シナリオ☆おひとり雑技団

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20枚シナリオ『姉妹』

『みじょか娘』

 

☆人物
松永 うさぎ(12)(25)読者モデル
中村 卯月(14)(27)旅館の若女将
山下 宗治(27)卯月の彼氏
中村 吾郎(55)卯月の父
中村 海子(44)(57)卯月の母
松永 達也(29)うさぎの夫

 


宇久島・宇久平港・フェリー・デッキ
   麦わら帽子を手で押さえながら、栗色の長い髪を風にたなびかせている松永うさ

   ぎ(25)。
うさぎの美しい顔が苦々しく歪む。
うさぎ「くそ田舎…」

○旅館『中村家』・フロント
   カウンターの中で、宿泊客の相手をしているのは中村吾郎(55)。
吾郎「本当に海の幸が美味しいんですよ」
   フロントの奥から、中村卯月(27)が現れる。
卯月「お部屋までご案内しますね」
   卯月、宿泊客である老夫婦の荷物を持ち上げ、階段へ向かう。

○同・入口~フロント
   うさぎが颯爽と入ってくる。サラリーマンがうさぎの姿を見て、姿勢を正す。
   うさぎ、サラリーマンに、にこっと笑って見せて、ぼそっと呟く。
うさぎ「芋。見てんじゃねーよ」
   うさぎ、フロントに近づいていく。
うさぎ「ただいまー」
   目を大きくしている吾郎。
吾郎「ど、どうしたんだ、急に」
うさぎ「旦那と離婚する、その準備」
吾郎「おいおい…いきなりやめてくれよ」

○同・階段~フロント
   フロントにいるうさぎを見て、驚き、笑顔で、小走りで近づいてくる卯月。
卯月「3年ぶり?相変わらず、綺麗ねえ」
うさぎ「…相変わらず、地味にして」
卯月「私には、これくらいがいいのよ」
うさぎ「…私が若女将なら、すぐに人気が出るけどね、きっと。な~んて、しないけど」
卯月「そうね。うさぎなら、きっとなれるわ」
   にこにこしている卯月。
   うさぎ、ぷいっと横を向く。

○(回想)中村の家・和室
   卯月(14)、とうさぎ(12)が座っており、中村海子(44)が紙袋から洋

   服を取り出すのを見ている。
海子「好きなの、選んでね」
うさぎ「全然着られるの入ってないじゃん」
卯月「…じゃあ、お姉ちゃんが着るから…」
海子「あら、そう?」
うさぎ「…いい子ぶって」
卯月「うさぎは可愛いんだから…何でも似合うし、好きな服を買って貰えばいいよ。姉
ちゃんは服が映える顔でもないしね」
   うさぎはふんと鼻をならして、服を蹴散らして部屋を出ていく。

○同・入口~フロント
   山下宗治(27)が入ってくる。
   山下はうさぎを見て、目を見開き、じっと見つめている。
   山下を頭の上から足先まで見るうさぎ。
うさぎのモノローグ「島外か…70点」
   山下は卯月に話しかける。
山下「…卯月さん、この方はお客さん?」
卯月「え?あ…」
うさぎ「博多から来ました~よろしく」
   卯月、目をぱちくりさせている。
山下「ですよね、洗練されていますもん…島の雰囲気から、すっごく浮いてるから」
うさぎ「あ、観光で来ているんですか?」
山下「仕事です」
卯月「…あの…えっと」
   うさぎ、卯月をじっと睨む。
山下「二人は…なんか、雰囲気が似ているから姉妹かと思いましたよ」

○海辺(夕方)
   卯月と山下が肩を並べて歩いている。
卯月「…宗治さんはああいう人が好み?」
山下「え?ああ、一般的には綺麗なんじゃ」
卯月「そうよね…」

宇久島・総合病院・病室
   ベッドの上に座って外を眺めている中村海子(57)。
   花を活けられた花瓶を手に持って、戻って来る卯月。
海子「ありがとうね…忙しいのに」
卯月「ここに来ると気持ちが安らぐの」
   卯月、外を見て、目を細める。
海子「本当に田舎…でも、この海が…私をずっと引き留め続けている…でも、あなただって、外に憧れていたのに…ごめんね」
卯月「ううん。あ、うさぎが戻ってきたよ」
   海子、目を輝かせる。
卯月「近いうちにお見舞いに連れてくるよ」
海子「…あの子は来ないかもね。博多で雑誌のモデルを頑張って、…えらいわよね」
卯月「あの子が若女将なら…もっと…」
海子「卯月、あなたはあなた。十分素敵よ」

○中村の家・居間(夜)
   テレビを見ている吾郎とうさぎと卯月。
   卯月、うさぎの顔を覗き、話しかける。
卯月「ねえ、向こうで何があったの?離婚って…喧嘩でもした?」
吾郎「全然話してくれないから、父さん達、地味に心配してるんだぞ」
うさぎ「…別に…あの人に飽きただけよ」
   卯月、心配そうに見ている。

宇久島・宇久平港(朝)
   深刻そうな顔で海を見ている卯月。   

○旅館『中村家』・フロント(朝)
   うさぎがカウンターの中にいて、ふてくされた顔をしている。
うさぎ「…何で私が…」
   奥から出てきた吾郎が笑う。
吾郎「珍しいよな、卯月が買い物しに島外に行くなんて。うさぎに影響受けたか~」
うさぎ「…今さら」
   私服姿の山下が入口に現れ、うさぎに手を振る。
山下「あれ、うさぎさんが何で…」
うさぎ「卯月さんがお出かけだから、代わってあげたのよ」
山下「…お昼にランチでもどうですか?こんなところで、出会えた記念に」
うさぎ「…ええ」
   吾郎、うさぎの顔をちらっと見る。

博多駅・ホーム
   福岡市の地元雑誌を手に持って、立っている卯月。
   卯月に近寄ってくる、スーツ姿の松永達也(29)。   
松永「…何用ですか…仕事中ですよ」
卯月「うさぎのこと…どうして迎えに来ないんですか…」
松永「大した喧嘩でもないのに大げさなんですよ…分かるでしょう…彼女の気の強さ」
卯月「…あなたは…強気な発言の裏であの子が夢に向かってずっと努力してきたこと、少しは知ってますよね?だったら…」
   卯月、雑誌をぎゅっと握りしめる。
   松永、雑誌に目をやり、そして目線を下に落とし、溜息をつく。

宇久島・定食屋
   うさぎと山下が昼食を食べている。
山下「…何だか…うさぎさん、どこかで見たような気が…よく言われません?」
うさぎ「ねえ、卯月さんとはどういう関係?」
   山下、ぷっと笑いだす。
うさぎ「何ですか、いきなり」
山下「ごめん、姉妹なの知っています。…卯月さんから、うさぎさんの話をいつも聞いているから。なのに、二人とも姉妹じゃないフリし続けるから、おかしくって」
うさぎ「…お姉ちゃんが…?」
山下「モデルで綺麗な妹だからあなたが出会ったら好きになってしまうかもって、前から気にしてたから…でも、僕は…そんな卯月さんが好きなんだけど…て、惚気か」
うさぎ「…なんでランチなんか…」
山下「結婚したら義理の妹になるわけだから、知っておきたかった。それだけ」
うさぎ「…あっそ」
山下「僕ね、兄がいたんだ…でも子供の時に死んでしまって。だから、卯月さんが嬉しそうに君の話をするのが、すごく羨ましくて…。あんな優しいお姉さんいないよ」
うさぎ「うるさい!」
   うさぎ、頬杖をついて、ふてくされる。
うさぎのモノローグ「私が…一番知ってる」
   うさぎの鞄で携帯電話の音が鳴る。
   うさぎ、表示を見て、固まる。

宇久島・宇久平港(夕方)
   フェリーから降りてくる卯月。
   猫を撫でているうさぎ、顔を上げる。
卯月「買いものし過ぎちゃった」
   うさぎ、立ち上がり、卯月を見つめる。
うさぎ「博多に帰るから」
卯月「え?」
うさぎ「旦那から電話があった…ごめんって」
   卯月、ふふっと笑う。
卯月「いつでも戻っておいで」
うさぎ「…あの人…山下さん…私の魅力に気づけないなんて…博多の人とは思えない」
卯月「でも、うさぎを綺麗な人って…」
うさぎ「バカね!お姉ちゃんにゾッコンよ」
卯月「…ゾッコンって…」
   うさぎ、卯月に背中を向ける。
うさぎ「ありがと。私、また向こうで頑張る…だからお姉ちゃんも幸せになってよね」
   卯月、うさぎを後ろから抱きしめ、目を細める。うさぎも笑う。