悠子。

雨宮「(声にならない声)ひゃうあ?!!」

悠子「ドライヤーないわね、あり得ない」

雨宮「し、失礼しました」

   出て行こうとする雨宮の腕を悠子が取

   り、振り向いた雨宮の唇に悠子の唇が

   重なる。唇を離し、小馬鹿に笑う悠子。

悠子「ん。やっぱり、童貞じゃん?」

○コンビニ(深夜)

   控え室を心配そうに見るみずき。

   そこへ、酔っ払ったスーツ姿の斉藤

   (29)が入ってくる。下を向くみず

   き。

 

ネズミーランド・園内

   全身、ミッチーのキャラが書かれた服

   や、ミッチーの耳をつけたみずきが、

   とても生き生きとした顔で、はしゃぐ。

   × × ×

   写真投稿SNSに投稿される、みずき

   の撮った園内の写真。

   【週1ネズミー、超充実。ミッチーが

   永遠の恋人。新しいグッズゲット】

   満足そうな顔のみずき。

   SNSのタイムライン、みずきの投稿の

   上に、悠子の投稿。男の部屋らしき場

   所で缶ビールが机に転がっている。

   【飲みすぎた。普段食べないものを食

   べちゃった。うふふ、美味しかった】

みずき「食べたって、何を?!」

   悠子の投稿が続き、男物のワイシャツ

   を羽織り、赤ワインを掲げた自撮り。

みずき「……見境いなくて、最低っ」

 

○コンビニ

   老人の客がゆっくり商品を見ている。

   レジで暇そうにしているみずき。

   雨宮が店に入ってくる。

雨宮「お疲れ様っす」

   雨宮、手で首元を押さえて、みずきの

   前を通り過ぎるが、急に曲がってきた

   老人とぶつかる。雨宮の手が首から離

   れ、首に内出血の跡が見える。

   みずきの視線を感じた雨宮が顔を赤く

   して、慌しく控え室へ入っていく。

みずき「……えええ?!」

○デパート・高級アパレル店内

   黒スーツの悠子が接客している。

   窓の外にもそっと立っているみずきを

   発見した悠子、ひらひら手を振る。

   みずき、ゆっくりと手招きする。

 

○デパート・屋上

   煙草を吸う悠子、黙っているみずき。

悠子「30歳を過ぎた童貞は魔法使いって言

 われるんだって、私言ってやったわけよ」

みずき「は? 突然何の話」

悠子「雨宮君とやったのか、聞きに来たんじ

 ゃないの? ふふ、片思い歴何年?」

みずき「違う! 悠子が何人の男と性的関係

 を持っていようが私には関係ない」

悠子「え? じゃあ、話すのやめる」

みずき「……い、言い過ぎました」

悠子「人生一度きり、遊び倒そうって決めて、

 一期一会セックスを楽しんでるだけよ」

みずき「いや、雨宮の話なんだけど」

悠子「本人に聞いてみなよ」

みずき「は?! でも、あの、首のアレ」

悠子「人の事より自分の心配しなさいよ。

 30歳で処女って誰も有難がらない。

 さっさとドブにでも捨てなさいよ~」

みずき「う、うるさい!! 世の中には恋愛

 と無縁の人間がいっぱいいるのに!!」

悠子「怖いだけでしょ。ねえ、合コンに呼ん

 であげるよ? 気になる人もいないの?」

 

○コンビニ(深夜)

   酔っ払った斉藤がズボンのポケットを

   漁っている。

斉藤「あれ、さ、財布がない……」

   レジのみずき、視線を泳がせている。

   斉藤、レジの商品をいったん戻そうと

   する。商品の籠を手で押さえるみずき。

斉藤「え?」

みずき「あ、あ。このままで」

斉藤「すんません(にこっ)」

   斉藤は店の外に出て、財布を捜す。

みずき「……困っている人を助けるだけ、下

 心ではなく親切心。……それだ」

   みずきも店の外へ行く。

   コンビニの中から雨宮が、斉藤とみず

   きのやり取りを覗く。

 

○コンビニの外(深夜)

   財布を持った斉藤がみずきに頭を下げ、

斉藤「助かりました。有難うございました」

みずき「(俯き)い、いえ、いつもご利用い

 ただいていますから」

斉藤「……家族のいなくなった暗い部屋に帰

 るのが嫌で、どうにも飲み過ぎてしまう」

みずき「……はあ」

斉藤「お姉さん、今度一緒に飲みに行きませ

 んか? これ、僕の名刺です」

   みずき、斉藤から名刺を受け取り、そ

   して、はっとした顔になる。

みずき「す、すいません。大丈夫ですので」

   みずき、慌てて店内に。

   斉藤、頭の後ろを掻いて立ち尽くす。

 

○コンビニ(深夜)

   雨宮、みずきの様子をちらちら見る。

雨宮「……ああいうのが好みなんすか」

   棚卸し中のみずき、固まる。

みずき「違う……そういうのじゃ。ってゆう

 か、無駄口叩くなって言ってるのに」

雨宮「30年守ってきたものを、あんな男

 に捧げちゃうんですか」

みずき「……あ、あのさ、捧げないし、私に

 恋愛話を振っても意味ないから」

雨宮「仲間だと思ってたから。ちょっとガッ

 カリ……酒を沢山飲まされて、勢いで抱か

 れて、普通の恋愛信者に成りさがるんだ」

みずき「仲間って何よ。私は恋愛に向いてい

 ないだけで、過去には恋の一つだって」

雨宮「それ、何十年前の話ですか?」

みずき「うるさい。やけに絡むわね」

雨宮「分かっちゃったんで。僕、あなたが…

 …。あの人に無理やり(ごにょごにょ)で

 も、不器用で可愛いあなたが……僕は」

   みずき、手の中のポテチの袋を雨宮の

   胸に投げつける。

みずき「ば、バカにするな!」

雨宮「は?」

みずき「悠子と寝て自信つけたのか知らない

 けど、プライド持って恋愛不適合な人生生

 きてるんだから!」

   目に涙を滲ませ、拳を強く握って、立

   ち尽くすみずき。

   床に落ちたポテチの袋を、雨宮思い切

   り踏みつける。

雨宮「……信じてくれないなら、もういい」

   

○コンビニの外(夕方)

   斉藤が植木に腰掛けている。

   私服姿のみずきが目の前に立つ。

斉藤「(顔をあげて)お疲れ様」

みずき「魔法使いになりたくないんです」

斉藤「……何の話?」

   みずきはミニスカートの裾を、恥ずか

   しそうに下にずらし、笑う。

20枚シナリオ 『雨』

田舎から上京してきて頑張って働いている女の子に捧げたい、そんなお話です。

情景を意識して書きました☆

(古い作品、ちょこっとずつアップ中ですw)

 

___________

 

「甘雨の君」  

           

☆人物

斉藤 晴香(24)OL

西 浩史(18)ダンサー

斉藤 リンカ(17)晴香の妹

野村(45)晴香の上司

女1、女2 晴香の同僚

 

○西新宿・高層ビル街・路上(夜)

   勤め人がおのおの新宿に向かっていく。彼らの色とりどりの傘が列を作り、せかせかと駅へ進んでいく。

   その中、俯きがちに歩いている斉藤晴香(24)。パンツスーツの裾が濡れている。傘を持っていない左手で、うねる前髪を押さえつけていると、その視線の先、高層ビルの下、雨に濡れながら、激しく踊っている西浩史(18)の姿。

   晴香は目を見開き、そして、周りを見渡すが、浩史に気をとめているのは晴香だけ。

晴香N「変人は見て見ぬフリ。それが東京。

 上京して2年、新宿駅で迷子にはならない

 けど、変人や浮浪者を見て見ぬフリはまだ

 出来ない」

   晴香、駅に向かう人ごみから抜け出して、浩史を見つめる。

晴香「何か、生きてる、って感じ、する」

 

○晴香のマンション(夜)

   1Rの部屋のベッドの上で、部屋着

   姿で缶チューハイを飲んでいる晴香。

   浴室のドアを開けて、斉藤リンカ(17)が出てくる。

リンカ「お姉ちゃん、リンカのトリートメ

 ント使った? 使ったでしょ?!」

晴香「え、使ってないって、気のせい」

リンカ「あれ高いから、ちみちみ使ってん

 のに。買って弁償して!」

晴香「家出して、勝手に居座ってる身のく

 せに、ごたごた言うな!」

リンカ「あ、やっぱり使ったんじゃん」

   リンカは肩からさげたタオルで髪の毛を拭きながら冷蔵庫を開けて、炭酸の缶のプラグを開けて、一口飲む。

晴香「あと、1年我慢しなよ。そしたら、

 こっちに来て、一緒に住む物件見つけた

 らいいし、ね?」

リンカ「自分の家なのに居場所ないなんて

 最悪。このまま、東京にいたい、長野

 に帰りたくない、あんな田舎大嫌い」

晴香「義理の母親と、生まれたての義理の

 弟がのさばっているもんね」

リンカ「パパ、完全に尻に敷かれてる」

晴香「ねえ、話は変わるけど、さっき新宿

 でさ、雨に濡れながら踊り狂っている男

 の子が。ちょうどリンカくらいの」

リンカ「(目を輝かせ)イケてた?」

晴香「顔は見てないけど、上手だった」

リンカ「でも、雨の中踊るとか、変な人」

   晴香、窓のほうに目をやる。

晴香N「連日続いていた雨はその晩で止ん

 だ。その後数日間、微妙な天気が続いた。

 仕事の帰り道、あの男の子が踊っていな

 いか探したけれど、見当たらなかった。

 そして、また、雨が降った。同じような

 夜、私は踊っている彼を見かけた」

 

○西新宿・高層ビル街・路上(夜)

   帰宅ラッシュの傘の長い列。

   きょろきょろしながら歩いている晴香。    

   逆走してくるサラリーマンのために、

   赤い傘を少し上にして避ける。晴香は

   雨の中踊っている浩史をみとめる。

晴香「いた!」

   列を抜けて、晴香は少しだけ浩史に近

   づき、黙って立ったまま、浩史のダン

   スを見る。浩史は気にすることなく踊

   り続ける。

   浩史の顔をはねる雨雫。筋肉のほどよ

   くついた胸に張り付いているTシャツ。

   晴香は食い入るように浩史を見つめる。

リンカ(声)「それって、恋?」

 

○新宿・高速バス乗り場(深夜)

   バスに乗り込んでいく旅行客たち。

   キャリーケースを持ったリンカ、見送

   る晴香。

晴香「2週間かあ、あっという間だったね」

リンカ「これ以上いたら、お姉ちゃんの新し 

 い恋を邪魔しちゃいそうだったからさー」

晴香「だから、まだ、そんなんじゃ」

リンカ「未成年に恋するのは勿論危険だけ 

 ど、心の中は不可侵領域だから、誰にも許

 されているんだからね、自由なの」

晴香「難しい言葉使うようになって」

リンカ「いつでもラインしてよ」

   バスに乗り込むリンカ。

   晴香、腕を組み、見守っている。

晴香N「リンカにかわって、私が長野に帰り

 たい。東京に2年もいて、未だに慣れなく

 て、たまに息苦しくなる。でも今は……」

   バスの窓のカーテンが開き、リンカが

   中から手を振っている。

   晴香、笑顔になり、バイバイと言う。

晴香N「私には、あの人がいる」

   晴香の足元のアスファルトに雨が降っ

   てきて、どんどん黒く濡れていく。

 

○西新宿・高層ビル街・路上(深夜)

   晴香、傘を差しながら手を挙げている

   が、なかなかタクシーは捕まらない。

   晴香、ため息をつくが、はっとして、

   職場のほうへ足を向けて歩き出す。

   × × ×

   晴香、雨の中踊る浩史を見つけ、意を

   決して、近づいていく。晴香を見て、

   浩史は踊るのをやめ、目を見開き、ぽ  

   かーんと口を開ける。  

   晴香は「え?」という顔をする。

浩史「お姉さん、何者?」

晴香「え……あ、決して怪しい者では。ごめ

 んなさい。えっと、あなたが踊っているの

 を何度か見かけていて、つい声をかけてし

 まって」

   晴香、頭をさげ、立ち去ろうとする。

浩史「あの、違うんです。話、したいんで

 す! 行かないで!」

晴香「え?」

   × × ×

   屋根の下、晴香がガラス窓に向かって

   立っている。笑顔の晴香が映る。

晴香「また、来てもいいですか?」

   晴香、俯き、嬉しそうに笑う。

 

○西新宿・NSビル・オフィス(夕方)

   広いフロアに白いデスクが並べられ、

   ノートパソコンや書類が整然と置かれ  

   ている。従業員が100人ほど働いて

   いる。晴香、パソコンで事務作業をし

   ている。

野村(声)「斉藤、ちょっといいか」

   晴香、顔をあげる。

 

○同・同・同・会議室(夕方)

   ワイシャツ姿の野村(45)が難しい

   顔をして座っている。目の前に萎縮し

   て座っている晴香。

野村「人間関係で何か悩んでいるなら、俺に

 相談しろよ。抱え込んでないでさ」

晴香「え? 何のことでしょうか」

 

○同・同・同・女子トイレ(夕方)

   個室の中、晴香が座っている。

   女子事務員2人が洗面台の前に立ち、

   メイク直しをしている。

女1「聞いた? 斉藤さんの話」

女2「やっぱり田舎の子はメンタル弱いんだ

 じゃない? うち、確かにブラック企業

 けど、欝であそこまでいっちゃうのはね」

女1「やばいねー。幻覚見て、ブツブツ言う

 とか、やばい薬してたりして」

女2「え、そこまで? あんな地味な顔で」

   個室の中から晴香が飛び出してくる。

晴香「幻覚じゃない! 変な噂、流さない

 で! あなた達が鈍感でいろんなことを見

 逃して、そうやって生きていくのが都会の

 人なら、私は田舎者でいい!」

   女1、女2、顔を見合わせ、笑う。

女1「やばい」

女2「ムキになりすぎ」

   晴香、トイレを飛び出していく。

 

○西新宿・高層ビル街・路上(夕方)

   晴香がきょろきょろと歩いている。空

   から雨が降ってくる。晴香がはっと顔

   をあげて、振り向くと、浩史が立って

   いる。

晴香「会えた……」

浩史「仕事中じゃないの? どうしたの?」

晴香「みんなが、あなたが幻覚だって、私

 がおかしいって決め付けるから、だか

 ら、会いたくなって、それで」

浩史「……奇跡だった。お姉さんだけが、

 俺に気がついてくれた」

   浩史はガラスの窓に歩いていく、ガラ

   スの窓に浩史は映らず、浩史は悲しそ

   うに晴香を振り返って見る。

浩史「雨の日に、あそこの交差点で車にひか

 れたっぽい。で、ずっと、ここにいた」

晴香「(顔がひきつる)誰の話してるの?」

浩史「やっぱりここに居たらいけない。俺と

 話してたら、お姉さんが変人扱いされちゃ 

 うから。だから、俺、いくね」

晴香「行かないで。そんなのどうでもいい」

浩史「俺に気がついてくれて、ありがとう」

   浩史、晴香に近づき、頬に口付ける。

   晴香が浩史の身体に触れようとすると、

   浩史の姿が消える。晴香の手から傘が

   落ち、水溜りの中、ころんと回転する。

 

○西新宿・高層ビル街・路上(夜)

   勤め人がおのおの新宿に向かっていく中、晴香が背筋を伸ばし、歩いているが、猫の声を聞き、列を抜ける。道端の段ボールに向かって走る。

   段ボールの中の子猫が鳴いている。

   晴香は子猫を抱き上げ、笑う。

晴香「もう、1人にしないからね」

短編小説☆ ミミズの絵馬

深大寺恋愛小説向けに書いたものです。深大寺に行ってないのに書いたので、やはり取材って必要だなと痛感しながら、、、、お友達のシナリオライターさんのアイデアをかなり頂いて原作からかなり変えました☆

 

 

『ミミズの絵馬』

 

 

「白くて丸いカメを見た!」

 目を輝かせた康平が、私の手をひいて連れて来たのは、深大寺境内の五大尊池だった。

「あそこには、鯉しかいないって」

「本当だって。見せてやるから」

 私達は10歳で、男とか女とかの意識もなく、野山を駆けずり回って遊んでいた。私の手を握る康平の手がやけに汗ばんでいた。

 池に着き、私と康平は池の中を覗き込んだ。池の水面に映っているのは、間抜けな顔をした少女と少年だった。

「あっ、カメ!」

「えっ?」

 目を凝らしてよく見ると、それはカメではなく、白くて真ん丸とした月だった。

「どう間違えたらカメになるのよ」

「本当だって! ここでカメを見たんだから。一番にお前に教えたくて連れてきたのに」

 康平は鼻の頭を指先でこすり、私のほうを見て、照れたように笑った。

 

 

「いらっしゃい」

 私は行き着けの文房具屋に居る――ここは康平の実家だ。丸の内の大手企業に就職して一人暮らしをしていた康平が、ふらっと戻ってきたのは最近のことだ。今、私の目の前で、20年前からまったく変わらない、呑気な笑顔を見せている。

「もうすぐ、結婚するんだって?」

「げっ、誰情報よ」

「お前のおばさん経由、俺の親父」

「本当、プライバシーの欠片もないよね」

「いいじゃん。おめでと~」

 康平はボールペン売り場を指差す。

「お前のお気に入りのやつ、新作入ってる」

「ありがと。さすが分かってる~」

「るせえ。これ、試し書きに使えば?」

 私は康平から紙を受け取り、紙の上にボールペンをさらさらと走らせた。

「相変わらず、汚ねえ字書いてるんだろ」

「個性的って言ってくれる?」

 私の悪字は、通信教育のボールペン字講座でも直らない。ミミズが躍り狂ったような字だ。婚約者の宣彦にも、「もう少し女らしくしたら?」と、常日頃言われている。

(どうせ、字も料理も下手な花嫁よ)

「それ、お買い上げになります?」

「お客さん少ないみたいだし、ね」

「いつ潰れるか、ヒヤヒヤするよ」

 ボールペンをカウンターに持っていくと、康平が丁寧に包装してくれる。

「……幸せになれよ」

 康平がスツールから立ち上がり、包装されたボールペンを私に差し出す。私よりも背が20センチ以上は高くて、上目遣いになる。

(身長を抜かれたのは中学の時だったかな。童顔は変わらないけど、ちょっと男っぽくなった気もしなくもない、かな)

「康平は彼女いないの? 会社の後輩、紹介するよ。私と違って、お料理上手な子がいるからさ。試しに、合コンする?」

 康平の目に少しだけ悲しげな色が浮かんだように見えたが、気のせいだろう。

「俺のことはいいんだよ、バカ」

 私は康平に軽く頭をこずかれて、店を出た。

 

 

 あれから2週間が経った。人は困り果てると神頼みする。私もその1人で、今、深大寺の外門をくぐったところだ。

(私のことを本当に好きになってくれる人はいつ現れるんだろう。どこにいるんだろう。それくらい、教えてくれたらいいのに)

 絵馬の掛けられている所に歩を進めると、安産祈願、合格祈願など、思い思いの字で願い事が書き綴られている。何気なく見ていた私は、思わぬ地雷を踏んでしまった。

 元婚約者の宣彦の名前と見知らぬ女性の名前、そして、「彼と幸せになれますように」と3ヶ月前の日付が添えられた絵馬を見た。

(……誰……? 何なの、これ)

 一昨日、私は宣彦から婚約破棄を言い渡されたばかりだ。

 宣彦と結婚式場を見に行き、教会の下見をしていた時のことだった。私の目を見ることなく、宣彦は悪びれもなく私を振ったのだ。

「やっぱり無理だ。君じゃない気がする」

「やっぱりって……何なの?」

「仕方ないだろ。だって、好きな人が出来ちゃったんだから」 

 フラッシュバックに、目の前が真っ暗になり、私はその場にうずくまる。頭がガンガンと痛み、目を瞑る。だが、この現実はどこにも吹き飛ばず、私の目の前に居て、困った顔をして立っている。

 私は、絵馬に願いを書く所に戻り、荒々しく願いごとを書き綴る。自分の恨み辛みを詰め込んだ禍々しい絵馬を、宣彦とその彼女の絵馬の隣にかけ、手を合わせて目をつぶる。

(どうか、彼らが幸せになりませんように)

 

 

 宣彦の両親から、婚約破棄の謝罪と慰謝料の打診があったのは、その数日後のこと。

 母は、「宣彦さんと話をさせろ」と向こうの両親に怒り狂っていたが、両親の平謝りに根負けして、口を噤んだ。私は母に頼み込む。

「大げさにしないで。お願いだから」

 早く忘れたい私にとっては、母のすることは、傷を更に大きくする二次被害だった。

「悔しくないの? 女の良い頃を全部宣彦さんに捧げてきたのに。こんな目にあって!」

「私が悪いの。女らしくなくて振られたし」

「そんなこと言われたの?!」

 何を言っても、母の怒りは収まらない。それが逆に私の心を少し静かにさせた。

 

 

 私は会社を休み、2泊3日の小旅に出かけることにした。心配した母がついてきて、

「どっかで飛び降り自殺でもしそうな顔してるから。絶対ついていくからね」

 と言った。おかげで、少し気持ちも落ち着き、私はいつもの生活に戻った。

 

 

 久々に会社に出勤したので、私は一心不乱に働くことにした。失恋を忘れるには忙しくするしかない。頭の中には、あの絵馬のことがあった。

(勢いに任せて書いてしまったけど、人に見せられるものじゃない。片付けにいこう)

 

 仕事の帰り、私は深大寺に出向き、絵馬のかけられている所へ急いだ。夏の夜らしく、日が長いため、自分の絵馬も探し易そうだ。

(あれ……ここにかけておいたんだけど)

 絵馬の位置が変えられているかもと、必死に探していると、私に声をかける人がいる。

「探し物は見つかった?」

 振り返ると、康平が立っている。

「ここで、何してんのよ」

 やましいことがあると、人は逆切れする。

「これ、だろ。お前が探してるの」

 康平は肩から提げている鞄から、絵馬を取り出して、私に差し出す。どう見ても、絵馬のミミズ文字は私が書いたものだ。

「どうして康平が持ってんのよ。あ、おじさんから聞いた? こんな絵馬書いて、だせぇって笑いにきたの? バカにするなら、しなさいよ。30前で振られた惨めな私のこと」

 康平にまくし立てながら、私の目から涙が溢れていく。宣彦に振られた日から、何故か泣けなかった。悲しみという感情にまで行き着いていなかったことに今更、気がつく。

「本当、お前はバカだよな」

 康平はズボンの尻ポケットからハンカチを取り出すと、私の顔に押し付ける。そして、絵馬のかけられているところに歩いていく。

「ば、バカだけど、こんなの書いちゃってダメだなって思ったから取りに来たのよ。なのに、アンタが私の絵馬を持って帰ったりしてるから。本当に恥ずかしい! バカ!」

「怒るか、泣くか、はっきりしろよな」

 康平が呆れた顔をして振り返る。康平の手の中に、ひとつの絵馬がある。

「何、それ」

「……これ、俺がちょっと前に書いてたやつ、お前にやるよ」

 康平が絵馬を私に差し出した。

「……俺が何のためにこっちに戻ってきたか、お前、分かんない?」

「え?」

 康平が書いた絵馬にあったのは、康平の、変わらない字と私への優しい思いだった。

「池に浮かぶ月のように、好きな人の幸せを優しく見守れますように……って?」

 私の問いかけに康平は視線を外す。2人の間に沈黙が訪れ、木々のざわめきや葉の掠れる音が、耳の中に響いてきた。

 康平は私に向き直り、昔見せた、照れたような、それでいて、怒ったような顔で、

「半年前、俺がこっちに戻ってきたのは、お前が彼氏と微妙だって悩んでたからで。近くにいてやれたらなって思ったからであって」

「あ、思い出した」

「おそっ」

「違うの。もっと前のこと。この池で、康平がカメを見せてやるって連れてきてくれた時のこと。あの時も康平は私を喜ばせようとして、ここに……」

 私は康平に引き寄せられて、強く抱きしめられる。康平の胸の、子どもの様な心臓の早さに私は思わず、噴き出す。康平は更にぎゅっと私を抱きしめる。懐かしくて、愛おしくて、私の頬を暖かい涙がすべり落ちていく。私の唇に康平の唇がそっと触れた。

 

 

 池の水面に浮かぶ白い月が、風にそよぎ、ゆらゆら揺れる。私達はそれを眺める。

「あれ、やっぱりカメだったと思うな」

「月、でしょ、どう見ても」

「でも、カメのほうがめでたいだろ?」 

 私のミミズ文字の絵馬の上にかけられた、不器用で、でも優しい康平の字が書かれた絵馬が、カランと明るい音をたてて笑った。

20枚シナリオ『弁護士』

弁護士を書くに必要な知識が皆無で、かなり誤魔化した感すごいですね。苦笑

色々突っ込みを受けそうですが、弁護士ドラマって好きです><

 

_________________________

 

「遠くて近い幸せ」

              

 

★人物

梅田 さくら(28)パラリーガル

新垣 類(35)弁護士

アンディ(38)フリーカメラマン

中村 玲子(28)新垣の顧客

中村 俊樹(24)俊樹の夫

遠山 奏汰(27)俊樹の弁護士

 

 

○アポール法律事務所・内

   10人程度の所員がパソコンに向かっ

   ていたり、書類を整理したりしている。

   うんざりした顔でため息をつき、伸び

   をする梅田さくら(28)。斜め前の

   席に座る新垣類(35)が声をかける。

新垣「いい加減慣れなさいよ」

さくら「こんなのに慣れたくありません」

新垣「離婚は4人に1人がする時代なんだか

 らさあ。おかげで僕たちはご飯を食べられ

 るわけで。後で、丸井食堂にでもいく?」

さくら「いきます! というか、人生で一番

 とも言える、慎重を要する決定事項である

 結婚を、みんなホイホイし過ぎなんすよ」

新垣「……バツ3の僕へのあてつけかな?」

さくら「何で毎日のように証拠写真の情事写

 真や盗聴された生々しい声を聴かないとい

 けないんですか?!」

新垣「じゃ、早く試験に受かって、自分のしたい業務につけるようにするんだね」

さくら「それ言われると何も言えないっす」

新垣「来週には相手方との話し合いだから、

 さっさと資料まとめちゃってよ」

さくら「承知しました」

 

○小さなアパート・外観(夜)

   道を歩いてきたさくら、アパートを見

   上げる。2階の自分の部屋の明かりが

   ついていて、どこかほっとした顔。

 

○同・さくらの部屋(夜)

   台所で、エプロン姿のアンディ(3

   7)がパスタを作っている。さくら、

   後ろからのぞきこみ、匂いを嗅ぐ。

さくら「アマトリチャーナだ!」

アンディ「(振り返り笑顔で)夜食にどう。

 これから勉強するでんしょ?」

さくら「もちろん。今年こそ受かりたいし」

アンディ「じゃ、500円になりまーす」

さくら「うっ、金欠なんで、もう一声!」

アンディ「フリーの僕なんかより、君の方

 が稼いでるっていうのに?」

さくら「何よ、家賃、光熱費は誰が出してる

 と思ってるのよ」

アンディ「(渋って)460円」

さくら「ケチなイタリア人なんて嫌い!」

アンディ「さくらって名前のくせに、大和撫

 子の欠片もない君に言われたくないなあ」

   × × ×

   食卓でパスタを食べるさくらを黙って

   見ているアンディ。

さくら「アンディのパスタは、本当最高!」

アンディ「あのさ、イタリアに帰ることにな

 った」

さくら「え? え、突然どうしたの?」

アンディ「実は3週間前からママが入院して

 て、妹が面倒みてくれてたんだけど、どう

 やら妹も限界みたいで。僕もママの世話し

 に一時的にね」

さくら「あ……一時的なんだ」

アンディ「でも、いつまで日本に居るか、

 悩んでたところで。ねえ、さくら」

さくら「何?」

アンディ「僕と一緒にイタリア行かない?」

さくら「は? 何で私? いきなり何!」

アンディ「僕たちはプラトニックというか、

 友人ではあったけど、僕の中で、さくら

 はもう家族というか……うん」

さくら「む、無理、無理、無理!!」

アンディ「そういう反応は予想はついてた」

   寂しげに笑って立ち上がるアンディ。

さくら「あ、ごめん、ちょっとビックリして、

 あの、でも、私は弁護士になりたいから、

 今は恋愛とか、ましてや海外に行くとかそ

 ういうのは……」

アンディ「知ってる。でも、いつまでも司法

 試験を受け続けるつもり? どうして弁護

 士にこだわるの?」

さくら「……それは……」

アンディ「肝心な事は話してくれなかった」

   アンディ、部屋を出て行く。

さくら「……ただの同居人のくせに」

   パスタを一口食べて、ため息をつく。

 

○アポール法律事務所・応接室

   さくら、新垣の隣に、正面の中村俊樹

   (24)を睨みつけている中村玲子

   (28)が座る。俊樹の隣には、スー

   ツを品良く着こなす遠山奏汰(27)。

遠山「浮気という定義で言えば、一度そうい

 う事があったからとはいえ、300万の慰

 謝料というのは法外ですよね」

新垣「玲子さんのお気持ちを考えると妥当な

 金額かと」

玲子「そうよ。びた一文負けないんだから

 ね! 大体、ヒモで6年私の拗ねかじっ

 て来て、この仕打ちって何よ!」

さくら「玲子さん、落ち着いて下さい」

俊樹「お前が俺の夢を応援するとか言って、

 部屋に住まわせたり、携帯電話家族割り

 に勝手に入れたり、そんなんで流されて籍

 入れた俺の気持ちにもなってくれよ」

玲子「はあ?! てめえ、表に出ろや!」

遠山「元ヤンの奥さんが家庭で癒しを提供で

 きなかったから旦那様は浮気したのでは」

玲子「は?」

新垣「こちらとしては、バイトでも何でもし

 ていただいて、きちんと慰謝料を支払って

 頂きたいの一点です」

さくら「……夫婦どちらにも問題はある。だ

 って、結婚って共同作業なわけですよね。

 というか、契約ですから」

遠山「あなたはどっちの立場で話しているん

 ですか」

玲子「私は何も悪くないんだから!!」

   机につっぷして泣き始める玲子。

 

○さくらの部屋(夜)

   アンディが段ボールに荷物を詰めてい

   る。さくらを撮った写真を眺める。

アンディ「懐かしいな……」

   さくらが帰宅する。

さくら「わ、かなり荷造り進んでるね」

アンディ「さくら、淋しかったら、また僕み

 たいな同居人を探したらいいよ。まあ、

 僕のような紳士はそうそういないし、女の

 子とかそういうのがいいんじゃない」

さくら「……淋しいから、一緒に住んでいい

 って言ったわけじゃないから」

アンディ「……そか。そうだよね」

   再び荷造りをし始めるアンディ。

さくら「あ、これ、段ボールの蓋、ちゃんと

 閉めないと。相変わらず雑ね」

アンディ「さくらは細かくて、慎重過ぎ。思

 い切りよく行動する方が道は開けるよ」

さくら「名言っぽい」

アンディ「でしょ」

   さくらも一緒に荷造りを手伝う。

さくら「あ、懐かしい写真あるね。出逢った

 頃の。私、まだ大学院生だったね」

アンディ「ここまで司法試験に落ちるなんて

 思いもしなかったさくらであった」

さくら「ナレーションやめろ」

アンディ「これ、全部あげる。僕が有名なカ

 メラマンになったら友達に自慢してよ」

さくら「100年待てばいい?」

アンディ「あはは。死んでる、死んでる」

   さくら、アンディから写真の束を受け

   取る。アンディ、さくらをじっと見る。

 

○さくらの部屋

   部屋がすっきり片付いている。

   アンディが静かにドアを閉める。

 

○アポール法律事務所・ミーティングルーム

   新垣、さくら、向かい合って座る。

新垣「良くも悪いニュースだ」

さくら「えっ、どうしたんですか」

新垣「中村玲子さんが離婚を取り下げると言

 ってきた。気が変わったらしい」

さくら「は? どうしてですか」

新垣「旦那の夢とか何だか話してたけど、ど

 うやら成功したみたいで、態度を豹変させ

 たってわけ。妻の座で、貢いだ6年分搾り

 取るつもりかもね」

さくら「結婚って何なんですかね……」

新垣「バツ3だから言うけど、結婚はいい」

さくら「懲りてないっすね」

   さくらの携帯電話が鳴る。

新垣「こら、仕事中だぞ」

さくら「すいません。って、え?」

   携帯電話のメッセージ。アンディから。

   『ラストチャンス。石橋を壊して、自

   分の殻を破って、こっちに来てよ。空

   港で君を待つ アンディ』

   さくらの目が揺らぐ。思わず立ち上が

   って、新垣を振り返って見るさくら。

新垣「な、何、どした?」

 

○成田空港・国際ターミナル(夕方)

   大きなキャリーケースの上に座って

   飛行機場を眺めているアンディ。

さくら「この、バカ!!!」

   アンディが振り返ると、さくらが居る。

アンディ「バカって……最後のお別れの言葉

 がそれ?」

さくら「言いたいことだけ言って、イタリア

 に帰らせないからね! た、ただの友達

 のために、こんな所まで来ないんだから」

   アンディ、さくらの近くに歩いていく。

さくら「で、でも、一緒には行けない。私

 はここで闘ってる。それに、待たない。で

 も……アンディを想ってる」

   アンディ、優しく微笑み、さくらの手

   をとる。さくらもアンディを見上げ、

   照れたように笑う。

アンディ「よく渡れました。百点。飛行機に

 乗れたら一万点あげたけどね」   

さくら「元気で!」

   さくらの目から、涙が一粒零れていく。 

20枚シナリオ『医者』

 

医療ものを書くにあたって、まず困ったのはオペシーン入れたいけど、どっから情報得たらいいんだろうというのがありました。ドクターXもチームバチスタの栄光も大好きですけど、専門用語浮かばない、、、つらっというのがあり、そこらへんめっちゃツッコミをもらっています。勉強大事ですね。

 

職業シリーズは次回の「弁護士」で終わり。

職業ものはキャラから考えるのでやはり書いていて面白いです。弁護士が出てくるお話はかつて書いたものの、やはり法律用語とか法廷シーンとか書きたいですよね♪

ということで本編です。。。

 

 

「腹切り時」

         

★人物

井上 タスク(33)外科医

浅田 博人(43)外科医

福嶋 千鶴(43)看護師

梅本 ゆい(26)看護師

井上 晴美(33)井上の妻

井上 浩太(0)井上の一人息子

 

○私立大学病院・オペ室

   手術台に横たわる患者の周りに、慣れ

   た顔で患者を見下ろす、浅田博人(4

   3)と、おろおろした顔で患者を見て

   いる井上タスク(33)が立つ。その

   近くに、福嶋千鶴(43)、梅本ゆい

   (26)が控えている。

   浅田が部屋の時計を見上げ、

浅田「それではただいまから、田中良太さん

 の腹腔鏡手術を始めます。よろしくお願い 

 致します」

一同「よろしくお願い致します!」

浅田「メス」

   慣れた様子で千鶴が浅田にメスを手渡

   す。それを井上はじっと見つめるが、

   何度か目をしぱしぱさせる。

○井上の回想・井上家・寝室(夜)

   井上晴美(33)が、泣き喚く井上 

   浩太(0)を立って抱っこしながら、

   あやしている。ベッドで寝ている井上、

   むくりと起き上がり、不機嫌な顔。

井上「今度は何。おっぱいは?」

晴美「飲まないのよ。どうしちゃったのかし

 ら。浩太~、さっさと寝んねしましょうね

 ~。今日何度目よ、起きるの(舌打ち)」

井上「明日、俺、手術の助手につくんだよ、

 忘れた? 浅田助教授が途中で代われって

 言ったら、俺、執刀代わるんだよ? こん

 な寝不足で手術に向かってごらんよ?」

晴美「助手でしょ。代わってなんて言われな

 いって。それに、あなた、前に失敗してか

 ら、ずーっと助手なわけで」

井上「……あの手術を経験してから、本当は

 メスなんて握りたかないんだよ。でも、医

 者をやめたら、浩太はどうやって育てんだ

 って話で」

晴美「内科にすればよかったのよ。かっこよ

 さで外科選んだのはタスクじゃん」

井上「私、失敗しないんで、とか、何なんだ

 よ~。人間だから失敗するよなあ?」

浩太「ぎゃ~(さらに大声で泣く)」

晴美「やめてよ。浩太、あの女医者嫌いなん

 だから」

井上「とにかく! 早く泣き止ませてくれ」

   

○元の・私立大学病院・オペ室

   再び目をしぱしぱさせる井上。

   浅田、手を動かしながらも、ちらっと

   井上を見る。

浅田「当事者意識ってものがないのか」

井上「はっ。といいますのは」

浅田「ここに居る医者、看護師ともに、この

 クランケを助けるという強い気持ちを持た

 ねばならん。分かるな? 汗」

   千鶴が浅田の額の汗をぬぐう。

井上「も、もちろん、分かっております」

   オペ室のスピーカーから声が聞こえる。

男の声「浅田助教授、藤波議員のお孫さんが

 急患で運ばれてまいりました。藤波様が浅

 田助教授にみていただきたいと」

井上「は?」

浅田「やれやれ。ほら、こういう事があるん

 だ。よくモニターを見て、しっかり腫瘍を

 取り除くように」

井上「え?! さっき、このクランケを助け

 るっておっしゃったばかりじゃ……」

浅田「いつまでも助手でいるつもりか? 昔

 の失敗に立ち向かう、良い機会じゃないか。

 (にっこり笑って)頼んだぞ」

千鶴「浅田助教授、でも、井上先生じゃ、あ

 んまりですよ……最後までお願いします」

井上「そ、そうです。福嶋さんの言うとおり

 で。わ、私に務まるわけが」

浅田「……お前、それでも医者か。突っ立っ

 てないで、さっさとメスを取れ! じゃ」

   浅田がさっさと手術室から出て行く。

   絶望した顔で呟く井上。

井上「……医者ですけど、へたれです」

千鶴「井上先生、続き、お願いしますよ」

   能面のような顔の千鶴から、井上はメ

   スを受け取り、喉をごくんと鳴らす。

 

○同・手洗い場

   井上、手袋を取り、手を洗っている。

井上「何とか、終わった……」

   千鶴が顔を後ろからのぞかせ、

千鶴「45点」

井上「うわっ」

千鶴「あんな緻密な作業が必要なところで、

 くしゃみが出るからって、手術中断させる

 なんて……。くしゃみなんて、気合いで何

 とか抑えられるものです」

井上「患者さんにかけちゃダメじゃないです

 か。それに、何とかなりましたよ」

千鶴「ほぼ、私が口出したからでしょう!

 はあ、何でこんな人が医者なんでしょうか

 ね。後で、浅田助教授に文句言ってこよ」

   二人の後ろを通る、ゆい。

ゆい「お疲れ様でした」

千鶴「梅本さん、お疲れ様」

井上「はあ、もう切りたくない」

   井上は千鶴とゆいに頭を下げて立ち去

   る。

ゆい「……あの、福嶋さん、これ」

   ゆいが千鶴に細いチェーンのネックレ

   スを手渡す。

千鶴「何、これ」

ゆい「あの、床に落ちてまして」

千鶴「私じゃあないわよ。こんな安物つけな

 いもの。え、てゆうか、どこの床?」

ゆい「あの、手術室の。……じゃあ、誰ので

 すかね……あんなところに」

千鶴とゆい「……はっ!」

 

○同・休憩室

   ベンチに倒れこむ井上。左手で顔をこ

   する。

井上「眠い、眠すぎる。一生分の緊張感を使

 い果たした」

   井上、違和感があり、眉をひそめる。

井上「あれ、なんか、変だな」

   再び手で顔をこすり、大きく伸びをす

   る井上。

 

○同・中庭(夕方)

   千鶴、ゆいと井上、向かい合って立っ

   ている。

井上「あの……何でしょうか」

千鶴「ねえ、まさかだけど、手術中にアクセ

 サリー付けてたとか、ないですよね」

井上「まさか~。……あっ」

ゆい「やっぱり」

千鶴「これ、井上先生のですか?」

   千鶴の手の中のネックレスを見て、井

   上、驚いて、固まる。

井上「……これだけ?」

千鶴「はい?」

井上「いや、ここに、指輪を……ネックレス

 に指輪ひっかけて、首にかけてたので」

千鶴「ちょっと待って、ちょっと待って」

ゆい「指輪なんて落ちてませんでした」

千鶴「指輪はどこに行ったのかしら」

井上「……まさか」

ゆい「まさか、そんな事は」   

千鶴「……指輪の行方を知りたくないわ、

 私。なかった事にしましょう」

井上「か、患者の腹に?!」

ゆい「じ、自分で言っちゃった!」

井上「ど、ど、どうしたら……妻に叱られま

 す……」

千鶴・ゆい「ちげぇだろ!」

 

○同・浅田助教授の部屋(夜)

   浅田が難しい顔をして座っている。そ

   の前で、うなだれている井上。

   千鶴が浅田の隣に立ち、井上を睨む。

井上「私の処分は……」

浅田「……で、指輪はプラチナかな?」

井上「ええ。妻と私、お互いに金をためて

 プレゼントしあったもので……」

千鶴「そこじゃないでしょ」

浅田「ううむ、ううむ、こんな事は今まで経

 験した事がない。うっかり者にも程がある

 だろ!」

井上「浅田助教授、指輪を返して貰いたいん

 です。再び腹を切らせて欲しいと患者さん

 にお願いしてもいいでしょうか」

千鶴「患者の心配しなさいよ!」

浅田「いや、私にも責任はある。とはいえ、

 指輪か……うむ」

井上「た、頼みます! 指輪を……」

浅田「いや、無理。私が手術で途中で抜け

 たなんて公に知られたくないし」

井上「ええ~、ど、どうするんですか?!」

 

○井上家・リビング(夜)

   机に向かい合って座る井上と晴美。

井上「というわけなんだ」

晴美「……分かったわよ。別れてあげる」

井上「は?! 何でそうなるんだよ」

晴美「手術中に患者の腹に指輪入れて蓋し

 ちゃったとかさ、ネタ? 私、バカにされ

 てるのかな。浩太連れて実家に帰ります」

井上「あの指輪、本当に大事だから、もう一

 回患者の腹を切らせてもらおうと思ったけ

 ど、浅田助教授に口止めされてて」

晴美「おっちょこちょいなあなたを支えてい

 きたいって思ってたけど、もう無理よ」

井上「う、ウソだろ?」

 

○私立大学病院・一般病室(深夜)

   井上が病室のドアの前に立っている。

   何やらぶつぶつと呟いている。

井上「だから、手術なんて、したくなかった

 んだ……医者なんてやめたい、でも、最後

 の仕事だ。あれだけは……」

   ドア近くの名札の中に、「田中良太」  

   の文字。

   井上の手が、ドアをゆっくり開ける。