20枚シナリオ『サスペンスドラマ』
サスペンスがなかなか思いつかず、3ヶ月くらい課題を書いておらず、まったくシナリオに触れずにいたら、案の定駄作になり、ライター仲間にもけちょんけちょんに言われました笑
今月から再びシナリオライターとして気を引き締めて、執筆も頑張ろうと思います。
※カストラートというのは、少年期の美声を保つために少年の睾丸を切り取られた、去勢された少年の事を言うらしいです。期間限定の美声を持った少年と、その美声に取り付かれている少女のお話を書きたかったのですが、失敗><
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「拝啓、カストラート」
人物
修道寺 雄平(12)(15)ソプラノ歌手
梅原 郁美(12)雄平の幼馴染
修道寺 綾子(31)雄平の母
寺田 レオ(40)綾子の彼氏
○繁華街・道
ハサミのシャキシャキという音が響く
中、息を切らして走るタキシード姿の
少年の影と、それを追いかける少女の
影。二人の足音が、ガヤガヤとした繁
華街の中に吸い込まれていく。
○コンサートホール・舞台(夜)
客席は満員。管絃楽団が演奏する前で、
舞台の上に一人立っている、修道寺雄
平(12)は、タキシード姿で、美し
いソプラノの声を会場中に響かせる。
客席の梅原郁美(12)は目から涙を
流して聴き入っている。
○コンサートホール・控室(夜)
衣装のまま、パイプ椅子に座っている
雄平、喉をさする。
ドアを開けて、修道寺綾子(31)が
入ってくる。顔が赤い。
雄平「(振り向く事なく呆れて)酒臭い」
綾子「(気にせず)で、どうだった?」
雄平「(答えず)……寺田さんは?」
綾子「外で待ってる」
雄平「そっ」
立ち上がり、水を飲む雄平、苦しそう
に喉をさする。綾子、じっと見る。
○コンサートホール・廊下(夜)
綾子、スーツをきちっと着た寺田レオ
(40)が肩を並べて歩く。
寺田「息子の舞台を見に行かなくていいなん
て、君は本当にあの子の母親?」
綾子「私だって辛いの。ここまであの子を有
名にできたのに、もう賞味期限はそこにま
で来てるんだから!」
寺田「はっきり言うなあ」
綾子「あの子が売れて、生活が何とか立て直
ったと思ってたけどさ」
寺田「それは僕と一緒になったらいいって」
綾子「レオ、子ども嫌いじゃない」
寺田「まあねえ。じゃ、親戚か誰かには?」
綾子「そんな、無責任な」
寺田と綾子が角を曲がったところで、
花束を持った郁美とぶつかりそうにな
る。寺田と綾子、気まずい顔をして、
綾子「あら、郁美ちゃん」
寺田「これまた、でかい花束だな」
郁美「(にっこりと笑って)自慢の息子さん
の一番のファンですし。失礼します」
郁美が礼をして立ち去り、寺田と綾子
は顔を見合わせる。
綾子「(ぼそっと)聴いてたと思う?」
寺田「まだ小学生のガキにどうこうできない
でしょ」
綾子「女よ、ガキって言ったって」
寺田、肩をすくめて笑う。
○コンサートホール・控室(夜)
苛立った様子で雄平がペットボトルを
壁に投げつけ、肩で激しく息をする。
ノックをして、郁美が入ってくる。
雄平「(呆れた顔で)毎日、来るなよ」
郁美「雄平、今日の夜は何だか悲しい気持ち
になったよ……さっき、あの人たちとすれ
違った」
雄平「……もう、どうでもいいよ」
郁美「これからの事、ちゃんと考えてる?」
雄平「は?」
郁美「ボーイソプラノとしてどう生きるか」
雄平「どうもこうも、声変わりが近いよ、自
分でも分かってる。だから、あの人の態度
がああなったのだって……」
郁美、雄平が投げたペットボトルを床
から拾って、
郁美「(冷たく)捨てられるよ」
雄平が固まっていると、郁美はペット
ボトルを部屋の隅のゴミ箱に捨てる。
郁美「私が父親に捨てられたのは6歳だった
けど、雄平は12歳で母親に捨てられる事
になるね」
雄平「捨てるって、物じゃないか、まるで」
郁美「商品だよ。あの人にとってはね」
雄平、郁美のそばにいって、首に手を
かける。郁美、平気な顔で見返す。
雄平「もう一回言ってみろ」
郁美「でも、私、雄平の声を変えない方法を
知ってる」
雄平、目を大きく見開く。
○繁華街・道(夜)
雄平、物陰に隠れて、激しく息をつく。
郁美の呼ぶ声が遠くに聞こえる。
雄平「……くっそ」
雄平、スマホをポケットから取り出し
て、連絡帳を呼び出して、迷いながら、
寺田に電話する。
雄平「まだ、マトモであってくれ!」
呼び出し音鳴り続け、イライラしてく
る雄平。影ができ、郁美が現れる。
郁美の手には大きな裁断バサミ。
郁美「見ぃ~つけた!」
雄平、振り返って青ざめる。
雄平「や、や、やめてくれ」
郁美「富と名声を得るために、何も犠牲にし
なくていいだなんて、そんなバカな話はな
いよ。来年中学生なんだから、それくらい
分かるでしょ」
雄平「マジで、ないから! そこまでして、
ソプラノの声がいいなんて思ってない!」
郁美「は? ここに一番のあなたのファンが
いるのに! 自分のベストを尽くして!」
雄平「うるせえ、やめてくれ!!」
郁美が雄平に近づいていく。
郁美「切るだけ。一瞬痛いかもしれないけど、
大丈夫よ。女の人が出産するときの痛みと
同じくらいかな。……お母さんが赤ちゃん
を産む事ができるんだから、あなただって
耐えられる(ぶつぶつと)」
雄平、ぎゅっと目をつぶり、叫ぶ。
雄平「あああああ!」
雄平の目の前が真っ暗になる。
× × ×
雄平が目を開けると、裁断バサミが胸
に刺さった、血だらけの郁美の死体が
地面に横たわっている。
雄平「……あ、あああああ」
雄平、後ろにズリズリと下がって、震
えながら、郁美の死体から目が離せな
いでいる。雄平、ゆっくりと自分の手
に目をやると、手は血だらけ。
雄平「……お、俺が?」
雄平の目から涙が零れて、醜く歪む顔。
雄平「だ、誰か助けて……」
雄平のスマホの音が鳴り響き、びっく
りした雄平は辺りを見渡す。少し離れ
た所にあるスマホを手に取り、非通知
の画面を見て、電話に出る雄平。
雄平「……もしもし」
郁美の声「どうして私を殺したの?」
雄平「ひっ」
雄平、郁美の死体を再び見る。
郁美の声「あなたの声が好き。だから、何度
も電話する、あなたの声が汚い男の太い声
にならないように、ずっとね」
雄平、慌てて、青ざめた顔のまま、ス
マホの電源を切る。
雄平「……な、何なんだよ……た、助けて」
雄平、自分の膝を抱えて、顔をうずめ
る。
○繁華街・情景(夕方)
T「3年後」
ニット帽子をかぶり、マスクをした雄
平(15)が鋭い目つきで、人ごみを
逆らうようにして歩く。
寺田が連れの女と歩いてきて、雄平と
すれ違う。
寺田、はっとした顔で振り返って、雄
平の腕を取って、
寺田「君、雄平君だろ? あ、やっぱり!」
寺田は雄平の顔をまじまじと見つめて、
懐かしそうに笑う。
雄平、寺田の手を振り払う。
寺田「……なんだよ、しゃべれよ。あ、3年
も行方くらまして、どこに行ってたんだ?
君のお母さんとはあれから別れちゃったけ
ど、憔悴しちゃって見てられなかったよ」
雄平、下を向いて、考えるような顔を
して、そして黙って立ち去る。
寺田「……おい、おーい」
寺田は軽くため息をつくと、待ってい
た連れの女の肩を抱いて歩き出す。
○繁華街・雑居ビル・外観(夜)
麻雀カフェ、ライブハウス・クラブな
どが入っている。
○同・同・ライブハウス(夜)
客がまばらに席に着いている。
やけに太った男が舞台の上に出てきて、
男「さあ、今夜は世にも奇妙なソプラノボイ
スの持ち主、若干20歳の歌手が皆様をお
もてなし致します」
男が舞台袖のタキシード姿の雄平を手
で案内する。
男「YOUです!」
雄平がそろそろと舞台の真ん中に歩い
ていく。
雄平の脳内で声がする。
郁美の声「私のおまじない、毎日夜に電話し
て、あなたの声が綺麗なソプラノでいられ
ますようにってお祈りしてあげるから」
雄平、空ろな目で、マイクの電源を入
れる。安っぽいバックミュージックが
流れ、雄平は顔を上げる。
雄平が少年のソプラノボイスで歌を歌
い始めると会場がわっと沸く。
郁美の声「だから、ずっと歌い続けて。私の