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シナリオ☆おひとり雑技団

過去のシナリオ置き場です。無断転載はお断りしています。感想などはどんどん受付けています。

20枚シナリオ『悲しみ』

『愚か者のプリン』

 


☆人物
渡部 淳史(25)サラリーマン
福島 寛子(25)渡部の彼女
阪口 周平(26)渡部の同僚
石原 昌子(43)居酒屋『こころ』の店主

 

 

○新橋・居酒屋(夜)
   ガヤガヤ賑わっている店内、中年のサラリーマン達がくだを巻いている。
   カウンター席に座っている、スーツ姿の渡部淳史(25)は、生ビールを一気

   飲みしていている。
   その隣、同じくスーツ姿の阪口周平(26)は焼酎のお湯割りをちみちみと飲

   みながら、スマホをいじっている。
渡部「(つまらなさそうに)…みかちゃん?」
阪口「何時に帰ってくるのって」
渡部「…お前、マメよな…やっぱり無理だな」
阪口「(渡部の顔をじっと見て)…何かあった?微妙にテンションが」
   渡部、通りすがった店員に「生ジョッキで」と告げる。
渡部「…独身復帰祝いに飲みたいだけだよ」
阪口「え、寛子ちゃんと?!どうしてだよ…だって、お前ら高校生からずっと付き
合ってきて、このまま結婚するんじゃなかったのか?」
渡部「そんな古い約束…もう無効だろ」
阪口「…二人が納得して別れたんならいいけどさ…」
渡部「…今頃、荷物まとめてるんじゃないかな…博多に戻るって言ってたし」
   店員が運んできたジョッキに口をつける渡部。
   阪口は渡部を心配そうに見る。

○渡部の部屋・玄関~居間(深夜)
渡部「ただいまー」
   しーんとした真っ暗な部屋。
   渡部は口をつぐみ、けだるそうに廊下の電気をつける。
   小さな机の上に手紙が置いてある。
   渡部は手紙を手に取るが、読まずに、近くにある棚の上に、他の郵便物と一緒

   に置いてしまう。
   渡部は台所に行き、冷蔵庫を開けて、缶ビールを取り出す。
   冷蔵庫の中に一つだけ残されているミルクプリン。
   渡部はミルクプリンを手に取り、しばし眺めるが、そのまま冷蔵庫に仕舞う。
   冷蔵庫の扉が閉められ、中が真っ暗になる。

○高速バス・車内(真夜中)
   首の下まで毛布をかけ、マスクをかけた福島寛子(25)が座席に座ってい 

   る。

運転手の声「…まもなく消灯致します」
   寛子は静かに目を閉じる。

○JR渋谷駅・改札
   スマホを耳にあてている渡部。
渡部「…今、向かっておりますので。はい、失礼します」
   スマホをズボンの尻ポケットに仕舞う。
   改札で、Suicaを電子機器に当てて通り過ぎようとする渡部。改札の扉が

   閉まり、渡部は舌打ちをする。
   戻ろうとして後ろの客とぶつかる。
渡部「(下を向いたまま)あ、すいません」
昌子「あ、淳史君!」
   石原昌子(43)が目を見開き、笑って立っている。
渡部「あ…昌子さん。偶然ですね」
昌子「最近来てくれないじゃない。寛子ちゃんは元気にしてるの?」
渡部「(嫌そうに)…あ、あいつとは別れたんで。あ、俺、急いでまして…。じゃ」
昌子「え、どうして…」
   渡部は切符売り場でSuicaにチャージをし、渡部を見ている昌子に頭を下

   げると、改札の中に消えていく。
昌子「…」

○山手線・内回り・車内
   窓の向こうを見ている渡部。
   ふと、車内広告に目が行く。
   若いタレントの女の子が美味しそうにプリンを食べている広告が貼ってある。
寛子(声)「プリンはミルクプリンしか認めないから」

○(回想)渡部の部屋(夜)
   3連にくっついているプリンを持って、
   腰に手を当てて立っている寛子。
   座って、面倒くさそうに寛子を見上げている渡部。
渡部「それしかなかったんだって。寛子の好きな奴はここらのコンビニにはないだろ」
寛子「知ってるよ。なのに、淳ちゃんがそれ食べちゃって、悲しんでるんでしょ…私、隣駅のコンビニにまで、自転車で行って、買ってるんだからね」
渡部「そんな暇ないんだよ。仕事が忙しいって言ってるだろ」
寛子「昔は…もっと優しかったし…最近は何でも仕事、仕事で…休日も寝てばっかり。東京観光も全然行けてないじゃん」
   渡部、小さい机に拳をどんっと落とす。
渡部「文句ばっか言うなよ。プリンくらいで」
寛子「…もういい」
   寛子は悲しそうな顔をして、部屋を出ていく。

○(元の)山手線・内回り・車内
   プリンの広告を再び見る渡部。
   渡部、スマホを取り出し、写真フォルダを開く。
   部屋でくつろいでいる寛子の姿、浅草寺の前でピースをしている寛子と渡部の

   姿…渡部はフリックする指をとめる。
渡部N「一緒にいたって…これからだって、うまくいくはずなかった…」
   スマホのホームボタンを消して、スマホをしまい、再び窓の外を見る渡部。
○渋谷・高層ビル・オフィス(夜)
   誰もいないオフィス。デスクに座って、
   パソコンに向き合っている渡部の上にだけ、電気がついている。
   渡部は溜息をついて、背伸びをする。
   スマホを取り出し、見る。通知が一つとない画面。渡部、スマホをしまう。
渡部「…腹減ったな…」

○居酒屋『こころ』・店内(夜)
カウンターの中で忙しそうに接客している昌子。
   カウンター席に中年の客が数人、テーブル席も全て埋まっている店内。
   引き戸が開き、渡部が入ってくる。
昌子「いらっしゃーい」
渡部「…どうも」
   渡部はカウンターの端の席に腰かける。
昌子「(からかうように)傷心の淳史君だ」
渡部「別に…俺から別れようって言ったし」
昌子「…そう?」
   昌子はおしぼりを渡部に差し出す。
渡部「…生、ジョッキで」
昌子「はいはい」
   × × ×
   人の少なくなった店内。
   昌子、渡部が肩を並べてカウンター席にいる。
昌子「…8年か…高校の時から付き合ってて、二人で一緒に上京して…お互いに忙しく仕事をして…余裕がなくなっちゃったのかもね」
渡部「…しばらくいいですよ…面倒なことは…あ、そういえば、大口の取引が決ま
って…半年通った甲斐があったよ」
昌子「…それ、寛子ちゃんに聞いて欲しかったんじゃないの?私なんかじゃなくてさ」
渡部「…別に」
昌子「…まあ、いいけど」
   昌子は立ち上がり、カウンターの中に入り、芋焼酎の瓶を持ってやってくる。
昌子「…これ、寛子ちゃんがね…淳史君にって…ちょっと前に、仕入れてあったのキープしておいてって。でも…もう、二人で飲むことはないのね…寂しいわ」
   昌子はカウンターのテーブルの上に、芋焼酎の瓶を置いて、カウンターに戻る

   と洗い物を始める。
   渡部、瓶を手に取り、黙りこむ。

○渡部の部屋・居間(真夜中)
   氷入りのグラスに、芋焼酎を注ぐ渡部。
   グラスに口をつけながら、机の上に置かれた手紙を手に取り、開ける。
   手紙の上にまるっこい字が並んでいる。
寛子(声)「8年間…ありがとう。私の青春は淳史だった。東京に行くって淳史が行
った時に、迷わずついていって良かった。一緒に居酒屋をはしごしたことも、プリ
ンのことで喧嘩したことも全部…全部いい思い出。私は絶対幸せになるから。淳史も元気で、そしてまた恋をして。寛子」
   淳史はスマホを取り出して、寛子に 電話をかける。
電話の声「…この電話番号は現在使われておりません…」
   淳史は、スマホから耳を離し、呆然とする。
   淳史は立ち上がり、台所に行き、冷蔵庫を開ける。ミルクプリンが中にある。
   淳史はミルクプリンを手に取り、蓋を開け、近くのスプーンを掴み、プリンを

   口にかきこんでいく。
   淳史の目からぽとっと涙が零れる。
淳史「…俺が言ったんだ…もう別れようって」
   淳史、肩を震わせて、嗚咽する。
淳史「…まだ…好きなのに…」
   ミルクプリンの空の容器が床に落ちる。