20枚シナリオ『写真』
『見た目は何割』
☆人物
飯田 道香(25)清掃員
宮崎 央太(32)ヘルスキーパー
内牧 正史(43)形成美容外科医
飯田 静江(50)道香の母
通りすがりの若い女性(26)
ウエイター(21)
○オフィスビル・ロビー
水色の清掃員の制服に身を包んだ飯田道香(25)が黙々と床掃除をしている。
床を綺麗に磨き終え、満足そうに息をつく道香。
派手に着飾った若い女性が、掃除したばかりの床の上をつかつかと歩く。
道香「あ…」
女性は振り返り、くすっと笑う。
女性「…なんだ、おばさんかと思った…こんな仕事しなきゃいけないなんて可哀想」
女性はそう呟き、去っていく。
道香は自分の制服を見下ろし、そして手で顔を触る。
道香「ほっといてよ…」
道香はまた、せっせと床掃除を始める。
○小さなアパート・1Kの部屋(夜)
ベッドの上に寝転んでスマホの画面を見ている道香。
婚活サイトのサイト、受信箱の画面、受信数は0となっている。
母からの着信画面。
道香はスマホの画面を見つめて固まっているが、諦め、電話に出る。
静江(声)「いい人見つかったと?」
道香「そんなに早く見つかったら苦労せん」
静江(声)「あんた、今年25?母さんがあんたを産んだ年っちゃんねー。東京で結婚相手見つからんなら、福岡に帰ってきいよ」
道香「こっちじゃ、25で結婚しとらん人ばいっぱいおるったい。また、かけるけん」
道香はいきなり電話を切る。
○道香の実家・居間(夜)
携帯電話に話しかけている飯田静江 (50)。
静江「道香、女は見た目じゃないよ、愛嬌よ」
静江、電話が切られていることに気が付き、溜息をつく。
○形成美容外科クリニック・待合室
白と水色でr統一されたシンプルな待合室に、ぽつんと座っている道香。
マガジンラックの中にある本に目がとまる。本のタイトルは『見た目は9割』。
道香「…」
院内アナウンス(声)「6番の番号をお持ちの方、診察室へとお進みください」
道香は立ち上がり、診察室に向かう。
○同・診察室
白衣に身を包んでいる内牧正史(43)、整った顔、肌はぷるっとしている。
まじまじと内牧を見ている道香。
内牧はこめかみを指でかきながら、
内牧「…見た目を良くしても幸せになれると思わないでね。そこは比例しないから。で
も、詐欺師がスーツを着るように、見た目がいいと仕事がうまくいったり、得する
ことは断然に増えると思うよ」
道香「…幸せになりたいんです。結婚したい んです」
内牧「…そんなに変えたいなら、やるか。で、どこからいじる?」
内牧は道香に手鏡を差し出す。
道香は自分の顔をじっと見つめる。
○オフィスビル・ロビー
鼻歌を口ずさみながら窓掃除をしている道香。窓ガラスに映る自分の顔、二重の
目を見て、笑顔になる。
○小さなアパート・1Kの部屋(夜)
カップラーメンをすすっている道香。
机の上のスマホの画面に、通知が届き、道香はスマホを手に取って見る。
婚活サイトの受信箱、『央太』からのメールが並んでいる。
央太のメール文面。
『今日は風が気持ちいい一日でしたね。道香さんとメールを始めてから毎日が楽し
く、仕事にも張り合いが出ます』
道香はスマホを見て、にやける。
道香のメール文面
『私もです。メールしているだけで幸せです。でも最近お会いしたい気持ちが強
くなってきました…実は観に行きたい映画があるのですが、ご一緒してください
ませんか。私は週末なら、いつでも空けられます』
道香は思い切って、送信ボタンを押す。
道香「全然誘われないのに女の私から誘っちゃった…軽い女だと思ってるかな…」
道香は部屋をうろうろとする。
スマホに通知が来て、道香は飛びつく。
央太からのメール文面。
『実は僕もお会いしたかったんです。お誘い有難う。来週の土曜日、日比谷の映
画館ではいかがでしょうか。邦画か字幕付の洋画が嬉しいです…』
道香、ぎゅっとスマホを抱きしめ笑う。
○日比谷・映画館・チケット売り場
花柄のワンピースに身を包んだ道香が腕時計を気にしながら立っている。
サングラスをかけた宮崎央太(32)がやってくる。そして、2メートル程離れ
たところから道香に声をかける。
央太「…道香さんでしょうか。央太です」
道香「あ、はい、…初めまして」
央太「会えて嬉しいです。素敵な声ですね」
道香は恥ずかしくなり、下を向く。
道香「…あ、チケット取っておきました。『悲しみを超えて』にしちゃったんですけど」
央太「観たかったやつです。行きましょう」
央太は道香を追い越し、颯爽と映画館に歩いていく。
道香「あ、央太さん、飲み物とか買ってかなくてもいいですか?」
央太「え?…あ、売店で、ですか」
道香「要らないんだったら良いんですけど」
央太「…僕は大丈夫です」
○喫茶店
道香と央太が向かい合って座っている。
水をやたらと飲んでいる二人。
ウエイターがやってきて注文を聞く。
道香「…えっと…デミグラスオムライス」
央太「…ビーフシチューください」
ウエイター「…?もう一度いいですか?」
道香はメニューに目を通す。
道香「…あ、ないですね。なくなったのかな」
央太「…あ…じゃあ、僕も彼女と同じので」
ウエイトレスが軽く頭を下げて、去る。
央太は黙り込んでいる。
道香「央太さん…?」
央太「…やっぱりうまくいかないな」
道香「…え、どうしたんですか?」
央太は立ち上がると道香に頭を下げる。
央太「僕はあなたとお付き合いして、結婚までできる男じゃないんです。忘れてください。申し訳ない」
道香は呆然とし、声が出せないでいる。
央太は店から出ていく。
○大手金融会社・医療室
男性社員がベッドで寝ており、央太が背中にマッサージを施している。
央太「…施術は以上となります」
男性社員は「ありがとう」とお礼を言い、部屋を出ていく。
央太は静かに溜息をつく。
○小さなアパート・1Kの部屋(夜)
ベッドに寝転び、天井を見つめている
道香。頭の上に置いてあるスマホが鳴る。道香はスマホの画面を見て驚き、
電話に出る。
央太(声)「道香さん…この前はごめんなさい」
道香「…何があったんですか…私、何かしましたか?」
央太(声)「…僕が嘘に耐えられなくなったんです」
道香「…もしかして、私の前の顔を知ってるんですか?このサイトで載せてた…それで」
央太(声)「プロフィール写真のことですか?…いや、道香さんの顔ではなくて…」
道香「…そんなに整形っていけないことでしょうか…でも私がプロフィール写真を変えたら、央太さんは初めて連絡をくれて…」
央太(声)「違います、見えないんです!…道香さんの顔…僕は視覚障碍者です」
道香「…え?」
央太(声)「隠し通せると思って、行きつけの映画館や喫茶店にして貰ったのに…やはり嘘をついて道香さんに期待させている自分が無理になってしまったんです…本当にごめんなさい…」
道香「…そんな…」
央太(声)「短い間だったけどありがとう」
道香は耳にスマホを押し当てたまま涙を流す。
○日比谷・映画館・チケット売り場
央太がチケットを買っている。
ふと、央太が振り返ると、道香が笑顔で立っている。
道香「あの、分かりますか?」
央太「…当たり前です。どうしてここに」
道香「…色々考えたんですけど…見た目とか色々な事情を超えて…一緒に生きたいって思える人と出会えたなら、諦めたくないんです」
央太「…また会えるんじゃないかって…僕があれから何回ここに来ていたか…詳しくお話してもいいですか?」
道香と央太は顔を見合わせて笑う。
央太「とりあえず、映画を見ましょうか」
央太は道香の手を取る。道香も強く
央太の手を握り返して微笑む。