シナリオ☆おひとり雑技団

過去のシナリオ置き場です。無断転載はお断りしています。感想などはどんどん受付けています。

20枚シナリオ 『裏切りの一瞬』

隠れ?ゲーマーなので書きました。

モデルはレベルファイブとかスクウェアエニックスですw

ゲームは2D派、ドラクエ4をこよなく愛していますwww(余談

 

「ペガサス・ソウル」

          

★人物

右京 つぐみ(29)ゲーム製作会社のクリ

          エイター

      (15)

麻生 宅人(43)同社の社長

石間 哲(43)同社の副社長

柄戸 あや(22)麻生の彼女

 

○商店街・おもちゃ屋・外観(夜)

   店の入り口から始まっている長蛇の列。

   ショーウィンドウに大きな文字で『ペ

   ガサス・ソウル待望の新作発売!』と

   書いてある。右京つぐみ(15)が白

   い息を吐きながら、列に並んでいる。

○株式会社レベル・スリー・自社ビル・外観

T・14年後

○同・同・廊下~社長室

   右京つぐみ(29)のスニーカーの足

   が床を勇ましく進んでいく。社長室の

   前で立ち止まり、ノックするつぐみ。

つぐみ「右京です。入室宜しいですか」

麻生の声「あいてるよ」

   つぐみ、部屋に入る。

○同・同・社長室

   広い部屋の隅にソファ、その周りには

   色々なゲーム機器が無造作に置いて

   ある。『ペガサス・ソウル』の勇者の

   キャラクターの実物大の像が部屋の隅

   に置かれ、鞄や帽子がかけられている。

   ソファにうつ伏せになり、スマホのゲ

   ームをしている麻生宅人(43)。

   仁王立ちしている、つぐみ。

つぐみ「ペガサス・ソウル10の開発を中止 

 って、どうしてなんですか? この5年間

 皆がどれだけ思いをこめて取り組んできた

 か、その思いは社長に伝わってなかったん

 ですか。納得のいく説明をお願いします」

麻生「(眠たげに)もう無理だろ。大手ゲー

 ムメーカーもスマホゲームにどんどん移行

 してる、家でゲーム機使ってプレイするの

 はもう時代遅れなんだよ」

つぐみ「昔からのファンがいます。私だって

 そうです。新作を心待ちにしてる人たちに

 何て言ったらいいんですか」

麻生「知るか。ペガソー9がこけて、ネット

 で叩かれまくったの忘れたか? 俺はもう

 懲りた」

つぐみ「ペガサス・ソウルがなくなったら私

 達はどうしたらいいんですか」

麻生「そういうのは石間に任せてる」

   つぐみ、下唇を噛み締めて、黙って、

   麻生に頭を下げて、部屋を出る。

○同・同・屋上

   煙草をふかしている石間哲(43)、

   隣で頬をふくらませているつぐみ。

石間「悪かった。経営が苦しいとはいえ、こ

 のタイミングでやめたこと、右京たちには

 悪いことをしたと思ってる。でも、社長が

 一番辛いと思うで。わしらにとってはペガ

 ソーは子供みたいなもんや。もがいても、

 もがいても、あんなブームはもう来ないや

 ろうしな。苦渋の選択やったんや」

つぐみ「副社長、ペガソー開発メンバーはこ

 れからどうしたら」

石間「他社のシェアが高い恋愛シミュレーシ

 ョンゲームに着手したいそうや」

つぐみ「ええ? うちがですか?」

石間「ペガソーに代わるヒット作が必要やっ

 て言ってな。社長のアイデアでは、ダン

 ョンと恋愛を結びつけたRPG? みたい

 なのがいいとか」

つぐみ「スマホの開発メンバーを増やさない

 と、ですね。私も勿論勉強しますが」

石間「せやねん。人件費抑えたいとこやけど、

 そこはコストかけてかなな」

つぐみ「副社長は嫌にならないんですか、社

 長に振り回されてばっかじゃないですか」

石間「麻生は攻め、わしは守り。凸凹コンビ

 がちょうどいいんや。あんまり悪く言うて

 やるな。焼肉おごるさかい」

つぐみ「メンバー全員で、ですか?」

石間「え……ま、まあ、ええわ」

   

○同・同・社長室~廊下(夜)

   部屋の隅、勇者の像の前に立っている

   麻生。右手を左の腰にやり、剣を抜く

   フリをして、ぼそぼそと呟く。

麻生「目覚めよ、ペガサス・ソウル! あく

 なき探究心を胸に、未知の世界へ」

   ドアが開き、柄戸 あや(22)が遠

   慮なく部屋に入ってくる。

あや「宅ちゃん、ご飯いこう」

麻生「(あげていた手をおろして)ああ」

あや「また、ペガソーごっこしてんの? い

 つまで少年なのよ。ねえ、お願いしてたゲ

 ーム、作れそうなの?」

麻生「あやちゃんのオーダーは社内調整中」

あや「早くプレイしたいなあ。イケボじゃな

 いと嫌よ、あたし」

麻生「俺という存在がいるくせに、二次元に

 も男が必要なのか? 贅沢ものめ」

あや「世の中のシングル女子のために、頑張

 ってよ。ね? あやのお願い」

麻生「なあ、そんなにペガソーはダメか? 

 周りの男友達とか、プレイしたことある奴

 いるだろ?」

あや「いない、いない。ゲーム機なんて持っ

 てないよ。ぜーんぶスマホで済むじゃん」

麻生「そうだよな」

   あや、麻生の腕に手をまわし、部屋の

   外へ連れ出す。

   廊下を歩いていく麻生、あや。それを

   こっそりと見送る石間。

○単身用アパート・外観(夜)

T・3ヵ月後

   ゲームのプレイ音。   

○つぐみの部屋(夜)

   暗い部屋の中、テレビに映る『ペガサ

   ス・ソウル3』のプレイ画面。勇者の

   キャラクターが草原を走っている。

   つぐみ、ゲーム機のコントローラーを

   床に置き、ため息をつく。

つぐみ「さあて、勉強すっか」

   つぐみ、床の上のスマホに手をのばし、

   他社の恋愛シミュレーションゲーム

   はじめる。

つぐみ「くっさい台詞、何よ、この髪型。

 男、みんな同じ顔じゃん。何なのよ!」

   スマホの画面に着信。石間から。

つぐみ「(電話に出て)どうしたんですか」

○バー(深夜)

   カウンター席に肩を並べて座る石間と

   つぐみ。

石間「開発、難航してるみたいやな」

つぐみ「恋愛なんて一切してこなかった集団で、毎日、萌え台詞とか、壁どん・床どん・顎くいについて研究してる段階で。社長にいくら急かされても、なかなかうまくいかないのが現状です」

石間「そうやろなって思ってて。わし、思うねんけど、うちのスタンスみたいなもの、簡単に変えてええんかなって」

つぐみ「スタンス?」

石間「わしらが作ってきたもんをさ、求めてくれるファンがおるやん。いくら恋愛ゲーが流行っているって言ったって、わしらも同じのを作らないとあかんのかいな」

つぐみ「副社長がそんな考えでいたなんて、

 ちょっと意外です。いつもクールだし」

石間「そういう立ち位置にならざるをえないやん、自然と。でも、俺、好きやねん。ペガソーのこと。守ってやりたいねん」

つぐみ「どうするつもりなんですか?」

石間「社長にやめてもらうしかない」

つぐみ「え?」

石間「それか、わしらで別の会社立ち上げて、そこでやりたいことやるか」

つぐみ「わし、ら?」

石間「右京、お前が俺には必要や」

   石間、つぐみの手を握り締める。

○株式会社レベル・スリー・自社ビル・オフ

 ィス

   パソコンに向かってタイピングしてい

   るつぐみ。壁に貼られた『ペガサス・

   ソウル』の販促用ポスターを見つめる。

   部屋に麻生が入ってくる。

麻生「右京、ちょっと」

   つぐみ、顔をあげる。

○同・社長室

   麻生がソファに座ってスマホの恋愛ゲ

   ームをプレイしている。その近くに立

   って、それを不安げに見ているつぐみ。

麻生「(顔をあげて)お前、まともに恋愛し 

 たことないだろ。ゲームのターゲット層

 に響かないわ。俺の彼女に昨日やらせた

 ら、けちょんけちょんだったぜ」

つぐみ「恋愛ですか……ですから、日々研

 究して、少しでも萌えを」

麻生「やっぱ、ペガソーメンバーには無理

 か。お前を担当から外そうと思ってる」

つぐみ「え……?」

   石間が部屋に入ってくる。

麻生「今、右京に開発中のゲームの担当を外

 れてもらう話をしたところだ」

石間「わし、もう、お前にはついていけへん。

 ペガソーメンバーには全員話をつけてある。

 今日かぎりで辞めさせてもらうわ」

麻生「急に何を言い出したかと思ったら」

つぐみ「社長、時代にあうゲームを作りたい

 なら、彼女にプロジェクトに入ってもらっ

 てください。彼女のためのゲームを作りた

 いなら好きにしたらいいじゃないですか」

麻生「おいおい、右京まで。ふざけるな」

   石間、部屋の隅の勇者の像の前に歩い

   ていく。像に手をやり、呟く。

石間「いつからやろう。夢を一緒に追いかけ

 てきたつもりが、全然違う未来を見るよう

 になってた。あくなき探究心はどこや」

麻生「……ふ、ふざけるな」   

20枚シナリオ 『男と女』

『 難関不落!絶食系男子』

         

★人物

東 夏帆(20)大学生

北上 将太(19)大学生

南条 志保美(20)大学生

西山 裕樹(28)フリーター

ハナ(9)

 

○駅前・個別教室・内(夕方)

   20畳ほどの一室の中に、ブースで仕

   切られている机に生徒とバイトの教師

   が座っている。

   東夏帆(20)は、ハナ(11)の解

   いた漢字テストの丸付けをしている。

夏帆「はい、ばっちりでした」

ハナ「(ちらっと夏帆を見て)東先生」

夏帆「何ですか?」

ハナ「で、初体験はいつ?」

夏帆「ええ?!」

ハナ「(ため息)なんだ、経験なしかあ」

   夏帆固まっている。ハナはぺこっと礼

   して、部屋を出て行く。北上将太(1

   9)が隣のブースから顔を覗かせる。

将太「大きな声出して、どうしたの」

夏帆「な、何でもないです」

 

○同・同・休憩室(夜)

   夏帆、西山裕樹(28)がコンビニの

   袋を開け、飲み物や食べ物を出す。

   裕樹は鞄から、公認会計士の試験対策

   の本を取り出し、ページを開く。

裕樹「(苦笑しながら)東先生、からかわれ

 たんだね」

夏帆「はあ……授業も本当に聞いてるのか分

 からないですし」

裕樹「俺みたいな顔面岩みたいな男には聞き

 にくいんじゃない、俺の生徒たち、雑談一

 つしないよ、ははは」

夏帆「どっちがいいんでしょうかね」

   将太が部屋に入ってくる。夏帆、顔を

   あげて、笑顔になる。

将太「お疲れ様でーす」

夏帆・裕樹「お疲れ様です」

将太「なに、なに、二人いい感じじゃない? 

 でも、ここ、職場恋愛禁止っ」

夏帆「全然全然全然そんなんじゃ」

裕樹「俺と東先生じゃ、釣り合い取れないよ。

 くっつくなら、東先生と北上先生だよ」

夏帆「(赤面して)え?!」

将太「俺は恋愛案件はパスだな。勉強とバイ

 トと趣味で、いっぱいいっぱい、だしね」

   夏帆、笑顔のまま、固まっている。

裕樹「北上先生の顔なら、女子がわんさか寄

 ってくるのにね。需要と供給が合わない」

将太「彼女いらないキャラで固定してるし」

裕樹「でも、好きな人ができたら、もし、で

 きたとしたら、その主義も変わる?」

将太「いや。恋愛なしの人生が楽しいし」

   夏帆、パックのジュースを一気に飲み

   干して、顔を机に伏せる。

 

○学生マンション・外観(深夜)

 

○同・夏帆と志保美の部屋(深夜)

   ドレス姿の南条志保美(20)が玄関

   のドアを開けて、ダルそうにピンヒー

   ルの靴を脱ぎ捨て、台所に向かう。

   冷蔵庫のドアを開けて、ペットボトル

   の水を取り出し、冷蔵庫のドアを閉め

   ると、そこに夏帆が立っている。ひっ

   と悲鳴をあげる志保美。

志保美「貞子もビックリだわ!」

夏帆「ねえ、絶望的なの、聞いてよぉ」

志保美「わーった。シャワー浴びて、メイク 

 落としたらね。10分待て」

   × × ×

   10畳ほどのワンルームの真ん中、ラ

   グの上で、チューハイを飲んで話して

   いる夏帆と志保美。

志保美「そういう男はね、絶食系っていって

 ね、間違っても、うちの店には来ないタイ

 プ。女っ気も、からきしないのよねえ」

夏帆「じ、じゃ、ホモってこと?」

志保美「モーホーでもないから厄介なのよ

 ね。ルックスも悪くないし女子にも優し

 い。でも、恋愛関係には絶対なれないの」

夏帆「それって諦めろってこと?」

志保美「ちょい待て。腰掛けキャバでも指

 名一番取ってるレナちゃんが(人差し指で

 自分を指差して)目に入らぬか?」

夏帆「先生、師匠、大統領、総長~」

志保美「大体さ、夏帆、元彼いつよ?」

夏帆「中学校三年の時、初恋でね、吹奏楽

 の先輩で……」

志保美「まさかの?」

夏帆「健全にキスまで(照れる)」

志保美「ズコー!! って、おい」

   志保美、夏帆の肩を叩いて、

志保美「諦めよ? 男なら何億といるし」

   夏帆、立ち上がり、去ろうとする志保

   美の足にしがみつく。

夏帆「何でもするーー何でもするからー」

   志保美、振り返り、にたりと笑う。

志保美「何でも?」

 

ガールズバー・カウンター内(夜)

   胸元の開いた制服姿の夏帆がもじもじ

   している。隣に立つ志保美、夏帆の背

   中をばしっと叩く。

志保美「北上将太が難関不落な大阪城とした

 ら、ここに来る客なんて、小さな平城よ」

夏帆「無駄に歴女。例えがわかんない」

志保美「とりあえず、男の扱いに慣れよう」

   店に若い男性の二人連れが入ってくる。

志保美「こんばんはー(営業スマイル)」

夏帆「志保美~、やっぱり無理だよ」

志保美「とりあえず、話し聞いてればいい

 の。ニコニコしてな! 女は愛嬌」

 

○駅前・個別教室・内(夕方)

   ブースの中で、つけまつげの付いた夏

   帆がハナの授業をしている。

夏帆「次はこれ解いてください」

ハナ「先生、男できた?」

夏帆「こら、授業と関係ない話しないの」

ハナ「露骨なんだもん。つけまとか」

夏帆「見た目から頑張ろうと思って」

ハナ「分かってないな。男ってナチュラル

 可愛いのが好きなの。つけま、ダメ。あ

 と、カラコンもダメ。男はひくの」

夏帆「ハナちゃん、色々知ってるのね」

ハナ「お姉ちゃんが婚活で苦労してるから」

   ハナと夏帆の後ろを、将太と男子生徒

   が通る。将太、ハナに声をかける。

将太「ハナちゃん、調子どう?」

ハナ「(ぶりっこに)東先生が分かりやすく

 指導してくださるんで、いい感じです」

将太「さすが、東先生」

   将太、夏帆の肩をとんと叩いて、立ち

   去る。夏帆、赤面している。

ハナ「(夏帆を見て)へえ~」

 

○通行路(夜)

   夏帆と裕樹が肩を並べて歩いている。

裕樹「北上先生の趣味は全部知ってるよ」

夏帆「え? 自転車とボルダリングと」

裕樹「カメラと料理と読書と陶器作りと」

夏帆「私の入り込む隙なんて……」

裕樹「頑張ってるのにね、俺、今日の東先生

 の服とかメイクの感じとか好きだよ」

夏帆「あ、ありがとうございます」

裕樹「じゃ、俺と東先生と北上先生の3人

 で、なら。バイトない時誘ってみようか」

夏帆「でも、先生、勉強が大変なんじゃ」

裕樹「いいの、俺のことは」

   裕樹の横顔をそっと見つめる夏帆

 

○横浜・鶴見川サイクリングロード

   サイクリングウェアに身を包み、レン

   タル自転車に跨る夏帆、裕樹、将太。

将太「(笑顔で)サイクル仲間が増えて嬉し

 いな。言ってくれたら前から誘ったよ」

裕樹「勉強ばっかでも身体がなまるしね」

夏帆「天気もよくて良かったね」

   将太が先頭を走り、裕樹、夏帆が続く。

   × × ×

   路肩に自転車を停めて、田園風景を眺

   めながら、道の端に座っている将太、

   裕樹、夏帆

裕樹「あ、飲み物持ってくるの忘れたわ」

将太「自動販売機ちょっと前にあったよ。皆

 で戻ろうか」

裕樹「いいよ。ちょっと行ってくる」

   裕樹、サイクルにまたがり、走り去る。

   夏帆、裕樹のほうを振り返ってみる。

将太「こういうのいいよな。男も女も関係な

 くさ。男と女の友情って成り立つって俺は

 思ってるんだけど、東先生はどう?」

夏帆「わ、私は……相手によるかな」

将太「趣味も合うし、東先生とはもっと仲良

 くなれそうだな」

夏帆「その友情の延長には、別の感情とか、

 沸いてきたりするのかな……私、いつか、

 北上先生と、その……」

将太「(夏帆の口を手で押さえて)ストッ

 プ! せっかくいい感じに楽しいのに、

 そういうのダメって言ったじゃん」

   夏帆、うつむき、慌てて笑顔で、

夏帆「あ、嘘、嘘。撤回。友達がいいよ」

将太「なら、いいけど」

   自転車を押して歩いてきた裕樹が立ち

   止まり、将太と夏帆を見ている。

 

○駅前・個別教室・内(夕方)

   ブースの中にいる夏帆とハナ。つけま

   の夏帆をじっと見ているハナ。

ハナ「それ、男受け悪いって」

夏帆「これが可愛いって言ってくれるの、彼

 は。雑談はダメ。勉強しますよ」

ハナ「なーんだ、うまくいってるんだ」

   ×  ×  ×

   裕樹と女子生徒がハナと夏帆の後ろを

   通り過ぎる。裕樹と目を合わせる夏帆

裕樹「(こっそりと)後で」

夏帆「(こっそりと)うん」

   その後ろから、将太と男子生徒がつい

   てくる。将太、幸せそうな夏帆の横顔

   をじっと見つめている。

 

 

 

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20枚シナリオ『死』

「屠所の羊は眠らない」

 

★人物

諸岡 雁(25)刑務官

諸岡 愁(20)諸岡の弟

五藤 すず子(57)死刑囚

木原 昭三(43)刑務官

 

 

○一軒家・諸岡家・居間(朝)

   テレビで天気予報が流れている。

諸岡雁(25)が立って歯磨きをし ながら、テレビを眺めている。

バタバタと足音が聞こえ、慌ただしく

居間に入ってくる諸岡愁(20)。

愁「やっべぇ、寝坊~。おはよ、兄貴」

雁「(呆れて)お前、間に合うのかよ」

愁「(舌を出して)ぎりぎり」

雁「学費払ってやってんだから、サボんなよ」

愁「分かってるって。今日、晴れ? 雨?」

雁「予報では曇りのち晴れ。でも、折り畳み傘は持っていけ。天気予報なんてアテにできん。朝の星座占い並に外れるんだ」

愁「あ、おとめ座、何位だった?」

雁「だから、当らないって言ってんのに」

 

○東京拘置所・外観

 

○東京拘置所・独房内

   白い浴衣姿の五藤すず子(57)が正座して、小さなテレビで映画を観てい

   る、黒沢明監督の白黒映画だ。

   刑務官の制服を着た、厳しい顔つきの雁が見回りするのが独房から覗ける。

すずこ「諸岡先生の弟さん」

   雁、ぴたっと止まり、すずこを見る。

すずこ「(テレビをみたまま早口で)愁君、

学校行っておりませんね。いつものアル

バイトに加えて、少し時給の高い引っ越

し屋でも働いております。お金にお困り

でいらっしゃるのですね」

雁「……誰に聞いた。気味が悪い」

   すずこ、指で窓の外を指す。

すずこ「諸岡先生をお救いするよう言い遣っ

たのですよ。私は悩めるアリ人を救うために存在しておりますから」

   すずこ、首だけ回して雁を見る。

   すず子は真顔のまま、またテレビを見る。すずこを気味悪そうに見る雁。

 

○同・刑務官控え室(夕方)

   机に向かって事務作業をしている雁。

   木原昭三(43)が手に持っている書類を雁の机に置く。

雁「(うんざりした顔で)またですか」

木原「若いうちに苦労しとけって。じじいに

なっても続けていけるようになるから」

雁「木原さんみたいになれと?」

木原「がははは。悪くないだろ?」

雁「(ふてくされ)絶対嫌ですよ」

木原「お前、さっき祈祷師に話しかけられて

たな。聞いたらいけないぞ、まさか、信じていないよな?」

雁「五藤すずこですか。……当然ですよ。祈祷師っていうか、詐欺師で殺人鬼で、気持ち悪いばばあじゃないですか」

木原「がははは。刑務官の中にはあいつの予言をアテにするバカもいるらしいぞ。詐欺師は相手に取入って心の隙間に入り込むプロだからな」

雁「本当にあいつが占い師なら自分の死刑決行日も分かるんですかね?」

木原「どうだろうな。俺たちだって朝一番に知らされて凹むっていうのに、事前に分かってたら気が狂うんじゃないか」

 

○東京拘置所・独房内(夜)

   薄い布団の上、正座して、窓を見上げているすず子。表情はない。

 

○一軒家・諸岡家・居間(夜)

   ソファの上で眠っている愁。

   雁が愁に毛布をかけようとすると愁が

目覚めて笑う。

愁「やべ。寝てた?」

雁「お前、バイト増やした?」

愁「え? あ、うん」

雁「まさか引っ越し屋?」

愁「何だよ、見てたの? 声かけてくれよ」

雁「え? 本当にそうなのか?」

愁「あ、ああ。先週から派遣短期で、サカ

イで週2シフト入れてんの。きつくて」

   雁、黙り込んでいる。

 

○東京拘置所・独房内

   すず子、正座して文庫本を読んでいる。

   その前に立っている雁。

雁「五藤、お前は手紙も接見も一切ないのに、どうやった。どうして俺の弟のことを」

すず子「さ来月の11日、関東で大きな災害がございます。ここも被災します」

雁「いきなり何だよ」

すず子「弟さんは来月東北旅行に行く計画を立てています。交際している女性とドライブに行くのです。残念ながら、弟さんはその女性を助けるために水死します」

雁「や、やめろ」

   すず子、顔をあげて、雁を見る。

すず子「信じていらっしゃらないんでしょう? 何を怯えているんですか」

 

○一軒家・諸岡家・居間(夜)

   テーブルの上に置かれた東北観光の

パンフレットを、雁が手に取る。

お風呂上りの愁が居間にやってきて、

愁「あ、それ、いいっしょ」

雁「……これ、いつ行くんだ」

愁「3月。バイト代ためて、彼女と」

雁「……やめろ」

愁「え?」

雁「やめろ。……俺がもう少し金出してやるから、行くなら沖縄にしろ。それか、

 2月にしろ」

愁「いや、彼女の地元なんだって。だから」

雁「か、彼女の家族も一緒に旅行に行けば

いい、そのほうが」

愁「どうしたんだよ、兄貴。最近変。どうしちゃったんだよ」

雁「だよな。俺、おかしいよな」

愁「うん。まあ、いいよ。兄貴は迷信とか

信じない代わりに、大体正しいし」

 

○東京拘置所・刑務官控え室

   ソファに座って雑誌を読んでいる木原。

   段ボールを運んでいる雁。

   部屋が大きく揺れ、雁は体勢を崩し、

   段ボールが手から落ちる。

木原「地震か?! 何だ、この揺れは」

   雁、はっと顔をあげると、壁に手をつ  

   きながら、部屋を出る。

 

○同・独房内

   他の独房内からざわめく声が聞こえている中、静かに窓を見ているすず子。

   雁がよろよろと独房の前に来る。

雁「五藤、お前が言っていたのは……」

すず子「日本は大きく変わりますよ。人々は

 絶望し、悲観的し、経済も滞るでしょう」

雁「お前は本物なんだな。本物の」

すず子「残念です。アリ人たちを導き、真の

心の故郷に連れていかねばならないのに」

   雁、その場にうずくまる。

 

○東京拘置所・刑務官控え室(朝)

   雁、カレンダーを新しくしている。

   カレンダーは『2011年5月』。

   雁、スマホを取り出し、メールを見る。

   占いのメルマガを見て、ほっとする。

雁「さそり座は仕事運いいのか」

   木原が部屋に入ってくる。

木原「さっき、聞いたんだが、今日、五藤すず子の死刑が決行される。……俺とお前、

 死刑決行人だそうだ」

雁「え……俺?」

木原「最悪だよ。気分悪いな。こればかりは

 何年働いていてもしたくねえわ」

   

○同・前室

   読経の声が響いている。

   すず子に目隠しの布を巻こうとする雁。

   すず子、雁の手をぎゅっと掴む。

すず子「諸岡先生、あなたが私を殺します」

   雁、目を見開き、固まる。

すず子「あなたの押すボタンで私は死にます」

   雁、手に持っている布を落とす。

   木原、雁に駈け寄る。

木原「五藤、無駄口を叩くな」

すず子「あなたは私を殺しませんね」

   木原、雁の蒼白な顔を見る。

 

○同・ボタン室

   年配の刑務官、木原、雁が、死刑決行のためのボタンを目の前に立っている。

   

○同・執行室  

   踏み板中央に立たたされ、縄を首にかけられているすず子。

○同・ボタン室

   壁の時計を気にしている所長。

   雁、自分を抱きかかえるようにして身体の震えを抑えている。

木原「しっかりしろ、3人でボタンを押す」

雁「違う……俺、俺が五藤を殺す!」

   所長が近づいてきて、雁の肩を叩く。

所長「誰だってそう思うんだ。心を静めろ」

   雁、首を横に振っている。

 

○同・執行室

   絞首され、ぶら下がったままの五藤。

   雁がフラフラと近づいていく。

雁「お前は悪人だったのか、それとも本当の救世主だったのか。俺の弟はあんたのおかげで死なずに済んだ」

   雁、頭を手で押さえてうずくまる。

五藤(声)「あなたに私の死を預けます。そして、私の力も。世の中を正しい方向に導くのも悪しき力に染めるのも、あなた次第です」

   雁、顔をあげる。

   五藤の身体が一瞬はねる。

   雁、目から涙を流しながら頷く。

 

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20枚シナリオ『古傷』

「ダウト・アウト・ダディ」

 

             

★人物

荒谷 直弥(33)(20) 美容師

藤ヶ谷 香澄(33)(20)直弥の元彼

荒谷 いずみ(39)直弥の妻

 

○渋谷・クラブ(深夜)

   大音量の音楽が流れる中、男女が激し

   く踊り狂っている。荒谷直弥(33)

   はカウンターに腰掛け、テキーラを一  

   気に飲み干す。

   藤ヶ谷香澄(33)がカウンターにや

   ってくる。荒谷の横顔をチラッと見る

   と、香澄は慌てた様子で去る。荒谷、

   振り返って、香澄の後ろ姿を見る。

 

○レディースクリニック・外観

   荒谷がドアから出てきて、遅れて、ハ

   ンカチで目を押さえている荒谷いずみ

   (39)が出てくる。いずみの目元は

   赤く腫れている。

荒谷「……もう、やめようか。俺、いずみが

 これ以上苦しむのを見たくない」

いずみ「今まで頑張ってきたのに? 父親

 なりたくないの?」

荒谷「そんなことないけど……こうやって言

 い争いになるくらいなら、俺は」

いずみ「私のせい? 私がこんな年上じゃな

 くて、普通の身体だったら、直弥は苦しま

 なかったよね」

荒谷「だから、俺はいずみのことが心配で」

いずみ「嘘つき! 現実から逃げてるだけじ

 ゃん。あなたが種無しだったら? 検査く

 らいしてよ!」

   荒谷、もっていたいずみの鞄をいずみ

   に押し付けると、去る。いずみ、荒谷

   の後ろ姿をぼーっと見つめる。

 

○渋谷・クラブ(深夜)

   肩でリズムを取って踊っている荒谷。

   露出した服を着た若い女が声をかける。

女「お兄さん、3万でいいよ」

荒谷「は?」

女「相手探してるんじゃないの? 私、ピル

 飲んでるから、色々面倒もないしさ」

荒谷「うるさい、消えろ」

   直弥、女の腕を振り払う。

女「何よ」

   女、荒谷の脛を蹴って、去る。荒谷、

   うっと屈み、脛をさすっている。

   ピンヒールの赤い靴が目の前に見える。

香澄「あなた、大丈夫?」

   顔を上げて、荒谷、驚いた顔。香澄、

   はっとして去ろうとするが、荒谷が、

   香澄の腕を掴む。

荒谷「逃げんなよ」

   香澄、ゆっくりと振り返る。

香澄「……久しぶり、やね」

 

○居酒屋(深夜)

   カウンター席で並んで酒を飲んでいる

   荒谷と香澄。香澄、赤い顔。

香澄「へえ、姉さん女房かー……意外やわ」

荒谷「お前はどうなん?」

香澄「結婚してる女がクラブで踊りまくって

 たら、それはどうなん?」

荒谷「そんなん言ったら、俺アウトやん」

香澄「男の人は仕事の付き合いとか言うて、

 ほんまは遊んでたりするんやろ?」

荒谷「その言い草、お前、バツついてんな」

香澄「バツ3、子供5人」

荒谷「え?!」

香澄「アホ。傷一つない綺麗な身体やわ」

荒谷「(まじめな顔で)それはちゃうやろ」

香澄「(まじめな顔で)……あんたが言うな」

荒谷「俺のせい、やったな」

   香澄、ワインをぐいっと飲み干し、そ

   して、机につっぷす。

荒谷「大丈夫か? タクシー呼ぼうか」

香澄「まだ、全然酔ってへんで?」

   香澄、目を開け、笑う。

 

○路上・タクシー・車内~車外(深夜)

   香澄がタクシーの後部座席でうとうと

   している。隣に乗り込む荒谷。

荒谷「(運転手に)笹塚まで」

香澄「(はっきりした声で)あ、降ります」

   香澄、荒谷の腕をとり、車外へ。

   タクシー、去っていく。   

荒谷「(呆れて)何考えとんねん」

香澄「私達さ、あんなことがなかったら、付

 き合ってたよね……結婚してたかも」

荒谷「そんな、たらればの話されても」

香澄「……たらればに、せえへんかったらえ

 えやん」

   香澄、荒谷に近づくと、唇を激しく吸

   う。荒谷、驚き、香澄の身体を引き離

   す。香澄は構わず荒谷の首に手を巻き

   つけ、再び荒谷に口付ける。荒谷も、

   香澄の腰に手を回し、それに応える。

 

○ラブホテル・部屋の中(深夜)

   ベッドの上、裸の荒谷と香澄が肩を並

   べて仰向けに横たわっている。

香澄「私ね……」

荒谷「何?」

香澄「何でもない」

荒谷「言いや」

香澄「ほんまはな……産みたかった。怖かっ

 たから、逃げたけど、直弥の子供、欲しか

 った」

荒谷「すまんかった」

香澄「昔の話や、もう……何なら、今から作

 る?」

   荒谷、香澄の上に覆いかぶさる。

 

○マンション・荒谷家・リビング(朝)

   ソファの前で膝を抱えて座っているい

   ずみ。うとうとしている。

   テーブルの上の携帯電話に手を伸ばし

   て、荒谷に再び電話をかける。

   いずみ、応答がないが、そのまま携帯

   電話を耳にあてて、ぼーっとする。

 

○渋谷・美容院・内

   15席ほど椅子があり、すべて客で埋

   まっており、スタッフが忙しなく動い

   ている中、客の髪をカットしている荒

   谷。いずみがドアを開けて入ってくる。

スタッフ(女)「いずみさん、今日予約入ってましたか?」

いずみ「(近づき)あなた? 直弥に手を出してるのは?」

   直弥が気がつき、顔をあげる。

スタッフ(女)「店長、いずみさんが……」

   荒谷、駆け寄ってきて、いずみの腕を

   取り、自分に引き寄せる。

荒谷「(スタッフたちに)ちょっと、悪い、

 外出てくる」

   荒谷といずみが店の外へ。

   スタッフたち、顔を見合わせる。

 

○渋谷・路上

   木陰で立って向かい合っている荒谷と

   いずみ。いずみ、俯いている。

荒谷「……悪かった。連絡もしないで……

 昨日はちょっと帰りたくなかったから」

いずみ「やっぱり年下の若い女の子のほうがいいんでしょ。どの子と浮気してるの?」

荒谷「(遮って)いい加減にしろ。職場に波風立てるとか、最低だぞ」

いずみ「ご、ごめんなさい。でも、私は赤ちゃんが欲しいの。幸せな家庭にしたいの。それだけなの!!」

   いずみ、持っている鞄で荒谷の胸元を

   殴り、そして、肩を下げて帰っていく。

   

○渋谷・美容院・内(夜)

   スタッフの女が花束を持って笑ってい

   る。スタッフたち、荒谷がそれを囲ん

   で拍手をしている。

スタッフ(男)「元気な赤ちゃん産めよ」

スタッフ(女)「ありがとう」

   荒谷、スタッフの膨らんだ腹を見る。

 

○路上(夜)

   携帯電話を耳にあてながら歩いている

   荒谷。

荒谷「……香澄、会いたい」

香澄(声)「私も。今から、来て」

荒谷「今から? 分かった」

   荒谷、きびすを返して駅に向かおうと

   する。角を曲がると、いずみが立って

   いる。

   いずみ、空ろな目で荒谷を見つめ、そ

   して笑う。

いずみ「行けば? 行きなさいよ」

荒谷「つけてたのか?」

いずみ「でも、私、絶対別れないからね。私

 はあなたの赤ちゃんを絶対産む。幸せにな

 るの……絶対」

荒谷「もう、やめてくれよ……俺は種なしな

 んかじゃない……それに種馬でもない」

いずみ「あ、あれは言い過ぎたけど、で

 も、夫婦の大切な問題に向き合ってくれて

 ないから」

荒谷「……そうだな、でも、俺は、子供の父

 親にはなれそうにないよ。ごめん」

   いずみ、その場に泣き崩れる。

   荒谷はいずみの横を歩いていく。

荒谷「もう、面倒なことはこりごりだ」

 

○渋谷区役所・外

   荒谷といずみが出てくる。

いずみ「じゃ」

荒谷「今までありがとう」

   いずみ、去っていく。

 

○渋谷・カフェ

   お腹のふくれた香澄が幸せそうに腹を

   触っている。

香澄「もうすぐ、パパが来るからね」

   カフェの外から香澄を見ている荒谷。

荒谷「……これで良かったのか?」

   香澄、荒谷に気がつき、手を振る。

   荒谷、ぎこちなく笑顔を浮かべる。

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コンクール

最近、少しだけ、コンクールの通過率が高まった




シナセンのS1グランプリでは、三次通過できた、一年ぶり




はじめて挑戦したヤンシナで一次通過。



テレ朝、TBS、NHKと、大きめコンクールで一次通過したことなくて




すごく嬉しかった



ラジオドラマはおおむね一次通過できるけど、母数の問題なのだと思う



コンクールの相性はあるのかな?



2015/1から、シナセン通信をはじめて、


今は通信の研修科中期にさしかかっている


年内には研修科は卒業できそう



課題をかくペースが早いから、これくらいは誰にでもやろうと思えばやれるのだろう



ライターズバンクに登録する、という目標は先月達成できた




シナリオコンクールでの賞を三年以内にとりたい



とる。




強い意思をもって

継続的な努力をして

励ましあえる前向きな仲間をみつける



しか、夢をおいかけて、

夢を叶える方法はないのかな?



Twitter で絡んでいるシナリオ関係のひとのつぶやきにはいつも鼓舞されて、たまに凹んで




この夢は、わたしの人生ではじめて、本気で手にしたいとおもえたことだから




大事にしたいな

20枚シナリオ『ヒモ』

 

台詞なしのシナリオです。。

 

『痩せても枯れても』

 

★人物

本郷 岳史(33)(38)役者崩れのヒモ

行平 佑香(45)岳史の寄生相手

有栖川 セリヤ(35)岳史のヒモ友

佐藤 保(43)(48)劇団『流星』演出家

綾野 ヒカリ(35)劇団『流星』俳優

ハローワーク職員

 

○マンション・佑香の部屋・ベランダ(朝)

寝癖のまま、パジャマ姿で、タバコを吸っている本郷岳史(38)。

ベランダの下には、黒いスーツ姿のサラリーマンや学生たちがそれぞれの行くべき場所に向かう姿。

彼らを憐れむように見ながら、『ゲゲゲの鬼太郎』の歌の1番を何気なく口ずさむ本郷。

 

○同・リビング(朝)

  台所に立ち、フンフンと歌う本郷。

  コンロの火をつけ、ポットで湯を沸か

す本郷の手元。

  チェストの上には、写真立て。

写真には、微笑んでいる本郷、その隣には、本郷に寄り添う行平佑香(45)。

オーディオでクラシックをかける本郷。

本郷、ゆっくりと伸びをした後、テーブルの上のマグカップを手に取り、コーヒーをゆっくり飲む。

テーブルの上のスマホの画面が光る。

本郷は面倒臭そうにスマホを手に取り、メッセージを確認する。

『おはよう!もう職場に着いてるよ、今日のお夕飯は餃子にしようかな☆じゃあ、また後で』

  看護師姿でピースサインをしている佑香の写メ付き。

  無表情のまま、本郷は返信する。

  『おはよう、佑香姫。帰ってくるまで大人しくお留守番しているワン』

  ふうと小さい溜息をつきながら、スマホをテーブルに置く本郷。

 

○ウインズ銀座・売店前

ベンチに腰掛け、手持ち無沙汰にしている本郷。  

  金髪の長髪シャツの胸元をだらしなく

開けている有栖川セリヤ(35)が現

れ、本郷に手を振る。

有栖川はニヤっと手に持っている馬券を本郷に見せつける。

 

○(回想)劇団『流星』・稽古場

  ジャージ姿の本郷(33)と、数人の

役者たちが芝居の稽古をしている。

  髭面の佐藤保(43)が手を叩くと、

  役者たちが佐藤の元に走っていく。

  数人の役者は本郷を見て、不満げな顔

をしている。

 

○(回想)劇団『流星』・稽古場・外

  タバコを吸っている照明スタッフたち。

  本郷が稽古場から出てくると、顔を見

合わせて、稽古場に戻っていく。   

  本郷、溜息をつく。

 

○佑香の部屋・寝室(夜)

   ベッドで眠る本郷と佑香。

  本郷は目を開けて、佑香の髪の毛を触

って、頬にキスする。

  佑香、目を開けて、本郷をじっと見て、

本郷の手をゆっくりどける。

  佑香、本郷に背を向ける。そして、目

を開けたまま、何か考え事をしている。

  本郷、顔を手のひらでこすり、口をと

がらせている。

 

○劇団『流星』・稽古場・外

パーカーを被り、サングラスをかけた本郷が、ウロウロとしている。

稽古場から役者たちが数人喋りながら出てくる。

本郷、慌てて、その場から去る。

 

○線路沿い・坂道(夜)

サングラスを外しながら、坂道を上っている本郷。

肩を落として、溜息をついている。

 

○渋谷・カフェ(夕方)

  テラス席で、長い脚を組んで、サング

ラスをかけている綾野ヒカリ(35)。

  周りの席の女子大生たちがこそこそ言い合いながら、綾野を見ている。

  店に入ってきて、かっこつけている綾野を見て、苦笑いをする本郷。

  綾野、本郷に気が付き、手を挙げる。

 

○佑香の部屋・リビング(夕方)

  ダイニングテーブルに向かって、子宮頸がんの検査結果の紙を見ている佑香。

  紙をぐしゃっと手でつぶし、そして、壁に向かって投げつける。

  佑香、その場に崩れ落ちて、泣く。

 

○渋谷・カフェ(夕方)

   一人席に座っている本郷、残りわずかなコーヒーを飲み切る。 

  テーブルの上には、劇団『流星』の公

演情報のビラ。

  綾野の顔と、隣に主演俳優の文字。

  本郷、深い溜息をつく。

 

○佑香の部屋・リビング(夜)

ダイニングテーブルに向かい合って座っている本郷と佑香。

佑香、検査結果の紙をすっと本郷に

  差し出す。

  本郷、顔をあげて、びっくりした顔。

  佑香、首を横に振って、そして、頭を

下げる。

 

○佑香の部屋・ベランダ(夜)

  月を見上げている佑香。

  扉をノックする音が、佑香、振り返る。

 

○佑香の部屋・玄関(夜)

本郷、肩に、大きな黒いリュックサックをかけて立っている。

佑香、下を向いて立っている。

  本郷、佑香に深々と頭をさげると、ド

アを開けて、出ていく。

  佑香、嗚咽を堪えきれず涙する。   

 

○公園(真夜中)

   外は強い雨が降っており、土が跳ね返る。

象の滑り台の中で雨宿りする本郷、体操座りをして肩を震わせている。

 

ハローワーク・窓口

  眼鏡をかけた、真面目そうな職員、そして、その前でうなだれている本郷。

  職員は重い溜息をつき、首を横に振る。

  本郷の手元にある紙には、「未経験歓迎

   35歳以下募集」と書いてある。

   本郷は、職員に頭をさげて、その場から立ち去る。   

 

○劇団『流星』・稽古場

   佐藤(48)の前で、本郷は土下座している。

   顔を見合わせている役者たち。

   綾野は腰に手をあてて、ふっと笑う。

 

○マンション・廊下・佑香の部屋の前

   佑香の部屋のドアノブに小さな紙袋がかけられている。

   

○線路沿い・坂道

   明るい顔で坂を上っている本郷。

   腕時計を見て、慌ててかけあがる。

 

○駅前・コンビニ(夜)

   カウンターの中で接客している本郷。

   有栖川が若い女を連れて、店に入ってくる。

   本郷、笑顔で有栖川を見るが、有栖川は見て見ぬふり。

   本郷、業務用笑顔に切り替えて、棚からタバコの箱を取り、有栖川に手渡す。

 

○小劇場・外

   劇場の外にチラホラと出ていく客。

   生け垣に座り、劇場を見上げる佑香。

   佑香、劇団のチラシを手に持っている。

 

○小さなアパート・本郷の部屋(夜)

   家具のほとんどない部屋に、薄っぺらい布団が敷いてある。

   段ボールの上にヤカン。

   カップラーメンをすすっている本郷。

   チャイムの音、本郷、顔をあげる。

 

○同・同(夜)

   小さな机の前に座っている佑香。

   本郷は冷蔵庫から缶ジュースを持ってきて佑香にそのまま差し出す。

   飲まずに下を向いている佑香。

   本郷、襖を開け、薄い封筒を取り出し、

   佑香に差し出す。

   受け取り、中身を検める佑香、目を見張る。

   封筒の中には一万円札が十枚と、『健康祈願』と刺繍されたお守り。

   佑香、取り出したお守りを胸に抱き、泣き崩れる。

   本郷、佑香の肩を優しく抱く。

 

○病院・廊下

   本郷、長椅子に座って、手を揉みながら、そわそわとしている。

   手術室には『手術中』の文字が赤く点滅している。

 

○佑香の部屋・リビング

   チェストの上に、佑香と本郷の映っている写真立ての隣に、劇場の前で笑う佑香と本郷の写真立てが飾られている。

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短編シナリオ『アイムテッペンワズ』

『アイムテッペンワズ』

 

★人物表

花村 翠(17)(38)観光推進課のウェブ担当

藤間 文彦(33)観光推進課のウェブ担当

フレッド・ヨハンセン(42)カメラマン

浅田 雛子(25)観光推進課・事務

佐伯 陽平(57)観光推進課・課長

板倉 弘毅(55)雑誌の編集長

花村 泰介(40)翠の父(回想)

 

河口湖・湖畔

   白いワンピース姿の花村翠(38)が湖のほとりで屈み込んでいる。翠、湖に映る自分の顔をじっと見つめ、水面を指先で、ぴしゃんと叩く。水面に映る翠の美しい顔が歪んで消える。

×  ×  ×

湖畔を歩いている翠。

ベビーカーを押す母親と、その横を歩く父親の姿が、翠の目の前にある。その家族から目を逸らす翠。

河口湖の水面が、キラキラ光っている。

タイトル『アイム・テッペン・ワズ』

 

富士河口湖町役場・4階・エレベーター前

   大きなリュックサックを背負ったフレッド・ヨハンセン(42)がきょろきょろしている。

佐伯(声)「えー、このたび、ホームページ

リニューアルの実施にあたり…」

 

○同・同・観光推進課・会議室 

佐伯陽平(57)がホワイトボードの前に立っている。

佐伯「当プロジェクト長を花村さんにお願い

したいと思います」

  翠、ばっと顔をあげる。

翠「わ、私ですか?」

佐伯「サポートは藤間君にお願いしようかな」

  藤間文彦(33)が、顔をあげる。

藤間「…分かりました」

佐伯「花村さんに一任するから、よろしく」

   浅田雛子(25)が手をあげる。

雛子「また翠さんですか?…私もそろそろ」

佐伯「君はまだ経験不足だろ」

   雛子、露骨にふてくれる。

   翠、ちらっと藤間を見る。

 

○(回想)翠の自宅・ダイニング(夜)

   顔にパックを張り付けた翠が、口を開けて立っている。

   テーブルに座って、翠を静かな目で見ている藤間。

翠「な…なんで急にそんな話になるのよ」

藤間「…俺とじゃ釣り合わない…そう思って

いるんじゃないか?」

翠「…まさか」

藤間「翠は綺麗で、仕事もできて。俺はいつ

までも翠のサポートばかり。自分が小さい男だって思うよ?でも、正直しんどいんだ」

翠「…それは私の方が長く働いているからで

…文君がうちに所属されてからずっと頑張っているの、私、ちゃんと分かってるよ?」

藤間「じゃあ、俺が今、翠にプロポーズした

ら、OKする?」

   翠の瞳が揺れ動く。

翠「…それは」

   藤間、静かに溜息をつく。

藤間「ほら見ろよ。俺なんて、そんなもんな

んだよ…5年も一緒にいたのに」

翠「ち、違う…結婚ってすごく大事なことだ

から、すぐには決められないだけ」

藤間「…もういいって」

藤間「…翠には、また、すぐに新しい人が見

つかるよ」

   翠、藤間に近寄り、じっと藤間を見る。

翠「…本気なの?出ていくの?」

藤間「一か月以内には」

翠「…自分勝手すぎる」

藤間「もう決めたんだ」

   翠の顔から、パックが落ちて、足もとに落ちる。

   

富士河口湖町役場・4階・観光推進課

   雛子、愛想笑いを顔中に浮かべている。

雛子「ぱ、パードン?」  

   フレッド、深い溜息をつく。

   佐伯がフレッドと雛子の姿を見つけ、翠に声をかける。

佐伯「花村さん、外国の方。対応よろしく」

  翠、顔をあげる。

  雛子は、佐伯そして翠を睨む。

 

○同・同・同・会議室

   大笑いをしているフレッドと呆れた顔の翠。

翠「若いスタッフを苛めないでください」

フレッド「ソーリー。しかし、ここで、あな

たに会えるとは」

翠は怪訝そうな顔をしている。

フレッド「ウェブページで見ました、あなた

のこと。ミス・富士山、グランプリ」

  翠は顔を赤くする。

翠「何年も前のものですから…!」

フレッド「一目で分かりました。何で恥ずか

しい?グランプリ、すごいことです」

翠「…恥ずかしいじゃないですか…もう、こ

んな年なのに」

フレッド「日本人は、年齢を重ねてこそ磨か

れる美しさを評価していないように思います。…何を卑屈に思うことがありますか」

翠「…卑屈」

   フレッドは、ジャケットの胸ポケットから名刺を取り出し、翠に手渡す。

フレッド「ウェブページの素材の撮影を任さ

れました。よろしくお願いします」

翠「え、カメラマン?」

フレッド「カメラマンが首からカメラを提げ

ていないとおかしいと言った顔ですね…普段は東京なんですが、こちらには1か月間ほど滞在させていただきます。ミス・富士山、よろしくお願いします」

翠「…東京から…わざわざ…」

フレッド「ミス富士山、そういえば週末は空

いていますか。私と富士山に登りませんか。当然、登ったことありますよね」

翠「…えっと、ありません」

フレッド「ワオ」

翠「というか、地元の人間に限って地元の観

光地に行かないものでしょ」

フレッド「あ、フレッドで」

翠「…フレッドさんだって、そうでしょう」

  フレッド、じっと考え込む。

フレッド「OK。じゃあ、とりあえず、登り

ましょう。職場の方で、行ける方がいたらぜひ誘っておいてください」

翠「え、決行?!」

 

○レストラン『ラ ルーチェ』・外

   藤間が、店の入り口で、腕時計を見ながら、立っている。

   エナメルのパンプスが、藤間の視界に入る。

   藤間が顔をあげて、不器用に笑う。

 

○スポーツショップ(夕方)

   登山コーナーで、レザーブーツを手に取り、繁々と眺めている翠。

   フレッドが後ろから話しかける。

フレッド「そんな高いブーツを買うんです

か、こだわりますね」

翠「え?!どうしてここに」

フレッド「…ミス富士山、嘘つきましたね。

ここ、町内で一番、上級者向きのグッズが置いてある店らしいじゃないですか」

翠「…正確には、登ったことはあるけど、途

中でリタイアしたので…私の中では、なかったことにしているんです」

   翠はブーツを棚に戻して、別の商品を手に取る。

フレッド「なるほど…あ、それなら、私がい

 くつか持っているのでお貸ししましょう」

翠「…ありがとうございます」

   翠が戻したブーツを見つめているのを見て、フレッドがつぶやく。

フレッド「『目の前の山に登りたまえ。山は君

の全ての疑問に答えてくれるだろう』」

翠「え?」

フレッド「知っていますか?ラインホルト・

メスナー、イタリアの登山家の」

翠「…あ…いえ…知りません」

フレッド「富士山に登れば、きっと分かりま

す。あなたの悩んでいる答えは…きっと」

翠「…どうして」

フレッド「失礼ながら、ミス富士山、あなた

は何か悩みを抱えている。そして自分自身で余計こんがらがったものにしている…そんな気がしまして」

翠「人間観察がお得意で」

フレッド「カメラマンですから…心のレンズ

で、人の内面まで覗き込もうとしているのかもしれませんね」

 

○(回想)富士山・八合目

   斜面に座って息を激しく吸って吐いてを繰り返している翠(17)。

   背中からザックをおろして、一枚の写真を取り出す翠。

   写真に写っているのは、富士山をバックにして、目尻に皺を寄せて笑っている花村泰介(40)。

泰介(声)「山はいいぞぉ…翠も大きくなっ

たら父さんと登ろうな。山には人生の全て

があるんだ。辛いことも嬉しいことも全部飲み込んで、…ただ美しい」

   翠の目から、涙が写真の上に落ちる。

翠「…山になんか登らなきゃ…お父さんは…」

 

富士河口湖町役場・4階・観光推進課(夕

方)

   職員たちが各々帰り支度をしている。

藤間が立ち上がる。

藤間「…お疲れ様でした」

   雛子、ちらっと藤間を振り返り、そして申し訳なさそうに翠を見る。

雛子「翠さん、ヨハンセンさんと二人きりに

なっちゃいましたね…みんな用事だなんて」

翠「雛ちゃん、前、土日は暇が多いって…」

雛子「ごめんなさい、お疲れ様でーす」

   雛子はオフィスを出ていく。

 

○同・同・エレベーター内(夕方)

   藤間が奥のほうに立っている。

   雛子が乗り込み、にこっと笑う。

   革靴とエナメルの靴が横に揃う。

   エレベーターのドアが閉まる。

 

○富士山・富士宮表口五合目(深夜)

   翠とフレッドが辺りを見渡している。

フレッド「もう少し上級者コースを周りたい

んですが、ブランクがあるのであれば…。

さあ、行きましょう、ミス富士山」

翠「…申し訳ありません。…フレッドさん、

私、いつまでミス富士山って呼ばれないといけないんですか?!」

フレッド「そうですよね…一緒に朝日を見る

仲なんですしね。翠さん」

翠「…仕方なく、ですけど…って名前かよ」

フレッド「さあ、行きますか」

   翠、心配そうな顔をしながら頷く。

 

○富士山・表口・新六合目(深夜)

   額の汗をタオルで拭う翠。

翠「…意外に…いけるかも…久々でも」

フレッド「…ここから、きつくなるので、気

を引き締めて。体調に違和感があれば、早めに言うこと、オーライ?」

翠「オーライ」

   フレッドがにこっと笑い、翠も笑う。

 

○翠・藤間の住むアパート・寝室(深夜)

   布団の上で白いシーツにくるまっている藤間と雛子。

   藤間の後ろから雛子が抱きつく。

雛子「…ねえ、なんでそっぽ向いてるの」

藤間「…俺、こんなつもりじゃ…」

雛子「今さらね」

藤間「…いや…なんていうか…まだ、俺と翠、

ちゃんと別れてないし…このうち、二人で

住んでいるわけだし。雛子ちゃんも彼氏いるんでしょ」

雛子「それが何?私、まだ若いし、遊んでい

たいの。藤間さんが望まないなら、今日だけの関係でいいよ」

   雛子、起き上がり、鞄を漁り、タバコの箱を取り出す。

藤間「…うち、禁煙なんだけど」

雛子「あ、そっか、バレちゃダメだもんね」

   雛子は藤間のTシャツを手に取り、頭から被ると、部屋を出ていく。

   藤間、枕に顔をうずめる。

 

○富士山・表口・七合目~八合目(明け方)

   岩場に苦戦しながら登っている翠。

   フレッドが振り返る。

フレッド「翠さん、大丈夫?」

翠「…なんとか…」

フレッド「山小屋まであともう少し…前を見

て、歩幅は狭く、分かった?」

翠「うん…ありがとう」

   フレッド、額から流れる汗を手の甲で拭い、富士山を見上げる。

 

○(回想)赤坂・雑誌社『あけぼの』・内

大量の雑誌が積み重ねられたデスク。雑誌の間から、気難しい顔をした板倉弘毅(55)が顔を覗かせる。

板倉「全くもって、駄目だな」

   フレッド、肩を落とす。

フレッド「今回も…ですか」

板倉「海外で賞を獲っていて、それ?って感

じ。全然パンチないんだもん」

フレッド「…パンチ…」

板倉「も~、そういうの、ニュアンスで汲み

取ってほしいわけ」

フレッド「日本の美しさを私なりに…」

板倉「そうゆうアートなのは、求めてないか

ら、うちは。綺麗なだけじゃね。新しくないとね」

   板倉に写真の入ったファイルを突き出され、フレッドは黙ってそれを受け取ると、オフィスを出ていく。

 

○富士山・表口・八合目~九合目(明け方)

   斜面に座り込んで、息を激しく吸って吐いている翠。

フレッドは斜面を見下している。

フレッド「…神はどうして挫折を与えるので

しょう。死に向かって生きていることに何

の意味があるのでしょう」

翠「…独り言?」

フレッド「…山に聞きました」

翠「…どうして、私は結婚していないんだろ

う。外見を磨いても、若さという武器には勝てないのに、どうして、そこにしがみ続けてしまうの」

フレッド「…山に聞いていますか?」

翠「…独り言」

   二人はぷっと吹き出す。

翠「5年も同棲していたし、いつか結婚しよ

うって言われるかな、なんて思っていた彼にいきなり別れようって言われて。心のどこかで、彼でいいのかなって思っていたのが、どうやら見透かされていたみたい」

フレッド「彼の真意を、あなたは理解したの

ですか?」

翠「彼にとって、私は最後の女じゃなかった

…それだけのことでしょう」

フレッド「翠さんにとって…結婚って?」

翠「…私ね、中学生の時に…父が、登山が趣

味の父が、仲間と一緒に遭難して、冷たくなった姿で発見されて。ずっと大好きな人が一緒にいてくれるわけじゃない…人間は結局、孤独に死んでいくのよ…それが真理なの。…だから、結婚に夢なんてない」

フレッド「…藤間さんは、あなたの父とはま

た、別の人です」

翠「え?どうして…知ってるの」

フレッド「翠さん、あなたはもっと素直にな

らないといけない。きっと後悔します」

翠「…フレッドさんはどうなの?」

フレッド「私は半人前だから。大事な人は作

らない…苦労することになりますから」

翠「…そんなの決めつけだよ。フレッドさん

と一緒にいたい…そう思ったら、その人はどんな生活だって…幸せなはずよ」

フレッド「…ありがとう。嬉しいです」

翠「…行きましょうか」

 

○翠・藤間の住むアパート・玄関・内(明け

方)

   藤間の頬に平手打ちをかます雛子。

藤間「…スッキリした?」

雛子「…翠さんも…藤間さんも大嫌い」

   雛子はドアを開けて出ていく。

   藤間は深い溜息をつく。

 

○富士山・山頂(日の出)

   日の出を見ている翠とフレッド。

   翠の目から涙がこぼれる。

フレッド「…綺麗なものを見るだけで、人は

涙を流すことができる…すごいことだ」

翠「ここでしか見られない景色だね。テレビ

で見るよりずっと…惨めったらしくて…私みたい…」

フレッド「…翠さん、神社に行きましょうか」

翠「…あ、撮影はいいの?」

フレッド「…翠さんを撮っていいの?」

翠「違うよ、日の出!」

フレッド「…今の綺麗な翠を撮りたいです」

   翠の瞳が揺れ動く。

翠「…シルエットだけなら」

   フレッドはリュックからカメラを取り出し、何枚も写真を撮る。

   翠は振り返る、フレッドはファインダーから目を外す。

翠「…使えそうなのは、撮れた?」

フレッド「今の翠、目に、心に焼きついた」

翠「…何それ…」

   翠はもう一度、朝日を見つめる。。

 

○富士山・富士宮表口五合目(朝)

   翠とフレッドがゆっくり下山してくる。

   フレッド、翠に手を差し出す。翠はフレッドの手を握り返す。

フレッド「一緒に登れて嬉しかった」

翠「…私も。ありがとう、フレッド」

 

山梨県立富士北麓駐車場・車内(朝)

   藤間が運転席で眠っているが、車の窓がノックされる音で目覚める。

   窓の外に翠、その後ろにフレッドが立っている。

 

山梨県立富士北麓駐車場(朝)

   気まずそうに立っている藤間と翠。

   フレッドは二人の背中をどんと押して、

   近づけさせる。

フレッド「また、二人で登るといいです。ね、

翠さん、あの景色を彼と見たいでしょ」

翠「…フレッド…」

藤間「…ごめん、急に来たりして…俺…」

   翠、藤間の車の助手席に乗り込む。

   藤間はフレッドに頭を下げて運転席に乗り込む。

 

○同・走行中の車内(朝)

   藤間が運転し、翠は助手席に座っている。

藤間「…家に帰ろう」

翠「…もう私たちの家じゃなくなるんでしょ」

藤間「…それは…」

翠「期待させなくていいよ」

 

○翠・藤間の住むアパート・台所

   翠、鼻をくんくんとさせている。ゴミ箱の蓋を開けると、タバコの吸い柄が数本、先端には口紅がついている。

   翠、じっとそれを見つめる。

 

富士河口湖町役場・4階・観光推進課・会

議室(夜)

   フレッドと翠が、テーブルの上の写真を見ている。

   雛子がコーヒーを持ってくる。

雛子「ヨハンセンさん、もうすぐ東京に戻っ

ちゃうんですよね?」

フレッド「順調にいけば、その予定です」

雛子「じゃ、今晩飲みに行きましょうよ」

フレッド「いいですよ、翠は?」

翠「…私はもう少し…二人で先に行ってて」

   雛子、フレッドの腕を取り、出ていく。

   フレッド、翠を心配そうに見る。

 

富士河口湖町役場・エレベーター内(夜)

   フレッドの背中に抱きつく雛子。

雛子「東京に帰らないで…寂しい」

  フレッド、雛子の手を取り、振り返る。

フレッド「…すいませんが…私は女の人に興

味がないものですから」

   雛子、鼻白む。

雛子「…なんだ、翠さん狙いかと思ったのに」フレッド「…やっぱり」

雛子「え?」

フレッド「雛子さんの狙いは…翠を貶めるこ

と…職場で自分より仕事を振られる翠のことがあなたは気に食わないだけなのでは?彼女を妬んで…それで」

雛子「そんな浅い感情じゃないわよ…翠さん

とは…あの人はミス富士山以外にも、陸上で県内トップだった…私は…どんなに頑張っても翠さんの記録を越えられなかった…勝てるのは若さだけよ」

フレッド「…藤間が初めてではない?翠に好

意を寄せる相手を奪ってきたのは」

雛子「よく気が付いたわね…悪い?私が勝て

る、唯一の若さって武器で勝負したのよ」

フレッド「…翠は…あなたのこと、目にかけ

て…上司にも仕事を振るように頼んでいますよ…気づいていますよね。翠はあなたを思って行動している…それに、素直に、翠さんが羨ましいって言えばいい…そしたら、幸せが歩いてやってきますよ」

   エレベーターが1階に到着する。

フレッド「ごめんなさい、やはり戻ります」

   雛子は俯いている。

 

富士河口湖町役場・4階・観光推進課・会

議室(夜)

  フレッドが部屋に戻って来る。

  翠は机に伏せて、居眠りをしている。

  フレッドは翠の頭に手を置く。

   ×  ×   × 

   翠が目を開けると、斜め前の席に藤間が座っている。

藤間「大丈夫?貧血で倒れたって…ヨハンセ

ンさんが電話してきてさ」

翠「…わざわざ来てくれたの?」

藤間「…あの人、翠狙いじゃないの?」

翠「彼、同性愛者なんだって」

藤間「…へえ」

翠「私とフレッドが富士山に居る頃…あなた

がしていたこと…私、知ってるの…でも

ね、責められない…私があなたに失礼な気持ちで付き合っていたのに、あなたはちゃんと向かい合おうとしてくれていた…仕事で挫けそうな時、サポートしてくれた…私、もう逃げないから…あなたとずっと一緒に」

藤間「…何もかもお見通しってわけか。俺に

自信がないのも知っていて…それで将来のことなんて一度も口にしなかったんだよな。…俺は…翠から逃げたんだ。裏切ったこと、水に流さなくていいよ。俺の最後の我儘だ…けじめをつけさせてくれ。頼む」

翠「…そっか…分かった」

   藤間、翠に手を差し出す。

藤間「今までありがとう。さようなら」

   

○翠・藤間のアパート・和室(夜)

   窓際で揺れている風鈴。

   畳の上で横になっている翠。 

   翠の目から涙が伝い落ちていく。

   「どーん」と大きな音が響いて、花火が上がっているのが窓の外に見える。

 

○京都・清水寺

   清水寺の舞台から、赤や黄色に染まった木々が見える。

   フレッド、首から提げたカメラを手にとり、写真を撮っている。

   ×  ×  ×

   フレッドは鞄から携帯電話を取り出し、電話をかける。

フレッド「久しぶり…元気にしてた?」

 

河口湖・湖畔

   フレッドと翠が肩を並べて歩いている。

   フレッドはカメラを首から下げ、時折、

   ファインダーを覗いては、写真を撮っている。

フレッド「ミス富士山のページ無くなったね」

翠「ミス富士山のコンクールがもう無いのに、

ずっと残しているのは、おかしかったから」

フレッド「…少し、残念です…私、あの翠の

笑った顔、大好きでした」

翠「あ、でも、観光推進課の皆の紹介ページ、

良くなっていたと思わない?」

フレッド「そうだね…彼、藤間は辞めたんだ

ね…あと、雛子さんも」

翠「彼が辞めて、雛ちゃんも、いつの間に。

二人とも、元気にしているといいな…」

  湖畔のほうを見つめる翠。

  フレッド、翠の写真を撮る。

  翠、少しフレッドを責めるように見る

が、そのまま写真を撮らせる。

  フレッド、何回かシャッターを押して、

そして、翠に笑いかける。

フレッド「…翠、身体から余計なものが落ち

て、前より綺麗になった気がする」

翠「…そう?寂しい女になっていない?」

フレッド「心なしか…身体が引き締まったよ

うな…何か、運動していますか」

翠「…実はね、ボルダリングはじめたの。暇

つぶしのはずがね、思いの他、ハマってる」

フレッド「なるほどね~」

翠「汗をかくのが気持ち良くて」

   フレッドと翠は、そのまま湖の周りを歩いていく。

 

○東京・某ボルタリング競技場・外

   『5年後』

   人ごみの間をすり抜けるように、カメラを持ったフレッドが歩いていく。

 

○同・同

   岩をしっかりと手で掴んで、天井を見上げている翠。

   翠の額からは、汗が垂れていく。

   翠が右手を斜め上に伸ばして、視線が横にそれた瞬間、翠は会場の人ごみの中に、フレッドの姿を見つける。

   フレッドは黙ってカメラのファインダーを覗き、翠の姿を写真におさめる。

   翠は視線を戻し、左足を岩にかけ、ぐいっと身体を上に動かす。

翠のモノローグ『ミス富士山のグランプリを

獲った時の高揚感とは違った、満ち足りた

充実感を、私は富士山の頂上で感じた。私

は今、無心で岩を掴み、上へ上へと登って

いく。空に憧れたイカロスとまではいかな

くても…私はまたテッペンに行きたい…』

  フレッド、カメラをおろし、翠の姿を

眩しそうに見つめる。

 

○同・同・外

   生け垣に座っている翠に、フレッドがコーヒーの缶を差し出す。

翠「いつ帰国したの?」

フレッド「1週間前。忙しくて連絡できなか

ったんだ。会いたかったけど」

翠「そっか。忙しいのにありがとう。あれか

らフレッド売れっ子になっちゃったからね」

フレッド「久々に連絡したのはね…実は近々

引っ越すんだ、翠の町に」

翠「え?」

フレッド「いつでも富士山を見上げられる、

素敵な町で、義理の弟と写真スタジオを開くことになって。子供たちにカメラの撮り方を教える講座も開く予定です」

翠「そうなんだ!素敵ね」

フレッド「…これ、そこの宣伝に使ってい

い?」

   フレッドはカメラをいじり、ボルダリングをしている翠の写真を翠に見せる。

翠「汗だらけ、メイクもしていない…そんな

私のすっぴんの写真を?」

フレッド「てっぺんを無心で目指す翠は、美

しかった。やはり、ミス富士山は違う」

   翠、前を向いて、はにかんで笑う。

翠「…ありがとう」

   フレッド、翠の笑顔を見て、前を向く。

フレッド「眩しくて…ファインダー越しじゃ

ないと見られないな」

翠「え?」

フレッド「…また、翠のこと、撮りに行って

もいいかな?」

翠「…もちろん。フレッドがいなければ、私

は富士山に登ることはなかった…あの素晴らしい経験を…ありがとう」

フレッド「こちらこそ」

   翠、フレッド、顔を見合わせて笑う。

 

富士河口湖町・フレッドの写真スタジオ

   木のぬくもり溢れるスタジオ。

   教室の一室から、子供の笑い声と、フレッドの快活な声が聞こえる。

   スタジオの壁に、翠のボルダリング中の写真が飾られている。

   写真のタイトル『グランプリ・イズ』

      ~完~