シナリオ☆おひとり雑技団

過去のシナリオ置き場です。無断転載はお断りしています。感想などはどんどん受付けています。

20枚シナリオ『親子』

『そして母になる』

 

☆人物

沖田 守(9)(14)つっぱり中学生

沖田 吾郎(37)(42)守の父

綾島 祐子(40)守の叔母

水野 咲(14)守の幼馴染

竹下 凌平(14)守の友人

沖田 史子(45)守の母(遺影)

 

○守の通っている中学校・屋上

   屋上の隅に座り、弁当の箱を開けて中を見ている学ラン姿、リーゼント姿の沖

   田守(14)。

   屋上の扉が開き、髪の毛をポニーテールにしたセーラー服姿の水野咲(14)

   が守を見て、駈け寄ってくる。

咲「まもちゃーん」

   守、弁当箱の蓋を慌てて閉じる。

守「…こんなとこまで付いてくんなよ」

咲「まもちゃん、最近ずっと屋上にいるよね」

守「…青い空が見てぇんだよ」

   咲は守の隣に座る。

咲「もう1年か…早いね…まもちゃんのお母さんが亡くなってから…ね、思わない?」

守「人んちの事情に口はさむなよな」

咲「隣の家同士なんだし、いいじゃん」

守「…こっちは母さんのおかげで、大変なことになってんだから」

咲「え?」

   守、弁当箱をちらっと開けて中を見る。

   「まもるLOVE」と海苔で書かれた海苔弁当の中には、から揚げや卵焼き、

   野菜炒めなどがぎっしり入っている。

 

○守の自宅・台所~リビング(夕方)

   腰を振り、ポップスを歌いながら料理をする沖田吾郎(42)、白いレースの

   ついたエプロンを腰にまいている。

吾郎「『夢じゃない、あれもこれも。その手でドアを開けましょう~祝福が欲しいのなら』」

   リビングのドアを開けて、守が入ってくる。

吾郎「『悲しみを知り、独りで泣きましょう、 そして、輝く、ウルトラソウル!』」

   おたまを振り上げ、ポージングする吾郎、自分を睨んでいる守に気が付き、笑

   顔になる。

吾郎「お帰りなさーい」

   守、鞄から弁当箱を取り出し、黙ってキッチンカウンターの上に置く。

吾郎「美味しかったぁ?」

守「…弁当にLOVEとか要らないから」

吾郎「ほんの気持ち、ほんの」

守「何なんだよ!!ほんと気持ち悪いから!俺認めてないから!」

吾郎「何が」

守「だから!そういうの、全部!!!」

   吾郎、ふうと溜息をつき、腰に手をあてながら、吾郎を見る。

吾郎「お母さんの遺言書、守にも見せたでしょ?これからはお父さんがお母さんになるの。…というか、実はWお母さんだったんだけどねえ」

   守、頭を掻きむしる。

守「…父親が急におかまになって、私がお母さんとか…訳分かんねえだろ?!」

吾郎「黙っていたのは悪かった。でも、お母さん、あ、死んだほうのお母さんが、どうしても言いたくないって…『私が死んだ後は勝手にしていい』って遺言書にもあったでしょ…だから、落ち着いたら、守に本当の私を知ってもらおうと思って…」

   守、きっと吾郎を睨む。

守「思春期の繊細なハートに、あり得ないんだよ!くそじじい!」

   守、リビングのドアを乱暴に開けて出ていく。

   吾郎、髭の剃り残しのある顎にそっと手をやり、溜息。

吾郎「不良ぶって背伸びしているけど…まだまだ子供よね、史子さん」

   チェストの上に置いてある沖田史子(45)の写真を見て、吾郎は悲しげに笑

   う。

 

○河川敷・土手(夕方)

   河川敷にいる小学生の子供とその親、楽しそうにキャッチボールをしている。

   土手に座って親子を眺めている守。

守「…昔は…親父だって…くそ」

   守、持っているバットで素振りを始める。

 

○(回想)河川敷

   守(9)が吾郎(37)に向かってボールを投げている。

   吾郎、ボールを取り損ない、へなへなと走っていく。

守「父さん、ちゃんと受け取ってよ!」

   内股で走りながらボールを追いかけている吾郎の後ろ姿を見ている守。

守「…何であんな走り方なんだろ、かっこ悪」

   吾郎、ボールをようやく掴むと、守に向かって手を振る。

吾郎「いくよー」

 

○元の河川敷・土手(夕方)

   手からバットからぶら下げて、ぼーっと立っている守。

守「そういえば…昔から変だったな…」

   学ラン姿、金髪の竹下凌平(14)が、自転車に乗りながら、守に声をかけ

   る。

凌平「うぃーっす。お、バットで殴りこみ?」

守「…まあな」

   凌平は自転車を道に停める。

守「お前、自転車買ったん?」

凌平「なわけねーじゃん、ぱくったんだよ」

守「ふ、不良なら、ぱくらねぇとな」

凌平「そうそう。片親の俺らって大変だよな…親は、金も余裕もなくて、俺たちに八つ当たりするし」

守「…ああ」

凌平「はあ…また男を連れこんでんだろうな…帰りたくねえ…お前んちにでも行くかな」

守「はへ?!」

凌平「お前の親父、帰るの遅かったよな。一緒にレトルトカレーでも食べようぜ」

守「いや、いや、いや」

   周りを見渡しながら走ってくる吾郎の姿が守の視界に入る。通行人が吾郎をぎ

   ょっとして見ている。

   凌平、吾郎を見て、呟く。

凌平「うわ、おかまじゃん。きも」

   凌平と一緒にいる守を見て、笑いかけようとして、やめる吾郎。

   守、凌平の隣を通り過ぎ、吾郎が来た方角じゃない方へ歩き出す。

凌平「おい、守!!どこいくんだよ」

   凌平、立ち尽くす吾郎を見て、首をかしげる。

凌平「…どっかで見たことあるような…」

 

○守の自宅・リビング(夜)

   スーツ姿の綾島祐子(40)が、かしこまってリビングのテーブルに座ってい

   る。所在なく立っている吾郎。

祐子「…恥知らずというか…なんていうか」

吾郎「…黙っていたことは謝ります…でも」

祐子「守が非行に走ったは吾郎さんのせいね。守も可哀想に…あなたがオカマだから…しかも、史姉が死んだ後に急変したりして」

吾郎「それは…史子さんが、私が死んだ後は、あなたが守のお母さんになってあげてって」

祐子「例えでしょ、例え!…落ち着いたら再婚するとか、そういうことを史姉は言っていたのよ、きっと」

吾郎「…再婚だなんて…あり得ません」

   リビングに入ってくる守。

守「…うるさいんだけど…」

祐子「守…史姉がいない寂しさから、守が道を外して…、おばさん、すごく悲しい」

守「…別に」

祐子「こんな父親、嫌よね、おばさんと一緒に暮らしましょう…ね、養子になりなさい」

吾郎「…守は私の息子です!そんな無茶な」

祐子「あなたには聞いていないわよ!」

   祐子、カウンターキッチンの上の弁当箱を見つけ、立ち上がり、中身をあけ

   る。祐子は中身を吾郎に見せる。

祐子「…あなたが作ったお弁当なんて食べたくないのよ。ほら、残しているじゃない」

吾郎「…それは…」

祐子「あなたには親でいる資格なんてない!普通じゃないもの」

   守、祐子から弁当箱を取り上げる。

祐子「どうしたの、守」

守「…ばばあは黙ってろ」

祐子「な…」

吾郎「守、祐子おばさんに謝れ!」

   守、弁当箱を開けて、箸を持って、中身をどんどん口に入れていく。

吾郎「…守」

   祐子、守が食べるのを黙って見ている。

吾郎「…いいのよ…お前が残しているのは… 母さんのと比べたら全然美味しくないからなんでしょ?」

   守、吾郎を見ずに呟く。

守「…男親が作る弁当なんて…恥ずかしいって…たまにLOVEとかデコられてるし……まずくは、ない」

   吾郎、目に涙をためている。

祐子「…また、出直すわ」

   祐子はリビングから出ていく。

   吾郎、守の側まで歩いてくる。

   守、吾郎の顔を見る。

吾郎「…おかまで、ごめんね…でも、お母さんになりたいの…守の、最高のお母さんに」

守「…外で声かけんなよ」

   守、口の周りを袖でこすり、弁当箱を机に置き、ドアから出て行こうとする。

吾郎「…分かったわ」

   守、振り返って、吾郎を見る。

守「…ちゃんと、母、やれてるよ」

   守、顔を赤くして、乱暴にドアを閉める。

   吾郎、静かに涙を流しながら、弁当箱を手に取り、胸で抱きしめる。

吾郎「…母さん、頑張るからね」