20枚シナリオ『別れの一瞬』
北海道をよく舞台にするのですが旅行で2度いったきりです。
熊本は好きな俳優さんの出身地で勝手に愛しています。
いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう、の影響を感じまくる作品です。。。
これが書き終わったのでようやく大好きな職業シリーズ、「記者」はすぐに思い浮かびましたーー♪書くのが楽しみです。。。
『旅は道連れ』
★人物
坂井ユメ(33)ОL
深田涼介(23)引越し屋
白浜昇(38)深田の先輩
○北海道・旭川市・街角
片方だけ真っ赤な頬を手で押さえなが
ら歩く坂井ユメ(33)。涙目である。
○同・同・ユメの部屋(夜)
パンダの顔が印刷された段ボールに服を詰めている。ふと手を止めて、
ユメ「この服、りょーちんがうちに初めて泊まった日の服……あの時は良かったな」
ユメ、クローゼットから男物の服を取り出して、ゴミ袋に捨てる。
ユメ「人生に無駄なもんはないって、おばあちゃんは言ってたけど、しなくてもいい恋
愛をして、ユメは疲れ果てました……」
ユメ、床に寝転がって、目をつぶる。
○マンション下・路上(朝)
パンダの顔が印刷された引越し屋のトラックが停まる。
白い帽子を目深に被った深田涼介(23)と白浜昇(38)がトラックから
降りる。
白浜「単身だからさっと終わらせような」
深田「奥さんのお産近いですもんね」
白浜「気が気でなくてな」
○ユメの部屋(朝)
荷造りが終わっていない部屋の真ん中で、眠るユメ。ピンポーンとチャイム
が鳴り、跳ね起きる。
ユメ「え?! パンダはやっ」
ユメ、近くの化粧ポーチを引き寄せ、急いで化粧をして、髪の毛を整える。
ユメ「引越し屋さんとはいえ、私もアラサー、すっぴんを晒すなんて生き恥じは」
ピンポーンとチャイムが再び鳴る。
○マンション下・道(朝)
段ボールを抱えた白浜と深田がマンションの階段から降りてくる。
深田「何なんすかね、あの化粧の濃いオバさん。全然荷造り終わってないし」
白浜「こりゃ、予定がかなりズレそうだな」
深田、忌々しそうにマンションを見上げる。白浜のズボンの携帯電話が鳴る。
深田「あ、俺、これ一人で持てますよ」
白浜、手を離して、電話に出る。
白浜「な、何だって?!」
○ユメの部屋(朝)
黙々と段ボールに皿を詰めているユメ。深田も違う段ボールに荷物を詰めるの
を手伝っている。
ユメ「ほ、本当にすいません。遅くなって」
○マンション下
引越し屋の車に乗り込む深田。ユメ、
頭を下げる。
ユメ「色々ありがとうございました」
深田、帽子をとって黙って頭を下げる。
ユメ「って、あれ? あれれ」
ユメは持っている小さな鞄の中を漁り、
絶望的な顔。
ユメ「(おずおずと)このトラック、今日中に熊本まで走りますか?」
深田「そうっすけど」
ユメ「あ、あの、乗せてってください?!」
深田「はあ?!」
○高速道路・トラック・車内
黙々と運転する深田。ユメ、深田をちらちらっと見る。
ユメ「あの、上司の人、怒ってました?」
深田「言ってないっす」
ユメ「え?」
深田「一緒に来てた白浜さんが奥さんの出産に立ち会うために抜け出したのも黙ってる
から、もういっかって思って」
ユメ「奥さん……出産……」
深田「本当はダメっすよ。でも、まあ、航空券なくしたんじゃ……熊本まで遠いしね」
ユメ「お兄さんはどこの人なの?」
深田「埼玉」
ユメ「へえ、都会なんだ」
深田「(吹き出して)いいっすね、その反応。てゆうか、お客さん、熊本出身?」
ユメ「全然」
深田「え? 仕事で転勤とか?」
ユメ「仕事はやめた。熊本に一人移り住んで、温泉で住み込みの仕事始めるんだ」
深田「……へえ」
ユメ「え、ここ食いつくとこだよ?」
深田「勘だけど、何か、重い話になりそうだから」
ユメ「良い勘の持ち主だね、若いのに」
ユメ、トラックの窓から外を見つめる。
深田、ちらっとユメを見る。
× × ×
ユメ、うとうとしていて目を開ける。
深田「結構寝ましたね」
ユメ「意外とトラックって乗り心地いいですね。トラックドライブもありだな」
深田「変ってよく言われませんか?」
ユメ「ひどっ。まあ、ちょっとだけ変わってるって言われるけど、あっ!」
深田「いきなり何ですか」
ユメ「トイレ、トイレに行かないと」
深田「次のSAまでもう少しあるっす」
ユメ「き、きてる、あと少し……」
深田「ちょ、ちょっとね、そう言うことは女の人の口から聞きたくないっす」
ユメ「もう半分女は捨てるから、ちょっと、
半分は残しておきたいけど」
深田「……また重い話になりそうなので聞きません」
ユメ「徹底してるな……」
ユメ、ぎゅっと集中して便意を抑える。
○東名高速・SA(夕方)
ベンチに座って、ソフトクリームを食べているユメ。缶コーヒーを買ってき
た深田はじっと眺めている。ユメは深田を振り返ってみて、
ユメ「どうして妻は浮気をした夫じゃなくて、相手の女を一方的に責めるんだろうね」
深田「……それは一般論ですか、それとも、お姉さんの経験から?」
ユメ「もう終わったからいいんだけどね」
立ち上がったユメに深田は向かい合う。
深田「不倫、してたんすか」
ユメ「もう終わったの」
深田「で、逃げるように引っ越すんすか」
ユメ「……引越し屋の分際で踏み込みすぎじゃない?」
深田「聞いて欲しそうな顔をしてるのは、そっちだから!」
深田とユメはしばらく見つめあい、吹き出す。
○高速道路・トラック・車内(夜)
道が渋滞しており車内は静かな雰囲気。
ユメ「うちのおばあちゃんがね、人生に無駄なものは何もないって言ってたんだけど」
深田「うん」
ユメ「あと何年か経ったら、こんなダメな恋をしていたことも良い経験になったって思
えるのかな? 逃げるように熊本に行くことも、正しかったって」
深田「お姉さん何歳?」
ユメ「(茶目っ気たっぷりに)17」
深田「(スルー)俺、23なんだよ。だから、相談相手間違ってると思う」
ユメ「はいはい、もう言いませんよ」
深田「でもさ、旅は友連れって言うでしょ」
ユメ「『旅は道連れ、世は情け』ね。 旅をするときに道連れがいると心強いように、世
の中を渡っていくには人情をもって仲良くやっていくのが大切って意味よ」
深田「それそれ。熊本まであと少しだけどさ、俺、結構今楽しいから」
ユメ「何よ、それ」
深田「おばあちゃんはきっと正しいよ」
深田、ユメににこっと笑ってみせる。ユメもつられて笑う。
○熊本県・郊外・路上(夜)
暗い夜道を走るトラック。
○トラック・車内(夜)
深田「もう少しで着くから。いつもはむさくるしいおじさんと一緒だから、今回はちょ
っとだけ華やかで楽しかったな」
ユメ「お世辞でもありがと」
深田「別に、嘘はつかないけど」
ユメ、深田を見て、そして、下を向く。
ユメ「で、深田さんって下の名前、何て言うの? せっかくだから教えてよ」
深田「涼介だけど?」
ユメ「リョウスケ?! 漢字は?」
深田「涼しいに、介護の介」
ユメ「そ……そっか」
深田「なんだよ、人の名前にケチつけて」
ユメ「元彼もリョウスケだったから。あ、でも漢字が違った」
深田「……嬉しくない偶然!」
ユメ「だ、ね!」
○熊本・郊外・旅館前(夜)
トラックが停まり、ユメが降りる。ユメ、運転席の深田を見上げる。
ユメ「人生に無駄はない、そう信じて私、心機一転頑張るから」
深田「……ユメさん、幸せになってね」
ユメ「どうして下の名前……あ、書いてあるか……ありがとう、色々と」
深田、微笑し、トラックを走らせる。
ユメ、トラックに向かって大きく手を振る。目には少し涙が浮かぶ。
ユメ「ありがとう~リョウスケって名前が嫌いにならなくて済んだよ!!」