シナリオ☆おひとり雑技団

過去のシナリオ置き場です。無断転載はお断りしています。感想などはどんどん受付けています。

20枚シナリオ 『不安』

 『リミット』

                   

 

☆人物

坂本 譲次(38)商社リーマン

西河 ミナ(28)坂本の愛人

坂本 良子(36)坂本の本妻

坂本 陸人(16)坂本の息子

佐藤 理香(40)坂本の愛人

佐藤 あや(6)坂本の娘

 

○3階建ての一軒家・坂本の家・玄関(朝)

   高級そうなスーツに身を包んだ坂本譲 

   次(38)が大きなキャリーケースを

   手に持ち、ドアを開ける。白いエプロ

   ン姿で、ばっちりメイクをした坂本良

   子(36)が笑顔で坂本を見送る。

   

○同・坂本の家・外観(朝)

   サングラスをかけた西河ミナ(28)

   がスマホ片手に坂本の家を見ている。

 

○古びたアパート・理香の家・外観

   キャリーケースを持って階段を上がっ

   ている坂本。

   金髪ロングヘアですっぴんの佐藤理香

   (40)がドアを開け、坂本を見て、

   笑顔で出迎える。

理香「お帰り、譲次!」

 

○理香の部屋・居間

   坂本、理香、佐藤あや(6)が、小さ

   な卓袱台の前に座って、素麺を啜る。

あや「パパ、お土産は? あや、お人形さん

 がいい」

坂本「お土産か、忙しくて今回は買ってこれ

 なくてごめんな」

理香「あや、ええ加減にしい。久々にパパに

 会えたのに、モノねだるなんてあかん」

坂本「いいんだよ。寂しかったか?」

   壁にかけられている坂本のスーツのジ

   ャケットでスマホが鳴る。

坂本「またか。インドの新しい工場長が使え 

 なくてね。ちょっと電話に出ていいか」

   理香が頷くのを見て、坂本、立ち上が

   り、ジャケットからスマホを取り出し、

   玄関から出て行く。

 

 

○コンビニ・内

   印刷機の前に立っているミナ。

   スマホを耳にあてている。

ミナ「話したいことがあって。うん、急にご

 めんね。明日? いやよ。今晩時間作って。

 お願い」

   ミナ、印刷機から写真を取り出す。

ミナ「ありがとう。じゃあ、後でね」

   

○シティホテル・705号室(夜)

   浴室から出てくる坂本。

   下着姿のミナはベッドから立ち上がり、

ミナ「フランス、ミナも行ってみたい」

   ミナ、坂本の首に手をまきつけ、口づ

   ける。坂本もそれに応え、2人はベッ

   ドに倒れこむ。

坂本「観光するにはいいけど、仕事だから」

ミナ「落ち着いたら旅行に連れていって」

坂本「とりあえず、抱かせろよ」

   ミナ、坂本からすり抜けるようにして

   ベッドからおりる。テーブルの上の自

   分の鞄を手に取り、写真を取り出す。  

坂本「それ、何」

   ミナ、写真をちらつかせて笑う。

ミナ「バツイチ子なし、って嘘じゃない?」

   坂本、青ざめて固まっている。

坂本「……俺のこと尾けたのか?」

ミナ「あなたが既婚者だって知ってたら、三

 年も付き合わなかった。結婚してくれるっ

 て言ったじゃない」

坂本「聞いてくれ。妻との間には愛はない。

 言えなかったのは君を愛しているからで。

 君とのことは、ちゃんとするから」

ミナ「ちゃんと? ねえ、私だけなの? こ

 んな風に何人も騙してるんじゃないの?」

   坂本、ミナに近づき、抱きしめる。

坂本「違うよ。ミナが一番だし」

   ミナ、坂本の体をおしのけて、

ミナ「あなたが嘘つきだって、その証拠をR

 宛に送ったわ」

坂本「R? 」

ミナ「証拠って何だと思う? あと、ネット

 の掲示板にも、あなたのこと晒しておい

 た。まあ、Rがそこに辿りつかないことを

 祈ってるわ。じゃ」

   ミナ、手早く身支度をし始める。

   坂本、ベッドにへたりと座りこむ。

 

○坂本の家・リビング(夜)

   ソファでプロ野球の試合を観ている坂

   本陸人(16)。家の電話が鳴り、

   渋々電話に出る陸人。

陸人「坂本です」

坂本の声「父さんだ。おい、母さんは」

陸人「え、風呂だけど」

坂本の声「そうか。何か変わったことはない

 か? 郵便物とか、そういうので」

陸人「何、いきなり。忙しいから切るよ」

   陸人、電話を切る。

   リビングに良子が入ってくる。

良子「電話?」

陸人「父さん」

良子「あら、珍しいわね。何て?」

陸人「さあ」

   

○スーパー

   レジの中で、商品のバーコードを読み

   とっている理香。

理香「合わせて、3450円になります」

ミナ「はあい」

   ミナ、理香をじろじろと見ている。

理香「あの、何か?」

ミナ「いえ。あの、つわりに効く食べ物、知 

 りませんか? って、いきなり聞いてすい 

 ません」

理香「おめでたですか。おめでとうございま

 す。私はすっぱいものとか口にしてました

 けど」

ミナ「じゃ、買いなおしてこよっかな。私、

 旦那が出張ばかりで、お産も一人になりそ 

 うで。いろいろ不安で、つい」

理香「それは心配ですね。お大事に」

   理香、去っていくミナの後ろ姿を首を

   傾げて見ている。

 

○理香の部屋・寝室(夜)

   理香とあやが一緒に寝ている。

   襖の隙間から見ている坂本。

 

○同・居間(夜)

   テーブルの上に広げられた郵便物。

   頭を抱えている坂本。

坂本「くそ、いつだ……」

   

○坂本家・リビング(夜)

   ピザの箱を3つ手に持った良子が部屋

   に入ってくる。困り顔で、ため息。

   ソファに座っている陸人、顔をあげて、

陸人「どしたの、それ」

良子「届いたのよ。でも、お母さん注文なん

 かしてないのよ」

陸人「嫌がらせだよ。母さん、どっかで恨み

 買うようなことしたんじゃ」

良子「そんなことしてないわよ。嫌ね」

陸人「それか、父さんか」

良子「お父さんはそんな人じゃありません」

陸人「仕方ないな。俺、食うわ」

   ピザの箱を良子から取り上げ、陸人は

   嬉しそうに食べ始める。良子、ため息。

 

○道(夜)

   キャリーケースをひいて歩いている坂

   本。耳にあてていたスマホを離す。

   スマホから『この電話番号は現在使わ

   れておりません』とアナウンス。

坂本「くっそ」

   目の前に坂本の家が見える。

 

○坂本の家・リビング(夜)

   机の上の、ピザの空き箱を見つめる坂 

   本。良子、頬に手をあててため息。

良子「初めてだわ、こんな嫌がらせ。あなた、

 心当たりある?」

坂本「いや……まあ、間違いだろう」

良子「これで無言電話とかまで来たら、本当

 に誰かがうちに嫌がらせで」

坂本「大丈夫だろう。気にしすぎだ」

良子「でも、どうして急に帰国したの?」

坂本「部下がヘマしたから埋め合わせだよ」

   陸人、振り返って坂本を見ている。

 

○理香の部屋・玄関(夕方)

   坂本が疲れた顔でドアを開ける。

   理香、かけよって、

理香「お帰り」

坂本「お客さん?」

理香「あ、そう。うちのスーパーのお客さん

 が倒れちゃって。妊婦さんで心配やから、

 とりあえずうちに」

坂本「人がよすぎるだろ、大丈夫か?」

   ミナがを手で押さえて姿を現す。

ミナ「旦那様ですか? すいません、お邪魔

 してしまって」

坂本「(ぎこちなく)いえ、大丈夫ですか」

ミナ「奥様がお優しくて、ご好意に甘えてし

 まいまして」

理香「困ったときはお互い様ですよ」

   坂本の胸ポケットでスマホが鳴る。

   坂本、慌てて、スマホを取り出す。

   着信は自宅から。坂本、出ない。

ミナ「旦那様、出なくてもいいんですか?」

   電話が切れ、今度は陸人からの電話。

理香「あ、西河さん、お茶入れましたから」

   理香、ミナを連れて居間に戻る。

   坂本、スマホを持って、玄関を出る。

 

○アパート・理香の部屋の外

   坂本、スマホで電話している。

陸人の声「父さん、家に早く帰ってきて!」

   坂本、理香の部屋を振り返る。

坂本「い、いま、と、取り込んでいて」

陸人の声「俺たちとそっち、どっち取るんだ

 よ。母さんが……」

2016年シナリオコンクール(メモ)

今のところ公開されているシナリオコンクールの一覧です。

メモ代わりですが、コンクーラーの方はご参照ください^^

(シナリオs1グランプリが以下追加されます。あと、テレ朝、京都アニメ、TBS連ドラあたりも秋に開催されると思います)

私は去年一通りだしました。。。

結果はまだ出ていないので、今年もがんばります♪

 

■第41回創作テレビドラマ大賞

〆切 平成28年6月30日(木)(当日消印有効)

第41回創作テレビドラマ大賞募集要項new!! - 日本放送作家協会

 

■シナリオ・センター大阪校創立40周年記念 20枚シナリオコンクール

〆切 平成 28 年 7 月 16 日(土曜日)18 時までに必着

http://scenario-center.com/wordpress/wp-content/uploads/2016/02/199a24ca175f1603db5e7e713818960f.pdf

 

■第2回NLTコメディ新人戯曲賞

〆切 2016年7月31日(当日消印有効)

http://compe.japandesign.ne.jp/nlt-newwritersaward-2016/

劇団NLT

 

■第42回『城戸賞』

〆切 平成28年8月31日(水)16時必着厳守

一般社団法人日本映画製作者連盟

 

■第10回WOWOWシナリオ大賞 

〆切 2016年9月30日(当日消印有効)

WOWOWシナリオ大賞|WOWOWオンライン

 

■第26回(2016年度)新人シナリオコンクール

〆切 2016年9月1日~末日(当日消印有効) 

新人シナリオコンクール・大伴昌司賞 募集要項|一般社団法人シナリオ作家協会

 

■平成27年度(第31回) NHK名古屋放送局 創作ラジオドラマ

〆切 平成27年11月30日(月) 当日消印有効

NHK 名古屋放送局|名古屋局情報|募集・キャンペーン

20枚シナリオ『誘惑』

「ふくよかな欲望」

 

☆人物

佐倉 奈々枝(26)主婦
佐倉 文弥(24)奈々枝の夫
海原 あい(20)ジムのインストラクター
中年男1
中年男2

 

○会員制のジム
   佐倉奈々枝(26)の二重顎がぷにぷにと揺れている。
   ランニングマシーンでふくよかな身体をゆすりながら走っている奈々枝。
   スタイルの良い身体が強調されるようなウェア姿の海原あい(20)が笑顔
   で近づいてくる。
あい「佐倉さん、きつかったら速度を緩めましょう。息吸ってくださいね」
   奈々枝、あいのくびれた腰をちらっと見る。

 

○佐倉家・台所(夜)
   冷蔵庫に貼られている紙に、『デブは一瞬で作られる』と書かれている。食器棚

   の上に『開封厳禁』と書かれた箱。
   奈々枝、コンロに小鍋を置き、糸こんにゃくを煮始める。
   奈々枝のお腹がぐうと鳴る。恨めしげに食器棚の上の箱を見上げる奈々枝。
   ピンポーンとチャイムの音。
   
○佐倉家・リビング~台所
   机の上に開封された段ボール箱。
   中にポテトチップスの袋(大)が4つ。
   机の上の紙に『公正な抽選の結果、新製品のキャンペーンに当選しました』。
   奈々枝、袋を持ち、振ってみて、その音を愛おしげに聞く。そして、はっと

   して、段ボールを持って、台所に行く。

   食器棚の上の段ボールを取ると、床に置き、開ける奈々枝。
   中に大量のお菓子が入っている。
   奈々枝、ポテトチップスの袋を中に入れていく。小さなチョコ菓子を手
   に取り、裏の表示を見て、固まる。

   奈々枝、立ち上がり、小鍋のこんにゃくを能面の顔ですすり始める。

 

○佐倉家・寝室(夜)
   スーツ姿の佐倉文弥(24)が寝室のドアを開ける。文弥、痩せている。
文弥「ななちゃん、起きてたん?」
   ベッドの上の奈々枝、起き上がり、
奈々枝「眠れやんくて……」
文弥「お腹空いてて、やろ。無理しないで食べたらいいやん」
   文弥、奈々枝の隣に腰かけ、奈々枝を抱き寄せる。  
文弥「ななちゃんのフワフワな感じ、俺好き」
奈々枝「(膨れて)フワフワって言わんで」
文弥「幸せなフワフワやんか」

 

○(回想)ジム
   奈々枝がランニングマシーンで走っている。

   ジムの入り口に文弥が現れて、奈々枝に手を振る。奈々枝も気が付く。

   あいが文弥に気が付き、奈々枝と見比べて、文弥に近づいていく。

   文弥はスマホをあいに手渡している。

   ランニングマシーンの近くにいた中年の男2人が、あいと文弥を見ている。
男1「あれ、海原さんの彼氏やんな」
男2「あれくらいスタイル良くなれば、俺も相手してもらえるんかな」
男1「腹じゃなくて顔がダメやろ」
   奈々枝、文弥とあいが楽しそうに話しているのを走りながら見ている。

 

○元の佐倉家・寝室(夜)
   文弥の腕に抱かれている奈々枝。
奈々枝「ふみ君、私、絶対に痩せて綺麗になるでな」
文弥「俺は今のななちゃんが好きやに」
   奈々枝、首を横に振る。

 

○道
   青い空にゆっくりと雲が流れている。

 

○車内
   運転している文弥と助手席の奈々枝。
文弥「遠出は久々で、嬉しいわぁ」
奈々枝「でも、どこに向かってるん?」
文弥「え? 秘密やで」
   奈々枝、嬉しそうに笑い、前を向く。

 

○伊賀・『もくもくファーム』・駐車場
   車の中を覗きこんでいる文弥。
文弥「着いたで、行こ」
   助手席に座って頑なに動こうとしない奈々枝、恨めしそうに文弥を見て、
奈々枝「ここ、牧場的な、そういう……美味しそうな豚とかが食べられる……」
文弥「子豚のショー見た後で、食べられるかって話やけど、絶対美味しいで」
   奈々枝、首を横に振り続ける。


○伊賀・もくもくファーム・BBQ場
   灰色の煙が空に消えていく。
   奈々枝、網の上の豚肉の塊をじっと見つめている。
   文弥、焼いた豚肉の塊を奈々枝にトングで持って、差し出す。
文弥「我慢してて、しんどいやろ。食べや」
奈々枝「この1か月間……私が肉とお菓子を一切取らんで、ジムに週5も通って痩せよ

 うってしてるのに。無神経すぎる」
文弥「え……でも、最近元気ないから、元気になって欲しくて、俺なりに考えて」
奈々枝「分かるよ? 分かるけど、綺麗になりたいんよ。こんな……こんなんじゃ、

 釣り合わないんよ。ふみ君とお似合いじゃないんよ!!」
文弥「よお分からんけど、我慢してイライラしてるからって、俺に当らんでよ」
   文弥、トングを乱暴に机に置いて、席を立つ。


○車内(夕方)
     不機嫌そうに運転する文弥。   
     窓の景色を見て、文弥を見る奈々枝。
奈々枝「こっちの道、文弥の実家に行く道やん。急にどうしたん」
文弥「ちょっとね」

 

○文弥の実家・外観(夜)
   田舎道の中にぽつんとある古びた家。

 

○同・文弥の部屋(夜)
   文弥がクローゼットの上を漁っている。文弥が中学の卒業アルバムを手に取り、

   ベッドに座っている奈々枝のところへ持っていく。
奈々枝「(手に取り)これ、ふみ君の?」
文弥「この中……俺、どれだと思う?」
   1クラス分の生徒が並んでいる集合
   写真を覗きこむ奈々枝と文弥。
奈々枝「(すぐに指さして)これ?」
文弥「違う」
奈々枝「(悩んで)……これ?」
文弥「ぶーー」
奈々枝「いないやん、別のクラスやろ」
   文弥、クラスで一番太っている男子生徒の上に指先を持っていく。
文弥「いるやん、ここに」
   奈々枝、顔を上げ、文弥と見比べる。
奈々枝「嘘や」
文弥「嘘やないもん。これ、俺やし」
奈々枝「え……でも」
文弥「めっちゃ俺太ってたんよ。で、高校生ん時、バスケやってたら、背も伸びて
 痩せたけど……意外だった?」

奈々枝「痩せるには運動が必要ってこと?」
   文弥、奈々枝の肩を優しく手で持ち、
文弥「違う。俺さ、コンプレックスがめっちゃあって。初めてななちゃんに会った日の

 こと、覚えてる?バイキングで皿にいっぱい料理載せて。美味しい、美味しいって笑

 顔で食べてるん、めっちゃ可愛かったんよ。俺が悩んでたんバカみたいやなって思っ

 たもん」
奈々枝「で、でも、本当は……あいさんみたいなスタイルの良い子のほうが」
文弥「俺、そんなこと一言も言ってない」
奈々枝「でも」
文弥「うるさい。ななちゃんが痩せて綺麗になりたいって言うのは止めないけど、俺、

 今のななちゃんが大好きやで」
   奈々枝、泣き笑いで頷く。文弥と奈々枝、抱き合う。

 

○ジム
   奈々枝、ランニングマシーンで走っている。奈々枝、顔がしゅっとして

   いる。
   奈々枝のもとへ、あいが近づいてくる。明らかに太っている。
あい「この調子で頑張って下さいね」
   近くにいる中年男2人がぼそぼそと話している。
男1「どうして急にあんなに太ったんや」
男2「海原さん、恋愛する相手に合わせて体型変えるくらいストイックなんちゃう」
   
○ジム・休憩室
   文弥、スマホをいじっている。
   あいが近づいてきて、にこっと笑う。
   文弥、あいの顔と身体を見回して、
文弥「雰囲気変わりました?」
あい「最近食欲がすごくって」
文弥「いっぱい食べる女子可愛いです」
   あい、文弥のスマホを奪い、電話をかける。
あい「いつでも連絡してください」
   文弥、去っていくあいの尻を見ている。
   休憩室に入ってくる奈々枝、あいを振り返って見て、文弥を訝しげに見る。

   文弥、スマホをさっと隠す。

 

20枚シナリオ『おせっかい』

『熱烈歓迎! 宵町ハイツ』

★人物
櫻田 温美(45)101号室の住人・大家
雪路 大典(22)102号室の住人
中山 ミサ(26)201号室の住人
原 二朗(80)202号室の住人
岡本 知美(34)301号室の住人
岡本 龍成(8)301号室の住人・知美の息子
黒井 康太(31)ミサの働く店の客 

○宵町ハイツ・外観(朝)
   3階建ての古いアパート。アパートの外壁に、「宵町ハイツ」と書かれた木の板

   が張り付けられている。

 

○宵町ハイツの前・道
   赤や黄色の落ち葉を箒で掃く温美。
   道を掃除し終わり、満足そうな顔。

 

○宵町ハイツ・1階(朝)
   掃除道具入れに箒をしまっている温美。
   金色の長い髪を無造作に後ろでくくった、派手な格好をした中山ミサ(26)

   が、温美の横を通り過ぎようとする。
温美「お帰り!」
ミサ「(一応頭をさげる)…」
温美「顔色悪いわよ。飲み過ぎたの?」
ミサ「…別に」
温美「女は25歳過ぎたらひたすら下り坂。若いと思って油断したら駄目よ。後で、

 しじみの味噌汁持っていこうかしら」
ミサ「…あ、いいです」
淳美「あなたのために言ってるのに。親切は受け取らないと」
   ミサ、黙って階段を上がっていく。
温美「(微笑み)…相変わらず、照れ屋ね」

 

○宵町ハイツ・101号室・内(朝)
   机に、和食の朝ごはんが並んでいる。
   机の前の温美、手を合わせる。
温美「(微笑み)いただきます」
   箪笥の上に、中年の夫婦の写真立てと、その前には細い煙を吐いている線香。
   壁に、『一日一禅』と書かれた紙が貼られている。
温美「(微笑み)後で、雪路君に、カレーうどんでも、差し入れますかね…」
  
○同・102号室・内

   カーテンが閉められ、真っ暗な部屋。
   机の電気スタンドの光が、机に向かっている雪路大典(22)を照らす。
   何やらブツブツ言いながら、ノートに殴り書きをしている雪路。
雪路「…死のう…今年…もう後がない…」
   ノックの音。雪路は顔をあげる。
   ×  ×  ×
   雪路は丼を持って、机に戻り、丼のラップを取る。眼鏡が白く曇る。
雪路「…ふふふふふ」
   雪路は一心不乱にカレーうどんをすすって、幸せそうにしている。

 

○同・301号室・玄関・内外(夜)
   玄関の前で、数個のタッパーを持って立っている温美。
   うんざりとした顔の岡本知美(34)が、少しだけドアを開ける。
   頬がこけており、バサバサの髪の毛を後ろで一つくくりにしている。
知美「…要らないって言いましたけど」
温美「(微笑み)新鮮なお野菜がたくさんあってね、私、一人じゃ食べきれないし。育

 ちざかりの龍成君にあげてちょうだい」
知美「…子供に何を食べさせようと、うちの勝手です。口出さないでください」
温美「でも、龍成君、最近学校に行ってないみたいじゃない…せめて、美味しいものを

 食べて元気を」
知美「(遮って)仕事が忙しくて、スーパーの惣菜になることだってありますけど…

 母親ですし、ちゃんと考えてます!」

   温美、知美の胸にタッパーをおしつける。
温美「(微笑んで)来週も来るわね」
   知美、胸の中のタッパーを見下す。

 

○宵町ハイツ・階段(2階~1階)(夜)
   階段を降りている温美、202号のドアの鍵を開けている、原二朗
   (80)に気づき、声をかける。
温美「こんばんは、原さん」
   原はちらりと温美を振り返って見るが、
   黙って部屋の中に入っていく。
  
○宵町ハイツ・101号室・内(夜)
   豆電球が灯る部屋で、ベッドの上で仰向けに寝ている温美。天井を見ている。
温美「…ありがとうなんて言われなくても、人の役に立てることをする…それが私の
 使命…きっと、いつか分かってもらえる」

 

○宵町ハイツの前・道(深夜)
   暗闇の中、電柱の後ろから、じっと宵町ハイツを見ている黒い人影。

 

○宵町ハイツ・101号室・玄関・外(朝)
雪路「…これ、ありがとうございました」
   雪路、丼を温美に手渡す。
温美「いいのよ。今年こそ頑張って!」
雪路「(途端に暗くなり)あ、はい」
温美「今日は豚キムチ持っていくわね」
雪路「…でも、毎日、悪いです…はい」
温美「人に喜ばれることをすることが、私の幸せなの」
雪路「…助かりますけど…あの…僕以外の人が必ずしも喜んでいるかは…はい」
温美「(驚いて)え?どういうこと」
雪路「…あ、こういった好意を良く思わない人もいるという一般論です…はい」
   雪路は困り顔で頭の後ろをかく。

 

○宵町ハイツ・202号室・玄関外(夕方)
   岡本龍成(8)がこっそり出てきて、ドアを閉める。
温美「また、碁、習いに行ってたの?」
   龍成はばっと振り返り、温美を見て睨みつける。
龍成「…このこと、母さんに言ってない?」
温美「…言ってないけど、でも、学校に行かないで、原さんのところに通い詰めている

 こと、ちゃんと話すべきよ」
龍成「『エリートになるための勉強』以外は何でも禁止だから。…野球だって…」
温美「話し合えばいいのよ、親子なんだし」
龍成「簡単に言うなよ…」
温美「…ご飯はちゃんと食べてる?」
龍成「ほうれん草の和え物…美味しかった」
   龍成は温美の横を走って通り過ぎ、階段を駆け上がっていく。
   外で若い男女の言い争う声がする。
   温美は慌てて階段を降りていく。

 

○宵町ハイツ前・道(夕方)
   黒井康太(31)が嫌がるミサの腕を引っ張って連れて行こうとしている。
ミサ「やめて!警察呼ぶから」
黒井「てめえ。散々貢がせておいて。お前こそ詐欺罪で捕まるぞ」
ミサ「本気にするほうがバカなのよ」
黒井「何だと?!」
   箒を持った温美が道に飛び出してくる。
温美「こらーーー」
   驚くものの、更に威勢強く叫ぶ黒井。
黒井「なんだ、くそババア!」
   温美は黒井に勢いよく箒を振り下ろす。
   黒井はにやりと笑って、箒を手で掴むと、箒ごと温美を道に倒す。
   温美、背中を強く打ち、ううっと呻く。
   ミサ、温美に駈け寄ろうとするが、黒井に更に強く髪の毛を引っ張られる。
ミサ「離して!」
温美「(顔をあげて)自分より弱いものに暴力を振るってはいけないわ」
黒井「こいつは俺の心を傷つけたんだ。同じ分だけ傷つけたっていいだろ!」
   温美、再び立ち上がろうとする。
   温美の前に、原が飛び出してくる。
黒井「何だよ、何だよ。老人は黙ってろ」
   原は小刀をさっと取り出し、黒井に向ける。
原「…ただのジジイなら良かったがな…」
   原の目は常人のものではなく、黒井は青ざめて、ミサから手を離して、
   逃げていく。
ミサ「ありがとう…えっと、原さん…」
   ミサ、頭を下げる。
   温美、ゆっくり立ち上がって原を見る。
温美「原さん…どうして…」
原「…お隣さんを助けて何が悪い」
   温美、笑顔になって、首を横に振る。
温美「悪くない!ありがとう!!」
   原、ふっと笑って、宵町ハイツへ。
   温美、ミサに近づき、髪の毛を撫でる。
温美「…こういう日は暖かいお風呂に入りなさい。…自分を責めないこと」
ミサ「…自業自得だよ…迷惑かけたね」
温美「世話焼きおばさんと、世話焼きおじいちゃんに助けられたわね」
   ミサと温美、笑いあう。

○宵町ハイツ・101号室・内(朝)
   チャイムの音。温美は立ち上がる。

○同・同・玄関・内外(朝)
   空のタッパーを持った知美、ランドセルを背負った龍成が立っている。
知美「…あの…ちゃんと作れるように頑張るので…もう大丈夫です…」
温美「…そう。でも大変だったらいつでも言ってね」
   知美、深く頭を下げる。
龍成「…原さんがね、お節介だけどって、野球のこと、母さんに話してくれたの…」
温美「(嬉しそうに)原さんったら…私の出る幕がなくなるわねえ」
龍成「だね。じゃ、いってきます」
   知美、龍成、笑顔で出かけていく。
   温美、笑顔で手を振って二人を見送る。
温美「…さあて…今日も一日頑張りますか」
   温美、静かに微笑み、ドアを閉める。

20枚シナリオ『一年間』

『それが生きるってもんだ』

 

☆人物

岡本 玄介(68)末期がんの経営者

岡本 唄介(33)岡本の一人息子

岡本 冴枝(60)岡本の妻

巻島 正二(42)岡本の主治医

灰島 道夫(55)金融屋の社長

 

○××総合病院の前の道路

   銀杏並木が黄色く色づいている。

 

○××総合病院・消化器科の診察室

   岡本玄介(68)と妻の冴枝(60)、消化器科の医者、

   巻島正二(42)が向かい合って座っている。

   岡本はうなだれて首を下げている。

巻島「…膵臓がんは発見されにくい癌でして、進行が進んだ段階で医者にかかられる患者さんが多いんです…とても残念ですが…」

   岡本はゆっくり顔をあげる。

岡本「…末期ってことは…あと、何か月持つんですかね」 

  冴枝、はっとして、巻島に詰め寄る。

冴枝「せ、先生、化学療法とか放射線治療とか、何か手立てはありますよね。ねえ、先生」

巻島「…岡本さんの癌のステージでは手術をしても難しいので、岡本さんの希望をお聞きしながら、治療の方向性を決めて…」

岡本「(さえぎって)先生、いいんです。あと何か月か、はっきり言ってくださいよ!」

巻島「…4か月。た、ただし、病状が悪化しなければ、ですが」

岡本「…」

岡本、膝の上の拳を握り締める。

 

○雑居ビル・灰島のオフィス

   柄の悪そうな社員数人がデスクに向かって、電話をかけている。

   応接間のソファに足を広げて座っているのは、灰島道夫(55)、

   その向かいには、ちぢこまっている岡本唄介(33)。

灰島「二千万、返済期限が来週になっちゃいましたねぇ…そろそろ金の目途をつけてくれなきゃあ困るんですけどねえ…あてはあるんでしょう?」

唄介「な、なんとかしますから…頼みますから店だけは…」

   灰島は胸元から一枚の写真を取り出し、唄介に見せる。

   写真にはスーツ姿の岡本が社用車から出てくるところが写されている。

   唄介、写真を灰島から奪い取る。

灰島「お父様ですよねえ、立派な会社を経営してなさる…。今度お顔を拝見しに伺いに

いってもいいですかねえ?」

唄介「父とは絶縁しています…それに、僕のために金を支払いはしませんよ。…私が何とかしますから…」

   唄介、頭を深く下げる。

   灰島は意地悪く笑う。

灰島「かじれる脛はかじっておかないと」

 

○小さなレストラン・外観(夜)

   窓のカーテンの隙間から明かりがもれている。

 

○同・店内(夜)

   片づけられた机と椅子。

   唄介は椅子にこしかけ、頭を抱えている。

   唄介はテーブルに置いてある携帯電話を手に取り、電話をかける。

唄介「…あ、母さん。…久しぶり。…え、ど、どうしたの?」

 

○岡本家・玄関・内外(朝)

   冴枝が玄関のほうに小走りに走っていき、ドアを開ける。

   玄関の外に、唄介が下を向いて立っている。

冴枝「さ、入って。お父さんに会うでしょ?」

唄介「…いや、母さんの顔見にきただけだけ…

俺、当面、海外に行く。パスポート取りにきた」

  唄介は自分の部屋に向かう。

  冴枝はその後ろ姿を悲しい顔で見る。

 

○土手(夕方)

   岡本が土手の階段に腰かけて、ぼーっとしている。

灰島「岡本玄介さんですね」

   岡本が振り返ると、灰島が立っている。

岡本「…どうして私の名前を…」

灰島「二千万。息子さんが踏み倒して海外逃亡なさいましたよ」

岡本「…いま、なんと…」

   灰島は煙草に火をつけ、にたりと笑う。

 

○××総合病院・消化器科の診察室

   巻島のデスクに十二月のカレンダー。

   巻島と岡本が向かい合って座っている。

   岡本は目をぎらぎらさせている。

巻島「…4か月とおみたてした手前いいづらいのですが、…好転なさってますね」

岡本「…死ねなくなってしまったんですよ…毎日金策に追われていて…」

   岡本は深い溜息をつく。

巻島「…息子さんから連絡は…」

   岡本は首を横に振る。

岡本「(ぼそっと)あと、五百万…」

 

○おんぼろの木造アパートの一室(夕方)

   岡本、くたくたになって帰宅する。

岡本「…はあ、金の切れ目が縁の切れ目とはいうが、あの態度は何だ…」

   台所に倒れている冴枝に気が付く岡本。

岡本「おい、母さん、おい!」

  冴枝はぐったりとしている。

 

○雑居ビル・灰島のオフィス(夜)

   灰島が電話に出る。

灰島「これはこれは。…はい、…それは。大変でしたね…はいはい。私も鬼じゃないですからね、それは待ちましょう。はい」

   灰島は電話を切り、考え込む。

 

○丘の上の墓地

   丘の上の桜が満開に咲いている。

   墓石の前で手を合わせている岡本。

岡本「…癌で死ぬはずだった俺が生き延びて、健康そのものだった

お前が先にいくなんてな…」

   灰島がやってくる。

灰島「…岡本さん、お元気そうですね」

岡本「皮肉ですか…ははは、灰島さんの取り立てから解放されましたしね」

   灰島は岡本の隣に来て、墓石に向かって手をあわせる。

灰島「…私には息子がおりましてね」

   岡本は顔をあげる。

灰島「5歳で事故で亡くなりました。…妻とも離婚して、私は金貸し屋になりましてねえ。親を残して先に死ぬのは親不孝といいますが、岡本さんの息子さんは生きているかどうかも分からない、親の墓にも来ない…とんだ親不孝者。ですよね」

岡本「子供の尻をふくのが親の務めとは思っていますが…」

灰島「…ふける尻があるほうが幸せ…なんですかねえ」

   灰島は岡本に軽く頭を下げると、その場を後にする。

   岡本は墓石に向きなおる。

岡本「あいつはずっとそうだったよな、母さん。子供のころから親を泣かせる子供だった…」

   

○××総合病院・消化器科の診察室

   巻島が患者と話している。

巻島「…不思議なこともあるもので、とある末期の癌患者さんがね、余命をどんどん延長されているんですよ…何が起こるかわからないものですね」

   巻島、立ち上がって窓を開ける。

   蝉の声が急に大きくなり、風がそん札室を吹きぬける。

巻島「さあ、治療の話に移りましょうか」

 

○雑居ビル・灰島のオフィス(夜)

   灰島がデスクで書類の整理をしていると、ドアのノックの音がする。

灰島「…誰だ、こんな時間に」

   唄介がそろりとドアを開ける。

灰島「…ご無沙汰ですねえ」

唄介「大変遅くなりましたが…二千万をお返しに参りました」

  唄介は鞄から二千万の札束を取り出す。

  灰島は金に目をくれず、唄介を睨む。

灰島「どこにいた…何をしていた。どうして逃げた」

唄介「…なんとかしたじゃないですか、遅くなりましたけど、ほら、ここに」

灰島「…これは…受け取れませんねえ。半年前にお支払いいただいて

いますから」

唄介「…え…まさか」

   唄介は二千万円に目を落とす。

 

○土手

   土手の階段に腰かけている岡本。

   唄介が岡本を見つけ、近づいてくる。

   岡本、気配を感じて振り向く。

岡本「…おぉ。元気…そうだな」

唄介「…」

岡本「…母さんがな、お前のことをずっと心配していたぞ」

唄介「昔からずっと優しかった…」

岡本「なあ、唄介。不思議だなあ。世話が焼ける息子を持つと長生きになる…」

   唄介はその場に崩れ落ちる。

唄介「…ごめん、ごめん…ごめん」

   岡本、唄介の肩をぽんと叩く。

岡本「…この1年美味いものは何も食べていない…近いうち作りにこい」

   唄介、強く頷く。

岡本「母さんも喜ぶぞ」

   岡本、夏の青い空を仰ぐ。

 

 

20枚シナリオ『卒業』

ワスレナグサ

 

☆人物

里中 瑛美(48)保育士

里中 新(46)瑛美の夫

里中 咲(18)瑛美の娘

里中 保(15)瑛美の息子

藤木 淑子(69)認知症患者

藤木 利恵(44)淑子の娘

植田 吾郎(55)集いの会主催者

田辺 ゆう(28)瑛美の同僚

江藤 由香里(35)瑛美の同僚

野原 小夏(30)保育園の利用者

野原 雅弥(3)園児

  

 

○保育園・園庭(朝)

   保育園の玄関先で、野原小夏(30)と泣きすがる野原雅弥(3)。

   里中瑛美(48)が出てきて、雅弥を抱きあげ、小夏から荷物を受け取る。

瑛美「いってらっしゃーい。まあ君、お友達待ってるからね」

  雅弥を横目に急いで仕事に向かう小夏。

  瑛美は雅弥と保育室に向かう。

 

○保育園・保育室内

   園児たちが昼寝をしている。

   瑛美、田辺ゆう(28)、江藤由香里(35)は事務作業をしている。

ゆう「あれ、ゆう君の連絡帳がない…」

瑛美「あ、もらうの忘れちゃった」

由香里「瑛美さん、最近物忘れ多いけど、大丈夫?」

瑛美「下のこと上の子が受験生で家が大変なのよ。とはいえ、忘れちゃだめだけど」

由香里「シフト調整しますか?」

瑛美「大丈夫よー子供たちの笑顔見てたら元気になっちゃうから」

   瑛美、連絡帳の日付の欄に書き込もうとして黙り込む。

瑛美「…あれ、今日、何日だっけ…」

 

○里中家・リビング(夜)

   里中新(46)、瑛美、里中咲(18)、里中保(15)が夕食を食べてい

   る。

咲「ママ、そこにあった願書どこにしまった?明後日までに出さなきゃなんだけど」

瑛美「え…知らないわよ」

咲「知らないわけないじゃん、大事なものだから目立つとこに置いておこうってそこ

 に」 

保「そういうことはもう自分でしなきゃ」

咲「えらそーな口たたくな、ボケ」

瑛美「ごめんね。探しておく」

咲「最近ママよく忘れるよね、病院とかいかなくて平気?」

瑛美「毎日幼児たちに会って元気にお世話してるんだから、健康そのものよ」

新「…病院、念のために行ったら?」

瑛美「え、そんなに忘れてる?」

新「…この味噌汁、味噌が入ってないぞ…」

保「新しい減塩料理なのかと思ってた」

   新は心配そうに瑛美を見る。

 

○保育園・園庭(朝)

   里中と由香里が立って話している。

里中「本人は…まだ働きたい気持ちがあるようなのですが…とても…」

由香里「今はおうちで療養中なんですか?」

里中「下手に外出させると…迷子になるんです。何度も警察や近所の方にお世話

 に…」

   保育園の玄関の奥で、二人が話しているのを覗いている雅弥。

 

○里中家・台所

   メモ帳に具体的な指示が書かれており、至るところに貼られている。

   咲がメモ帳に何かを書き、冷蔵庫に張り付ける。

   保が台所に顔を覘かせる。

保「…ねえ、ママは?」

咲「パパと『集いの会』だって」

保「…大丈夫かな…ああ、久々にオムライスが食べたい」

咲「贅沢言うな」

 

○市民センター・セミナールーム

   植田吾郎(55)の周りに、円になった椅子に患者が座っている。患者の家

   族はその周りの椅子に座っている。

   瑛美は下を向いて、ハンカチを握っている。

   瑛美の隣に座る藤木淑子(69)は、瑛美のほうを向く。

淑子「大丈夫よ。ここはあなたと同じような人しかいないから。リラックスしてね」

瑛美「あ…はい」

植田「本日は集いの会にお集まりいただき、ありがとうございます。では早速です

 が、ご家族様はこちらに…」

   里中は瑛美のほうを心配そうに見ながら部屋を出る。

   藤木利恵(44)は淑子の肩をぽんと叩く。

利恵「おかあさん、あんまり仕切りすぎちゃだめよ」

淑子「そんなことしないわよっ」

   植田は患者たちに向き合って話し出す。

植田「さあ…まずは自己紹介からにしましょうか」

 

○同・喫茶店(夕方)

   淑子と瑛美が向かい合ってコーヒーを飲んでいる。

淑子「瑛美さんは若いうちから…辛いわね」

瑛美「…あまりに突然で…」

淑子「私はね、孫も抱いたし、いつ死んだっていいくらいだけど…」

瑛美「…毎日…足りなくなっていくんです、生活をするための基本的なことが、些細

 なことが分からなくなって…」

淑子「私は、大事な娘を傷つけていて、しかも、それを覚えていなくて。別の自分が

 いるみたいよ。自分が自分でなくなっていく」

瑛美「…これから認知症は高齢者の5人に1人がなるってニュースで言っていまし

 た。いずれ家族で背負いきれなくなるのでしょうね…」

淑子「私ね、最近思うの。本当の本当にすべてを忘れてしまう前に、ちゃんとお別れ

 を、頑張ってきたこと、覚えているものに卒業をしたいって。この集いでね」

瑛美「卒業…何からのですか…」

淑子「なんだろう…私自身かな。…旅館の女将としての毅然とした私か

 ら…」       

瑛美「長年保育士をしてきたのに、今では子供たちの名前もろくに思い出せない…子

 供たちに歌った童謡を歌ったりリハビリはしていますが…」

淑子「諦めてはだめよ…だって、あなたの家族はあなたに覚えていて欲しいんだも

 の」

瑛美「でも…私はいつか全てを忘れてしまいます」

淑子「…そう、だからこそ、卒業しておかなくちゃいけないのよ」

 

○葬儀場

   葬儀場から傘を差しながら、会場の外に流れ出ていく黒服の人たち。

   その中に、里中と瑛美の姿。

   利恵が二人を追いかけてくる。

利恵「わざわざありがとうございました」

里中「いえ。瑛美が世話になりましたから」

   瑛美は里中のほうを見て、きょとんとする。

利恵「瑛美さん、今日はあいにくの天気の中、ありがとうございました」

瑛美「いえ…主人のお知り合いと聞いて」

利恵「そうですね…」

   里中と利恵は目を合わせる。

利恵「あの、これ、母からです」   

   利恵は里中にDVDのディスクを渡す。

里中「…ありがとうございます」

利恵「ずっと私も母もしんどかった。…これを見ると何故だか…母が愛おしくて」

   涙ぐむ利恵に、瑛美はすっとハンカチを差し出す。

瑛美「仲の良い母娘でいらしたんですね」

 

○里中家・リビング(深夜)

   暗闇の中、テレビの明かりが瑛美の顔を照らす。近くで瑛美を見守る里中。

   テレビの画面には、集いでの淑子の卒業式の様子が流れている。

淑子「明日には私でなくなるかもしれない、だから、今日私は私を卒業します」

   瑛美は微動だせず、画面を見つめる。

淑子「私が私を失っても、傍にいてくれるだろう家族に、利恵に最大の感謝を伝えた

 い」

   瑛美の目から涙がこぼれる。

   里中は瑛美の肩にそっと手を置く。

 

○道

   新緑の中、瑛美と里中、咲、保が歩いている。

   向いから、小夏と雅弥が手を繋いで歩いてくる。

雅弥「あ!えーみせんせ!」

瑛美「……」

里中「あ…えっと…」

   瑛美は屈み、雅弥の顔をじっと見る。

瑛美「…まあ君」

   里中、咲、保はびっくりする。

雅弥「せんせ、ぼく、もうランドセルなの」

瑛美「大きくなったのね。おにいさんね」 

   瑛美はそっと雅弥を抱きしめる。

小夏「…まあくん、いこっか。先生、また」

瑛美「はい、さようなら」

   雅弥は瑛美に手を振りながら去る。

里中「瑛美…」

咲「ママ…覚えてるの?」

瑛美「…咲、保。…新でしょ」

咲「…名前…間違ってない…」

瑛美「間違わないわよ、もう。さあ、帰ってお夕飯にしましょう。特製オムライス」

保「お、俺、大盛りで!」

里中「…俺はなんもいらない。これ以上は…」

   里中の目から涙がこぼれる。

瑛美「…忘れないうちに、帰りましょう」

   瑛美はにっこりと笑って見せる。

   里中は瑛美の手を握る。

里中「…俺たちが代わりに全部覚えてるから…安心していいよ」

   瑛美、咲、保、家に向かって肩を並べて歩いていく。

 

20枚シナリオ『写真』

『見た目は何割』

 

 

☆人物

飯田 道香(25)清掃員

宮崎 央太(32)ヘルスキーパー

内牧 正史(43)形成美容外科

飯田 静江(50)道香の母

通りすがりの若い女性(26)

ウエイター(21)

 

 

○オフィスビル・ロビー

   水色の清掃員の制服に身を包んだ飯田道香(25)が黙々と床掃除をしている。

   床を綺麗に磨き終え、満足そうに息をつく道香。

   派手に着飾った若い女性が、掃除したばかりの床の上をつかつかと歩く。

道香「あ…」

   女性は振り返り、くすっと笑う。

女性「…なんだ、おばさんかと思った…こんな仕事しなきゃいけないなんて可哀想」

   女性はそう呟き、去っていく。

   道香は自分の制服を見下ろし、そして手で顔を触る。

道香「ほっといてよ…」

   道香はまた、せっせと床掃除を始める。

 

○小さなアパート・1Kの部屋(夜)

   ベッドの上に寝転んでスマホの画面を見ている道香。

   婚活サイトのサイト、受信箱の画面、受信数は0となっている。

   母からの着信画面。

   道香はスマホの画面を見つめて固まっているが、諦め、電話に出る。

静江(声)「いい人見つかったと?」

道香「そんなに早く見つかったら苦労せん」

静江(声)「あんた、今年25?母さんがあんたを産んだ年っちゃんねー。東京で結婚相手見つからんなら、福岡に帰ってきいよ」

道香「こっちじゃ、25で結婚しとらん人ばいっぱいおるったい。また、かけるけん」

   道香はいきなり電話を切る。

 

○道香の実家・居間(夜)

   携帯電話に話しかけている飯田静江  (50)。

静江「道香、女は見た目じゃないよ、愛嬌よ」

   静江、電話が切られていることに気が付き、溜息をつく。

 

○形成美容外科クリニック・待合室

   白と水色でr統一されたシンプルな待合室に、ぽつんと座っている道香。

   マガジンラックの中にある本に目がとまる。本のタイトルは『見た目は9割』。

道香「…」

院内アナウンス(声)「6番の番号をお持ちの方、診察室へとお進みください」

  道香は立ち上がり、診察室に向かう。

 

○同・診察室

   白衣に身を包んでいる内牧正史(43)、整った顔、肌はぷるっとしている。

   まじまじと内牧を見ている道香。

   内牧はこめかみを指でかきながら、

内牧「…見た目を良くしても幸せになれると思わないでね。そこは比例しないから。で

も、詐欺師がスーツを着るように、見た目がいいと仕事がうまくいったり、得する

ことは断然に増えると思うよ」

道香「…幸せになりたいんです。結婚したい んです」

内牧「…そんなに変えたいなら、やるか。で、どこからいじる?」

   内牧は道香に手鏡を差し出す。

   道香は自分の顔をじっと見つめる。

 

○オフィスビル・ロビー

   鼻歌を口ずさみながら窓掃除をしている道香。窓ガラスに映る自分の顔、二重の

   目を見て、笑顔になる。

 

○小さなアパート・1Kの部屋(夜)

   カップラーメンをすすっている道香。

   机の上のスマホの画面に、通知が届き、道香はスマホを手に取って見る。

   婚活サイトの受信箱、『央太』からのメールが並んでいる。

   央太のメール文面。

  『今日は風が気持ちいい一日でしたね。道香さんとメールを始めてから毎日が楽し

   く、仕事にも張り合いが出ます』

   道香はスマホを見て、にやける。

   道香のメール文面

   『私もです。メールしているだけで幸せです。でも最近お会いしたい気持ちが強

   くなってきました…実は観に行きたい映画があるのですが、ご一緒してください

   ませんか。私は週末なら、いつでも空けられます』

   道香は思い切って、送信ボタンを押す。

道香「全然誘われないのに女の私から誘っちゃった…軽い女だと思ってるかな…」

  道香は部屋をうろうろとする。

  スマホに通知が来て、道香は飛びつく。

   央太からのメール文面。

   『実は僕もお会いしたかったんです。お誘い有難う。来週の土曜日、日比谷の映

   画館ではいかがでしょうか。邦画か字幕付の洋画が嬉しいです…』

   道香、ぎゅっとスマホを抱きしめ笑う。

 

○日比谷・映画館・チケット売り場

   花柄のワンピースに身を包んだ道香が腕時計を気にしながら立っている。

   サングラスをかけた宮崎央太(32)がやってくる。そして、2メートル程離れ

   たところから道香に声をかける。

央太「…道香さんでしょうか。央太です」

道香「あ、はい、…初めまして」

央太「会えて嬉しいです。素敵な声ですね」

   道香は恥ずかしくなり、下を向く。

道香「…あ、チケット取っておきました。『悲しみを超えて』にしちゃったんですけど」

央太「観たかったやつです。行きましょう」

   央太は道香を追い越し、颯爽と映画館に歩いていく。

道香「あ、央太さん、飲み物とか買ってかなくてもいいですか?」

央太「え?…あ、売店で、ですか」

道香「要らないんだったら良いんですけど」

央太「…僕は大丈夫です」

  

○喫茶店

   道香と央太が向かい合って座っている。

   水をやたらと飲んでいる二人。

   ウエイターがやってきて注文を聞く。

道香「…えっと…デミグラスオムライス」

央太「…ビーフシチューください」

ウエイター「…?もう一度いいですか?」

   道香はメニューに目を通す。

道香「…あ、ないですね。なくなったのかな」

央太「…あ…じゃあ、僕も彼女と同じので」

   ウエイトレスが軽く頭を下げて、去る。

   央太は黙り込んでいる。

道香「央太さん…?」

央太「…やっぱりうまくいかないな」

道香「…え、どうしたんですか?」

   央太は立ち上がると道香に頭を下げる。

央太「僕はあなたとお付き合いして、結婚までできる男じゃないんです。忘れてください。申し訳ない」

   道香は呆然とし、声が出せないでいる。

   央太は店から出ていく。

 

○大手金融会社・医療室

   男性社員がベッドで寝ており、央太が背中にマッサージを施している。

央太「…施術は以上となります」

   男性社員は「ありがとう」とお礼を言い、部屋を出ていく。

   央太は静かに溜息をつく。

 

○小さなアパート・1Kの部屋(夜)

   ベッドに寝転び、天井を見つめている

   道香。頭の上に置いてあるスマホが鳴る。道香はスマホの画面を見て驚き、

   電話に出る。

央太(声)「道香さん…この前はごめんなさい」

道香「…何があったんですか…私、何かしましたか?」

央太(声)「…僕が嘘に耐えられなくなったんです」

道香「…もしかして、私の前の顔を知ってるんですか?このサイトで載せてた…それで」

央太(声)「プロフィール写真のことですか?…いや、道香さんの顔ではなくて…」

道香「…そんなに整形っていけないことでしょうか…でも私がプロフィール写真を変えたら、央太さんは初めて連絡をくれて…」

央太(声)「違います、見えないんです!…道香さんの顔…僕は視覚障碍者です」

道香「…え?」

央太(声)「隠し通せると思って、行きつけの映画館や喫茶店にして貰ったのに…やはり嘘をついて道香さんに期待させている自分が無理になってしまったんです…本当にごめんなさい…」

道香「…そんな…」

央太(声)「短い間だったけどありがとう」

   道香は耳にスマホを押し当てたまま涙を流す。

 

○日比谷・映画館・チケット売り場

   央太がチケットを買っている。

   ふと、央太が振り返ると、道香が笑顔で立っている。

道香「あの、分かりますか?」

央太「…当たり前です。どうしてここに」

道香「…色々考えたんですけど…見た目とか色々な事情を超えて…一緒に生きたいって思える人と出会えたなら、諦めたくないんです」

央太「…また会えるんじゃないかって…僕があれから何回ここに来ていたか…詳しくお話してもいいですか?」

   道香と央太は顔を見合わせて笑う。

央太「とりあえず、映画を見ましょうか」

   央太は道香の手を取る。道香も強く

   央太の手を握り返して微笑む。