20枚シナリオ 『不安』
『リミット』
☆人物
坂本 譲次(38)商社リーマン
西河 ミナ(28)坂本の愛人
坂本 良子(36)坂本の本妻
坂本 陸人(16)坂本の息子
佐藤 理香(40)坂本の愛人
佐藤 あや(6)坂本の娘
○3階建ての一軒家・坂本の家・玄関(朝)
高級そうなスーツに身を包んだ坂本譲
次(38)が大きなキャリーケースを
手に持ち、ドアを開ける。白いエプロ
ン姿で、ばっちりメイクをした坂本良
子(36)が笑顔で坂本を見送る。
○同・坂本の家・外観(朝)
サングラスをかけた西河ミナ(28)
がスマホ片手に坂本の家を見ている。
○古びたアパート・理香の家・外観
キャリーケースを持って階段を上がっ
ている坂本。
金髪ロングヘアですっぴんの佐藤理香
(40)がドアを開け、坂本を見て、
笑顔で出迎える。
理香「お帰り、譲次!」
○理香の部屋・居間
坂本、理香、佐藤あや(6)が、小さ
な卓袱台の前に座って、素麺を啜る。
あや「パパ、お土産は? あや、お人形さん
がいい」
坂本「お土産か、忙しくて今回は買ってこれ
なくてごめんな」
理香「あや、ええ加減にしい。久々にパパに
会えたのに、モノねだるなんてあかん」
坂本「いいんだよ。寂しかったか?」
壁にかけられている坂本のスーツのジ
ャケットでスマホが鳴る。
坂本「またか。インドの新しい工場長が使え
なくてね。ちょっと電話に出ていいか」
理香が頷くのを見て、坂本、立ち上が
り、ジャケットからスマホを取り出し、
玄関から出て行く。
○コンビニ・内
印刷機の前に立っているミナ。
スマホを耳にあてている。
ミナ「話したいことがあって。うん、急にご
めんね。明日? いやよ。今晩時間作って。
お願い」
ミナ、印刷機から写真を取り出す。
ミナ「ありがとう。じゃあ、後でね」
○シティホテル・705号室(夜)
浴室から出てくる坂本。
下着姿のミナはベッドから立ち上がり、
ミナ「フランス、ミナも行ってみたい」
ミナ、坂本の首に手をまきつけ、口づ
ける。坂本もそれに応え、2人はベッ
ドに倒れこむ。
坂本「観光するにはいいけど、仕事だから」
ミナ「落ち着いたら旅行に連れていって」
坂本「とりあえず、抱かせろよ」
ミナ、坂本からすり抜けるようにして
ベッドからおりる。テーブルの上の自
分の鞄を手に取り、写真を取り出す。
坂本「それ、何」
ミナ、写真をちらつかせて笑う。
ミナ「バツイチ子なし、って嘘じゃない?」
坂本、青ざめて固まっている。
坂本「……俺のこと尾けたのか?」
ミナ「あなたが既婚者だって知ってたら、三
年も付き合わなかった。結婚してくれるっ
て言ったじゃない」
坂本「聞いてくれ。妻との間には愛はない。
言えなかったのは君を愛しているからで。
君とのことは、ちゃんとするから」
ミナ「ちゃんと? ねえ、私だけなの? こ
んな風に何人も騙してるんじゃないの?」
坂本、ミナに近づき、抱きしめる。
坂本「違うよ。ミナが一番だし」
ミナ、坂本の体をおしのけて、
ミナ「あなたが嘘つきだって、その証拠をR
宛に送ったわ」
坂本「R? 」
ミナ「証拠って何だと思う? あと、ネット
の掲示板にも、あなたのこと晒しておい
た。まあ、Rがそこに辿りつかないことを
祈ってるわ。じゃ」
ミナ、手早く身支度をし始める。
坂本、ベッドにへたりと座りこむ。
○坂本の家・リビング(夜)
ソファでプロ野球の試合を観ている坂
本陸人(16)。家の電話が鳴り、
渋々電話に出る陸人。
陸人「坂本です」
坂本の声「父さんだ。おい、母さんは」
陸人「え、風呂だけど」
坂本の声「そうか。何か変わったことはない
か? 郵便物とか、そういうので」
陸人「何、いきなり。忙しいから切るよ」
陸人、電話を切る。
リビングに良子が入ってくる。
良子「電話?」
陸人「父さん」
良子「あら、珍しいわね。何て?」
陸人「さあ」
○スーパー
レジの中で、商品のバーコードを読み
とっている理香。
理香「合わせて、3450円になります」
ミナ「はあい」
ミナ、理香をじろじろと見ている。
理香「あの、何か?」
ミナ「いえ。あの、つわりに効く食べ物、知
りませんか? って、いきなり聞いてすい
ません」
理香「おめでたですか。おめでとうございま
す。私はすっぱいものとか口にしてました
けど」
ミナ「じゃ、買いなおしてこよっかな。私、
旦那が出張ばかりで、お産も一人になりそ
うで。いろいろ不安で、つい」
理香「それは心配ですね。お大事に」
理香、去っていくミナの後ろ姿を首を
傾げて見ている。
○理香の部屋・寝室(夜)
理香とあやが一緒に寝ている。
襖の隙間から見ている坂本。
○同・居間(夜)
テーブルの上に広げられた郵便物。
頭を抱えている坂本。
坂本「くそ、いつだ……」
○坂本家・リビング(夜)
ピザの箱を3つ手に持った良子が部屋
に入ってくる。困り顔で、ため息。
ソファに座っている陸人、顔をあげて、
陸人「どしたの、それ」
良子「届いたのよ。でも、お母さん注文なん
かしてないのよ」
陸人「嫌がらせだよ。母さん、どっかで恨み
買うようなことしたんじゃ」
良子「そんなことしてないわよ。嫌ね」
陸人「それか、父さんか」
良子「お父さんはそんな人じゃありません」
陸人「仕方ないな。俺、食うわ」
ピザの箱を良子から取り上げ、陸人は
嬉しそうに食べ始める。良子、ため息。
○道(夜)
キャリーケースをひいて歩いている坂
本。耳にあてていたスマホを離す。
スマホから『この電話番号は現在使わ
れておりません』とアナウンス。
坂本「くっそ」
目の前に坂本の家が見える。
○坂本の家・リビング(夜)
机の上の、ピザの空き箱を見つめる坂
本。良子、頬に手をあててため息。
良子「初めてだわ、こんな嫌がらせ。あなた、
心当たりある?」
坂本「いや……まあ、間違いだろう」
良子「これで無言電話とかまで来たら、本当
に誰かがうちに嫌がらせで」
坂本「大丈夫だろう。気にしすぎだ」
良子「でも、どうして急に帰国したの?」
坂本「部下がヘマしたから埋め合わせだよ」
陸人、振り返って坂本を見ている。
○理香の部屋・玄関(夕方)
坂本が疲れた顔でドアを開ける。
理香、かけよって、
理香「お帰り」
坂本「お客さん?」
理香「あ、そう。うちのスーパーのお客さん
が倒れちゃって。妊婦さんで心配やから、
とりあえずうちに」
坂本「人がよすぎるだろ、大丈夫か?」
ミナがを手で押さえて姿を現す。
ミナ「旦那様ですか? すいません、お邪魔
してしまって」
坂本「(ぎこちなく)いえ、大丈夫ですか」
ミナ「奥様がお優しくて、ご好意に甘えてし
まいまして」
理香「困ったときはお互い様ですよ」
坂本の胸ポケットでスマホが鳴る。
坂本、慌てて、スマホを取り出す。
着信は自宅から。坂本、出ない。
ミナ「旦那様、出なくてもいいんですか?」
電話が切れ、今度は陸人からの電話。
理香「あ、西河さん、お茶入れましたから」
理香、ミナを連れて居間に戻る。
坂本、スマホを持って、玄関を出る。
○アパート・理香の部屋の外
坂本、スマホで電話している。
陸人の声「父さん、家に早く帰ってきて!」
坂本、理香の部屋を振り返る。
坂本「い、いま、と、取り込んでいて」
陸人の声「俺たちとそっち、どっち取るんだ
よ。母さんが……」