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シナリオ☆おひとり雑技団

過去のシナリオ置き場です。無断転載はお断りしています。感想などはどんどん受付けています。

20枚シナリオ『医者』

 

医療ものを書くにあたって、まず困ったのはオペシーン入れたいけど、どっから情報得たらいいんだろうというのがありました。ドクターXもチームバチスタの栄光も大好きですけど、専門用語浮かばない、、、つらっというのがあり、そこらへんめっちゃツッコミをもらっています。勉強大事ですね。

 

職業シリーズは次回の「弁護士」で終わり。

職業ものはキャラから考えるのでやはり書いていて面白いです。弁護士が出てくるお話はかつて書いたものの、やはり法律用語とか法廷シーンとか書きたいですよね♪

ということで本編です。。。

 

 

「腹切り時」

         

★人物

井上 タスク(33)外科医

浅田 博人(43)外科医

福嶋 千鶴(43)看護師

梅本 ゆい(26)看護師

井上 晴美(33)井上の妻

井上 浩太(0)井上の一人息子

 

○私立大学病院・オペ室

   手術台に横たわる患者の周りに、慣れ

   た顔で患者を見下ろす、浅田博人(4

   3)と、おろおろした顔で患者を見て

   いる井上タスク(33)が立つ。その

   近くに、福嶋千鶴(43)、梅本ゆい

   (26)が控えている。

   浅田が部屋の時計を見上げ、

浅田「それではただいまから、田中良太さん

 の腹腔鏡手術を始めます。よろしくお願い 

 致します」

一同「よろしくお願い致します!」

浅田「メス」

   慣れた様子で千鶴が浅田にメスを手渡

   す。それを井上はじっと見つめるが、

   何度か目をしぱしぱさせる。

○井上の回想・井上家・寝室(夜)

   井上晴美(33)が、泣き喚く井上 

   浩太(0)を立って抱っこしながら、

   あやしている。ベッドで寝ている井上、

   むくりと起き上がり、不機嫌な顔。

井上「今度は何。おっぱいは?」

晴美「飲まないのよ。どうしちゃったのかし

 ら。浩太~、さっさと寝んねしましょうね

 ~。今日何度目よ、起きるの(舌打ち)」

井上「明日、俺、手術の助手につくんだよ、

 忘れた? 浅田助教授が途中で代われって

 言ったら、俺、執刀代わるんだよ? こん

 な寝不足で手術に向かってごらんよ?」

晴美「助手でしょ。代わってなんて言われな

 いって。それに、あなた、前に失敗してか

 ら、ずーっと助手なわけで」

井上「……あの手術を経験してから、本当は

 メスなんて握りたかないんだよ。でも、医

 者をやめたら、浩太はどうやって育てんだ

 って話で」

晴美「内科にすればよかったのよ。かっこよ

 さで外科選んだのはタスクじゃん」

井上「私、失敗しないんで、とか、何なんだ

 よ~。人間だから失敗するよなあ?」

浩太「ぎゃ~(さらに大声で泣く)」

晴美「やめてよ。浩太、あの女医者嫌いなん

 だから」

井上「とにかく! 早く泣き止ませてくれ」

   

○元の・私立大学病院・オペ室

   再び目をしぱしぱさせる井上。

   浅田、手を動かしながらも、ちらっと

   井上を見る。

浅田「当事者意識ってものがないのか」

井上「はっ。といいますのは」

浅田「ここに居る医者、看護師ともに、この

 クランケを助けるという強い気持ちを持た

 ねばならん。分かるな? 汗」

   千鶴が浅田の額の汗をぬぐう。

井上「も、もちろん、分かっております」

   オペ室のスピーカーから声が聞こえる。

男の声「浅田助教授、藤波議員のお孫さんが

 急患で運ばれてまいりました。藤波様が浅

 田助教授にみていただきたいと」

井上「は?」

浅田「やれやれ。ほら、こういう事があるん

 だ。よくモニターを見て、しっかり腫瘍を

 取り除くように」

井上「え?! さっき、このクランケを助け

 るっておっしゃったばかりじゃ……」

浅田「いつまでも助手でいるつもりか? 昔

 の失敗に立ち向かう、良い機会じゃないか。

 (にっこり笑って)頼んだぞ」

千鶴「浅田助教授、でも、井上先生じゃ、あ

 んまりですよ……最後までお願いします」

井上「そ、そうです。福嶋さんの言うとおり

 で。わ、私に務まるわけが」

浅田「……お前、それでも医者か。突っ立っ

 てないで、さっさとメスを取れ! じゃ」

   浅田がさっさと手術室から出て行く。

   絶望した顔で呟く井上。

井上「……医者ですけど、へたれです」

千鶴「井上先生、続き、お願いしますよ」

   能面のような顔の千鶴から、井上はメ

   スを受け取り、喉をごくんと鳴らす。

 

○同・手洗い場

   井上、手袋を取り、手を洗っている。

井上「何とか、終わった……」

   千鶴が顔を後ろからのぞかせ、

千鶴「45点」

井上「うわっ」

千鶴「あんな緻密な作業が必要なところで、

 くしゃみが出るからって、手術中断させる

 なんて……。くしゃみなんて、気合いで何

 とか抑えられるものです」

井上「患者さんにかけちゃダメじゃないです

 か。それに、何とかなりましたよ」

千鶴「ほぼ、私が口出したからでしょう!

 はあ、何でこんな人が医者なんでしょうか

 ね。後で、浅田助教授に文句言ってこよ」

   二人の後ろを通る、ゆい。

ゆい「お疲れ様でした」

千鶴「梅本さん、お疲れ様」

井上「はあ、もう切りたくない」

   井上は千鶴とゆいに頭を下げて立ち去

   る。

ゆい「……あの、福嶋さん、これ」

   ゆいが千鶴に細いチェーンのネックレ

   スを手渡す。

千鶴「何、これ」

ゆい「あの、床に落ちてまして」

千鶴「私じゃあないわよ。こんな安物つけな

 いもの。え、てゆうか、どこの床?」

ゆい「あの、手術室の。……じゃあ、誰ので

 すかね……あんなところに」

千鶴とゆい「……はっ!」

 

○同・休憩室

   ベンチに倒れこむ井上。左手で顔をこ

   する。

井上「眠い、眠すぎる。一生分の緊張感を使

 い果たした」

   井上、違和感があり、眉をひそめる。

井上「あれ、なんか、変だな」

   再び手で顔をこすり、大きく伸びをす

   る井上。

 

○同・中庭(夕方)

   千鶴、ゆいと井上、向かい合って立っ

   ている。

井上「あの……何でしょうか」

千鶴「ねえ、まさかだけど、手術中にアクセ

 サリー付けてたとか、ないですよね」

井上「まさか~。……あっ」

ゆい「やっぱり」

千鶴「これ、井上先生のですか?」

   千鶴の手の中のネックレスを見て、井

   上、驚いて、固まる。

井上「……これだけ?」

千鶴「はい?」

井上「いや、ここに、指輪を……ネックレス

 に指輪ひっかけて、首にかけてたので」

千鶴「ちょっと待って、ちょっと待って」

ゆい「指輪なんて落ちてませんでした」

千鶴「指輪はどこに行ったのかしら」

井上「……まさか」

ゆい「まさか、そんな事は」   

千鶴「……指輪の行方を知りたくないわ、

 私。なかった事にしましょう」

井上「か、患者の腹に?!」

ゆい「じ、自分で言っちゃった!」

井上「ど、ど、どうしたら……妻に叱られま

 す……」

千鶴・ゆい「ちげぇだろ!」

 

○同・浅田助教授の部屋(夜)

   浅田が難しい顔をして座っている。そ

   の前で、うなだれている井上。

   千鶴が浅田の隣に立ち、井上を睨む。

井上「私の処分は……」

浅田「……で、指輪はプラチナかな?」

井上「ええ。妻と私、お互いに金をためて

 プレゼントしあったもので……」

千鶴「そこじゃないでしょ」

浅田「ううむ、ううむ、こんな事は今まで経

 験した事がない。うっかり者にも程がある

 だろ!」

井上「浅田助教授、指輪を返して貰いたいん

 です。再び腹を切らせて欲しいと患者さん

 にお願いしてもいいでしょうか」

千鶴「患者の心配しなさいよ!」

浅田「いや、私にも責任はある。とはいえ、

 指輪か……うむ」

井上「た、頼みます! 指輪を……」

浅田「いや、無理。私が手術で途中で抜け

 たなんて公に知られたくないし」

井上「ええ~、ど、どうするんですか?!」

 

○井上家・リビング(夜)

   机に向かい合って座る井上と晴美。

井上「というわけなんだ」

晴美「……分かったわよ。別れてあげる」

井上「は?! 何でそうなるんだよ」

晴美「手術中に患者の腹に指輪入れて蓋し

 ちゃったとかさ、ネタ? 私、バカにされ

 てるのかな。浩太連れて実家に帰ります」

井上「あの指輪、本当に大事だから、もう一

 回患者の腹を切らせてもらおうと思ったけ

 ど、浅田助教授に口止めされてて」

晴美「おっちょこちょいなあなたを支えてい

 きたいって思ってたけど、もう無理よ」

井上「う、ウソだろ?」

 

○私立大学病院・一般病室(深夜)

   井上が病室のドアの前に立っている。

   何やらぶつぶつと呟いている。

井上「だから、手術なんて、したくなかった

 んだ……医者なんてやめたい、でも、最後

 の仕事だ。あれだけは……」

   ドア近くの名札の中に、「田中良太」  

   の文字。

   井上の手が、ドアをゆっくり開ける。