シナリオ☆おひとり雑技団

過去のシナリオ置き場です。無断転載はお断りしています。感想などはどんどん受付けています。

20枚シナリオ 『教師』

宇多田ヒカルさんはデビューしてからずっと好きな唯一無二のアーティストさんなわけですが、アルバムリリースされたばかりの、二時間だけのバカンスがとっても好きすぎて、ちょっとかなり影響受けた作品ですね、これは……

 

楽しみは少しずつ……☆

 

 

「恋は溺れてからが本番」

 

★人物表

田浦充(31)高校教師

藤本雫(16)女子生徒

藤本有香(46)雫の母

田浦雄蔵(67)田浦の父

 

 

○繁華街・熟女バー・中(真夜中)

   人がまばらな店内、しみったれた照明

   や音楽。ボックス席で、50代くらい

   のホステスたちに囲まれている田浦充

   (31)。充の顔は既に真っ赤である。

ホステス「明日は月曜日だっていうのに」

充「いいじゃあないの、僕が心から落ち着け

 る場所はここしかないんだから」

   充の携帯電話が鳴り、ホステスが鞄か

   ら勝手に取り出し、充に手渡す。

充「クミちゃん、ありがと。あれ、誰かな」

ホステス「なあに? 良い人が出来たの?」

   充、受話器に耳を当てているが、次第

   に青ざめていく。

充「……え、あ、それ、本当に親父ですか?

 はい、田浦雄蔵です」

   

○田浦の家・居間(朝)

   ダイニングテーブルで向かい合って座

   っている充と雄蔵。静かに朝食をとる。

充「ねえ、本当に昨日の記憶、ないの?」 

雄蔵「……ああ」

充「それでさ、昨日、隣の山田さんに言われ

 たんだけど、日中心配だからさ、ヘルパー

 さん頼もうかと思うんだけど」

雄蔵「……俺はまだ67だ。足も腰もぴんぴ

 んしておるのに、ふざけるな」

   雄蔵、立ち上がり、席を外す。充、静

   かなため息をつく。

 

○女子高・中庭

   ベンチに座って、缶コーヒーを飲みな

   がら、ぼーっとしている充のところに、

   女子生徒が複数かけつけてくる。

女子1「先生ってまだ結婚しないの?」

充「いきなり何だよ」

女子2「数学の小西とか、必死で婚活してん

 のに、先生は飄々としてるから」

充「別に俺はまだそういうのは……」

女子3「ファンクラブのOBの先輩とも盛り

 上がってて、先生に彼女っぽいのが出来た

 ら、すぐに報告しろって言われてるんです

 よ。で、真相は?」

充「ないない。あ、お前ら、古典の単語テス

 ト、ひどかったぞ。再試受けるか?」

   女子達、顔を見合わせて、笑いながら

   駆け出していく。

充「百人一首でテストだからな!……呑気で

 いいなあ」

 

吹奏楽部・部室(夕方)

   部員達がおのおの楽器を吹いたり、叩

   いたり、練習している。

   生徒の間をゆっくり歩いて見る充。

   サックスを吹くのをやめて藤本雫(1

   6)が顔を上げる。

雫「先生、個人レッスンいくらですか?」

充「また言ってんのか」

雫「だって、私一番下手じゃないですか、こ

 れじゃ大会で足引っ張ってしまうから」

充「だからって何で個人レッスンなんだ」

雫「ケチ」

充「何とでも言え」

   充、雫の頭を軽くこづく。雫は下を向

   き、顔を赤くしている。

 

○田浦の家・和室(夜)

   雄蔵が布団の上で眠っている。

   その傍ら、座って見守る充。

充「……母さんが生きててくれたらなあ。っ

 て、俺はほとんど覚えてないけどさ」

   充、立ち上がって、部屋を出る。

○同・居間(夜)

   介護業者のパンフレットを真剣な表情

   でめくる充。  

 

○女子高・教室

   古典の例文を黒板に書いている充。女

   子生徒たちの小さな笑い声に振り向く。

充「誰だ、私語してるのは」

女子4「先生、源氏物語紫式部って経験豊

 富だったんですか~?」

女子5「光源氏みたいな男に騙されて、ああ

 いう屈折した話を書いたんじゃないかなっ

 て話してたんだよね」

女子4「マザコンロリコンで、結構変態」

充「ああ。お前ら、結構ちゃんと勉強してる

 んじゃないか」

女子5「先生はどっち?」

充「フザけてないで、授業に集中!」

   女子生徒たちはまだひそひそ話して盛

   り上がっている。

 

○田浦家・居間(夜)

   テレビを見ている雄蔵、その雄蔵を観

   察するように離れて見ている充。

   チャイムの音が鳴り、充、立ち上がる。

○同・玄関・内外(夜)

   玄関のドアを開けると、半身を濡らし

   た藤本有香(46)が後ろを向いて、

   傘の雫を開いて掃っている。

充「あの、ヘルパーさんですよね?」

   有香、振り返って、目を開く。

有香「え!? 田浦先生?」

充「あ、……ど、どうも。今日はどうして」

有香「私です。ヘルパー。よろしくお願い致

 します。あ、生徒の母親が家に出入りして

 たら、お仕事に支障出たりしますか? 代

 わりの担当をつけましょうか」

充「あ、いえ。大丈夫です。父が中におりま

 すので、とりあえず中へ」

有香「はい。失礼します」

   有香、タオルを取り出し、頭から順に

   水分を取る。有香のうなじ、丸い背中

   を見て、喉を鳴らす充。

 

○路上(夜)

   雨上がりの夜空に星が煌く中、有香が

   歩いている。後ろから追いかける充。

充「藤本さん!」

   充の手には有香の傘。

有香「あ! 私ったら。先生、わざわざ有難

 うございます」

   受け取って深く礼をする有香。

充「あ、いえ。全然。おやすみなさい」

   慌てて礼をして、逃げるように駆け出

   す充。

有香「おやすみなさい」

   少ししてから振り向く充。

   有香が手を振っているのを見て、充、

   照れながら笑う。

 

吹奏楽部・部室(夕方)

   部屋の隅で書類整理をしている充。

   雫が周りを気にしながらやってきて、

雫「ねえ、先生」

充「お、おう」

雫「お母さんが先生のおうちにヘルパーで

 行ったって聞いたよ」

充「お前、他の奴に広めてないよな?!」

雫「な、何、その必死な感じ……」

充「……親が介護受けて、それが生徒の親と

 か、色々言われそうだろ。藤本のお母さん、

 すごく良い人だな。お前の忘れ物を持って

 きてくれた時に見かけたくらいだったから、

 最初わかんなくてさ」

雫「聞いてもないのにベラベラ喋って変よ」

充「えっ」

雫「クッキー。焼いた」

   雫、小さな袋を充に差し出す。

 

○田浦家・居間(夜)

   和室の襖を静かに閉める有香。

   充、ソファに座っている。

有香「特に問題はなかったので、今日はこれ

 で失礼しますね」

充「ありがとうございました」

有香「あの、先生。娘のことなんですが」

充「え?」

有香「あの子、先生の大ファンで、昨日もせ

 っせとクッキーを焼いていまして、あの、

 ご迷惑でしたらはっきり言って下さいね」

充「いや、有難く頂きました、はい」

有香「ほら、先生にだって、良い人だって

 いるでしょうから」

充「あ、いえ、そんな人はいません」

有香「あら、意外。おモテになりそうよ」

充「いいなと思う人にはモテないもんで」

充「僕、本当は……」

   ゴキブリが床を走り、それを見た有香

   が悲鳴をあげて、充にしがみ付く。

有香「ゴキブリ!!」

充「ご、ゴキブリ?!」

   充、しがみ付いている有香を見下ろす。

有香「(はっとして)す、すいません」

 

○(充の妄想)田浦家・居間

   慌てて離れようとする有香を抱きしめ

   る充。抗うものの、顎を持ち上げられ

   口づけを受けてからは身を任せる有香。

雫の声「何してんの!?」

   声のした方へ顔を上げる充と有香。

   開けられたままの居間の窓の外、庭に

   立って、こっちを凝視している雫。青

   ざめて、固まる充と有香。

雫「……私の気持ち、知ってるくせに……絶

 対許さない!!」

   雫が駆け出していく。充、追いかける。

 

○元の・田浦家・居間(夜)

有香「(はっとして)す、すいません」

   充、有香の肩にやっていた手を離して

   笑顔で首を振る。

充「男所帯でろくに掃除も出来ていないもん

 で、ゴキブリなんか……申し訳ないです」

有香「いえ……」

   有香が熱っぽい目で充を見上げる。

   充、それに気づかないフリをする。