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シナリオ☆おひとり雑技団

過去のシナリオ置き場です。無断転載はお断りしています。感想などはどんどん受付けています。

20枚シナリオ 『雨』

20枚シナリオ

田舎から上京してきて頑張って働いている女の子に捧げたい、そんなお話です。

情景を意識して書きました☆

(古い作品、ちょこっとずつアップ中ですw)

 

___________

 

「甘雨の君」  

           

☆人物

斉藤 晴香(24)OL

西 浩史(18)ダンサー

斉藤 リンカ(17)晴香の妹

野村(45)晴香の上司

女1、女2 晴香の同僚

 

○西新宿・高層ビル街・路上(夜)

   勤め人がおのおの新宿に向かっていく。彼らの色とりどりの傘が列を作り、せかせかと駅へ進んでいく。

   その中、俯きがちに歩いている斉藤晴香(24)。パンツスーツの裾が濡れている。傘を持っていない左手で、うねる前髪を押さえつけていると、その視線の先、高層ビルの下、雨に濡れながら、激しく踊っている西浩史(18)の姿。

   晴香は目を見開き、そして、周りを見渡すが、浩史に気をとめているのは晴香だけ。

晴香N「変人は見て見ぬフリ。それが東京。

 上京して2年、新宿駅で迷子にはならない

 けど、変人や浮浪者を見て見ぬフリはまだ

 出来ない」

   晴香、駅に向かう人ごみから抜け出して、浩史を見つめる。

晴香「何か、生きてる、って感じ、する」

 

○晴香のマンション(夜)

   1Rの部屋のベッドの上で、部屋着

   姿で缶チューハイを飲んでいる晴香。

   浴室のドアを開けて、斉藤リンカ(17)が出てくる。

リンカ「お姉ちゃん、リンカのトリートメ

 ント使った? 使ったでしょ?!」

晴香「え、使ってないって、気のせい」

リンカ「あれ高いから、ちみちみ使ってん

 のに。買って弁償して!」

晴香「家出して、勝手に居座ってる身のく

 せに、ごたごた言うな!」

リンカ「あ、やっぱり使ったんじゃん」

   リンカは肩からさげたタオルで髪の毛を拭きながら冷蔵庫を開けて、炭酸の缶のプラグを開けて、一口飲む。

晴香「あと、1年我慢しなよ。そしたら、

 こっちに来て、一緒に住む物件見つけた

 らいいし、ね?」

リンカ「自分の家なのに居場所ないなんて

 最悪。このまま、東京にいたい、長野

 に帰りたくない、あんな田舎大嫌い」

晴香「義理の母親と、生まれたての義理の

 弟がのさばっているもんね」

リンカ「パパ、完全に尻に敷かれてる」

晴香「ねえ、話は変わるけど、さっき新宿

 でさ、雨に濡れながら踊り狂っている男

 の子が。ちょうどリンカくらいの」

リンカ「(目を輝かせ)イケてた?」

晴香「顔は見てないけど、上手だった」

リンカ「でも、雨の中踊るとか、変な人」

   晴香、窓のほうに目をやる。

晴香N「連日続いていた雨はその晩で止ん

 だ。その後数日間、微妙な天気が続いた。

 仕事の帰り道、あの男の子が踊っていな

 いか探したけれど、見当たらなかった。

 そして、また、雨が降った。同じような

 夜、私は踊っている彼を見かけた」

 

○西新宿・高層ビル街・路上(夜)

   帰宅ラッシュの傘の長い列。

   きょろきょろしながら歩いている晴香。    

   逆走してくるサラリーマンのために、

   赤い傘を少し上にして避ける。晴香は

   雨の中踊っている浩史をみとめる。

晴香「いた!」

   列を抜けて、晴香は少しだけ浩史に近

   づき、黙って立ったまま、浩史のダン

   スを見る。浩史は気にすることなく踊

   り続ける。

   浩史の顔をはねる雨雫。筋肉のほどよ

   くついた胸に張り付いているTシャツ。

   晴香は食い入るように浩史を見つめる。

リンカ(声)「それって、恋?」

 

○新宿・高速バス乗り場(深夜)

   バスに乗り込んでいく旅行客たち。

   キャリーケースを持ったリンカ、見送

   る晴香。

晴香「2週間かあ、あっという間だったね」

リンカ「これ以上いたら、お姉ちゃんの新し 

 い恋を邪魔しちゃいそうだったからさー」

晴香「だから、まだ、そんなんじゃ」

リンカ「未成年に恋するのは勿論危険だけ 

 ど、心の中は不可侵領域だから、誰にも許

 されているんだからね、自由なの」

晴香「難しい言葉使うようになって」

リンカ「いつでもラインしてよ」

   バスに乗り込むリンカ。

   晴香、腕を組み、見守っている。

晴香N「リンカにかわって、私が長野に帰り

 たい。東京に2年もいて、未だに慣れなく

 て、たまに息苦しくなる。でも今は……」

   バスの窓のカーテンが開き、リンカが

   中から手を振っている。

   晴香、笑顔になり、バイバイと言う。

晴香N「私には、あの人がいる」

   晴香の足元のアスファルトに雨が降っ

   てきて、どんどん黒く濡れていく。

 

○西新宿・高層ビル街・路上(深夜)

   晴香、傘を差しながら手を挙げている

   が、なかなかタクシーは捕まらない。

   晴香、ため息をつくが、はっとして、

   職場のほうへ足を向けて歩き出す。

   × × ×

   晴香、雨の中踊る浩史を見つけ、意を

   決して、近づいていく。晴香を見て、

   浩史は踊るのをやめ、目を見開き、ぽ  

   かーんと口を開ける。  

   晴香は「え?」という顔をする。

浩史「お姉さん、何者?」

晴香「え……あ、決して怪しい者では。ごめ

 んなさい。えっと、あなたが踊っているの

 を何度か見かけていて、つい声をかけてし

 まって」

   晴香、頭をさげ、立ち去ろうとする。

浩史「あの、違うんです。話、したいんで

 す! 行かないで!」

晴香「え?」

   × × ×

   屋根の下、晴香がガラス窓に向かって

   立っている。笑顔の晴香が映る。

晴香「また、来てもいいですか?」

   晴香、俯き、嬉しそうに笑う。

 

○西新宿・NSビル・オフィス(夕方)

   広いフロアに白いデスクが並べられ、

   ノートパソコンや書類が整然と置かれ  

   ている。従業員が100人ほど働いて

   いる。晴香、パソコンで事務作業をし

   ている。

野村(声)「斉藤、ちょっといいか」

   晴香、顔をあげる。

 

○同・同・同・会議室(夕方)

   ワイシャツ姿の野村(45)が難しい

   顔をして座っている。目の前に萎縮し

   て座っている晴香。

野村「人間関係で何か悩んでいるなら、俺に

 相談しろよ。抱え込んでないでさ」

晴香「え? 何のことでしょうか」

 

○同・同・同・女子トイレ(夕方)

   個室の中、晴香が座っている。

   女子事務員2人が洗面台の前に立ち、

   メイク直しをしている。

女1「聞いた? 斉藤さんの話」

女2「やっぱり田舎の子はメンタル弱いんだ

 じゃない? うち、確かにブラック企業

 けど、欝であそこまでいっちゃうのはね」

女1「やばいねー。幻覚見て、ブツブツ言う

 とか、やばい薬してたりして」

女2「え、そこまで? あんな地味な顔で」

   個室の中から晴香が飛び出してくる。

晴香「幻覚じゃない! 変な噂、流さない

 で! あなた達が鈍感でいろんなことを見

 逃して、そうやって生きていくのが都会の

 人なら、私は田舎者でいい!」

   女1、女2、顔を見合わせ、笑う。

女1「やばい」

女2「ムキになりすぎ」

   晴香、トイレを飛び出していく。

 

○西新宿・高層ビル街・路上(夕方)

   晴香がきょろきょろと歩いている。空

   から雨が降ってくる。晴香がはっと顔

   をあげて、振り向くと、浩史が立って

   いる。

晴香「会えた……」

浩史「仕事中じゃないの? どうしたの?」

晴香「みんなが、あなたが幻覚だって、私

 がおかしいって決め付けるから、だか

 ら、会いたくなって、それで」

浩史「……奇跡だった。お姉さんだけが、

 俺に気がついてくれた」

   浩史はガラスの窓に歩いていく、ガラ

   スの窓に浩史は映らず、浩史は悲しそ

   うに晴香を振り返って見る。

浩史「雨の日に、あそこの交差点で車にひか

 れたっぽい。で、ずっと、ここにいた」

晴香「(顔がひきつる)誰の話してるの?」

浩史「やっぱりここに居たらいけない。俺と

 話してたら、お姉さんが変人扱いされちゃ 

 うから。だから、俺、いくね」

晴香「行かないで。そんなのどうでもいい」

浩史「俺に気がついてくれて、ありがとう」

   浩史、晴香に近づき、頬に口付ける。

   晴香が浩史の身体に触れようとすると、

   浩史の姿が消える。晴香の手から傘が

   落ち、水溜りの中、ころんと回転する。

 

○西新宿・高層ビル街・路上(夜)

   勤め人がおのおの新宿に向かっていく中、晴香が背筋を伸ばし、歩いているが、猫の声を聞き、列を抜ける。道端の段ボールに向かって走る。

   段ボールの中の子猫が鳴いている。

   晴香は子猫を抱き上げ、笑う。

晴香「もう、1人にしないからね」